仕組まれた罠
翌日の土曜日、華と雛は公園で一緒に過ごしていた。陽太は仕事である。
「あ! よかった。華さんと雛ちゃん、いたー!」と仁の声が前方から聴こえてきて、華と雛は前を見る。
「あ、お兄ちゃん!」
雛が仁に駆け寄る。
「こんにちは。昨日はありがとうございました」
華は仁にお礼を言う。
「全然気にしなくていいんですよ。あの、今、取引先との会食が急遽キャンセルになっちゃって、先払いで予約していたレストランがあるんですけど、一人で食べるのもあれなんで、3人で一緒に行きません?」
「え?」
仁の突然の誘いに華は戸惑う。
「雛ちゃんは美味しい食べ物、今から食べたい?」
仁は雛に笑顔で聞く。
「食べたい!」
雛は元気よく言う。
「あ・・・」
華は言葉に詰まる。
・・・どうしよう。男の人と食事って、陽太はどう思うのかな。でも、昨日助けてもらったし断りにくいな・・・それに雛もいるし、3人でお昼ご飯だけなら大丈夫よね・・・。
「本当にいいんですか?」
首を傾げる華。
「もちろんです」
仁はにっこりと笑う。
そして、3人は高級レストランに行き、料理を食べる。
「美味しいー」
雛は大喜びだ。
「よかったー、雛ちゃんに喜んでもらえて。華さんはどうですか?」
「本当に美味しいです」
「よかったー。どんどん食べちゃってくださいね」
仁は笑う。
レストランで3人は雛を中心にして楽しく会話する。
「本当に楽しいなー。2人に来てもらえなかったら、今頃一人で寂しく食事してるとこです」
「今日、全部予定がなくなっちゃって、暇なんですよー。この後、水族館にみんなで行きません? なんかイベントやってるらしいですよ。もちろん、チケット代は俺が支払いますので」
「行きたい!」
雛は身を乗り出す。
「そんな、わるいです」
華は慌てる。
「全然です。むしろ、お願いします。2人を見てると、日々仕事で疲れてる心が癒されるんですよー。付き合っていただければうれしいです」
仁は頼むような表情になる。
「そうですか?」
華は困った顔をする。
3人は食事を終え、レストランを出て、水族館に行く。
・・・これ、大丈夫よね? 浮気とかにならないわよね?・・・2人でだったらアウトだけど、雛もいるし、日が出てる時間帯だし・・・それにもうレストランで、3人で食事しちゃってるし・・・。
水族館の中で華は純粋に楽しむことができなかった。
雛は仁に抱き上げられたりして、笑いながら魚を眺めたりしている。
そして、3人は15時ごろに水族館を出る。
「この先に美味しいお餅のお店があるんです。行きましょう」
仁は自然な流れで提案する。
「行くー!」と雛は大きな声で言う。
「あの、そろそろ帰らないと・・・」
華はこのまま仁のペースで日が落ちるまで一緒に行動することになる可能性に懸念を抱いていた。
「20分くらいで着きます、これが最後です。どうしても2人に食べて欲しくて」
仁はお願いするように言う。
「じゃあ」
華はあまり気が進まなかったが、行くことにする。
「ありがとうございます! 雛ちゃん、危ないから手をつなごっか!」
「うん!」
雛は笑顔で仁の手をにぎる。
3人で固まって10分くらい歩くと、改装中の建物が見え、部品の落下防止を兼ねた鉄の足場台の下を3人は通る。
次の瞬間、「危ない」と上から声が聴こえ、鉄と鉄がぶつかり合うような金属音が上から聴こえてきた。
「伏せて」と仁は言い、華をしゃがませ、雛と華を自分が覆うような体勢をとる。
「きゃっ・・・」
華は叫び、雛を抱きしめて覆うような体勢になる。
金属音が止まり、上を恐る恐る華と雛は見上げる。
すると、仁が2人を覆う体勢で上を先に見上げている姿を華と雛は見る。
「申し訳ありません! お怪我はありませんか!」と上から大きな声がする。
「華さん、雛ちゃん、こっちに」
仁は鉄の足場のある場所を華と雛と共に通り抜け、改装工事中の建物から少し離れた場所に移動する。
「華さん、雛ちゃん、大丈夫ですか? ケガは?」
仁は華と雛の顔を見る。
「私は大丈夫です」
華は雛がケガしてないか見る。
「大丈夫」
雛は不安そうに言う。
ヘルメットをかぶった男がこちらに来て「申し訳ありません! 大丈夫ですか?」と声をかける。
「怪我はありませんが、気を付けてください!」
仁は真剣な表情と声で男に注意する。
「申し訳ございません!」
男は頭を下げる。
仁はため息をつく。
「行こっか。華さん、雛ちゃん」
「ええ」と華は言い、「うん」と雛は言う。
仁はしゃがんで雛の頭に手をのせる。
「怖い思いさせちゃって、ごめんね」
「うん」
雛は不安そうな表情でうなずく。
「すいません。俺がお店に行こうって言ったばかりに、こんなことに巻き込んじゃって」
仁は華に申し訳ないという表情を向ける。
「いえ、仁さんのせいじゃないですよ」
華は首を振る。
そして、3人は大福屋に着く。
仁は店員にあらかじめ3万円を渡しておき、雛と華が注文した大福を渡してほしいと話す。
1つ、500円?・・・高!
華はフルーツ大福を見て思う。
「好きなだけ食べてね」
仁は雛の顔を見る。
「やったー!」
雛は喜び、ガラス越しに展示されているフルーツ大福を次々と指差していき、店員がその大福を雛に渡す。
「華さんも食べてください」
仁は全種類の大福が並んだ箱を、華のいるテーブルに置く。
「ありがとうございます」
華は申し訳なさそうな顔をして、フルーツ大福を手に取って食べる。
3人は話しながら美味しく大福餅を食べる。
大福を食べ終わり、3人はお店から出る。
雛は食べ過ぎて、「おなかいっぱーい」とよたよた歩く。
「お兄ちゃんがおんぶしてあげよっか」
仁はしゃがんでおぶるポーズをとる。
「うん!」
雛は仁にのっかる。
「お兄ちゃん、また今度行きたい!」
仁におぶられている雛は笑顔で言う。
「雛!」
華はたしなめるように言う。
「いいよ! 雛ちゃんが行きたいなら、また行こう!」
仁は笑う。
「やったー!」
雛は喜ぶ。
「今度はパパも一緒がいい!」
その言葉にドキッとする華。
雛は無邪気な笑顔を浮かべている。
「・・・・・そうだね。今度はお父さんも一緒に4人で行けたらいいね」
仁は歩きながら笑う。
「うん!」
雛はうなずく。
仁の言葉を聞き、どこかほっとする華。
・・・でも、それってどうなの? 陽太が奢られるのは何か違う気がする・・・それに陽太はたぶん奢られたがらないだろうなあ。
3人が公園の近くに戻ったころには夕方になっており、華は仁にお礼を言って雛と共に家へに向かう。
家への帰り道、華と雛は今日の出来事を話す。
「お兄ちゃんが守ってくれた」
雛は嬉しそうに話す。
「そうね。危なかったわね」
華は微笑む。
仁が2人を守ろうとする姿を華は思い出す。
・・・身を挺して守ってくれたのよね。いい人だわ。
仁が拠点にもどると、冷夏は仕事から帰っていた。
「どうだったの? おっさんクレームデート計画、上手くいった?」
冷夏は小さく笑う。
「ああ、上手くいったよ」
仁は携帯を取り出して番号を押す。
「じゃあ、ナイトのように2人の前で演じれたのね」
冷夏はくすくすと笑う。
「まあね」
仁は携帯を耳に当てた。
「あ、東さんですか? 昨日に続き、今日もばっちりでした。また人材派遣を来月依頼することになるので、よろしくお願いします」
仁は電話を切った。




