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3

2の反省

・改行


2のあらすじ

剣闘士の刑、次はボス戦、やばめ


3


 剣闘士の刑、7日目の朝。


 檻に差し込む日に照らされて、私は目を覚ました。疲労は依然そのままだが、精神はやはり平穏のままだった。これが諦めの感覚なのか。


 それから食事を取り、少ししてからコロッセオの舞台へ移動する。


 今日の対戦相手はゴブリンだった。


 そんな相手かと思うかもしれないが、外見の肉付きからして特殊個体で間違いないだろう。まぁそれでも、ボスとしたら最弱だろうけど。


 開始の合図とともに私は突進した。


 今更粘ろうとか、辛勝で命を繋ごうとか思わない。ただ、純粋に剣を振り上げて下す、相手を見てガードをする。この一連の駆け引きが愛おしい。


 なぜ今まで気づかなかったのか。「強くならなくてはならない」と肩をこわばらせて尚早に駆られた日々は、それはつまらなかった。


 それが一変して、何も考えずにただ体を動かし、相手との駆け引きをする戦いは、私を自由へと解き放つ。


 瞬間。ゴブリンが振り下ろしてきた剣をこちらの剣で受けつつ、受けた勢いで剣先を後方に回してから、カウンターでこちらも振り下ろす。


 単純な鍛錬不足でスピードは圧倒的に向こうが上だったから、一刀両断とはいかなかったが、ゴブリンの肩から下10センチぐらいの手傷は負わせられた。


 爽快だ。


 こうした攻防を何度もこなしているうちに、段々感覚も鋭くなっていく。


 目でもゴブリンの動きは容易に捉えることができた。しかし終わりは突然やってくる。


 何度もやっている通りに、スキをついて私は突きを繰り出した。しかしとうに体は限界を迎えていた。突きが相手に届く寸前で 一瞬の硬直があり、私はその場で倒れた。


 もちろんゴブリンはそこで戦いをやめたりしない。


 ゴブリンの足って3本指なんだなぁと、ぼやける視界に映る光景を見た。


 「ズブリ」という音と一緒に、背中から胸にかけて一瞬激痛が走り、視界はブラックアウトした。




 覚醒して目を開けると、懐かしさを感じる天井があった。


「ん」


 戸惑っているような寝起きのような幼い声が自分の口から洩れる。


 ……。


 …。


「コンコン」

「フィル様、起きておられますか」


「あっ」


 かつて側付きだったメイドのメアリーが部屋に入ってきて、目が合った瞬間、なぜか涙が出てきた。


「わっ、申し訳ありません、タイミングが悪かったでしょうか」


「違うのメアリー、大丈夫、ありがとう」


 メアリーは私が震えていたのに気づいて、側に来て優しく抱きしめてくれた。


 柔らかな腕の中で、私は事態がどうなっているのかを悟った。


 ここは昔、私が過ごしていた部屋。そして側付きだったメアリー。私自身の幼い声。


 神様、どういうつもりですか。


 コロッセオでゴブリンに串刺しにされたはずの私は、過去に戻った。





 まずは剣を振ろう。


 コロッセオでの死闘で私は変わった。一言で言えば脳筋になったと言えよう。


 過去に戻って人心地ついてから、私は無性に剣が握りたくなった。まだ柔らかく小さな自身の手を見つめていると、無意識にグーパーをして剣の握りを作る。


 剣をよこせよオラぁ。


 自分の手から、およそ幼児の――それも女児だから幼女の――無邪気さとは別種の、邪な気配すらある欲望を感じる。私はどうなってしまったのか。


 そういうわけでメアリーに「剣の訓練をする」とドヤ顔で宣言し、朝ご飯とかもろもろをすっ飛ばして、私は庭に来た。


「スーーーーーーーッ」


 息を吸い込んで、剣への好奇心が一層高まるのが分かる。


「私の戦いはこれからだあああ」


 気合十分に、だけど繊細に、昔教わった通りの基本に忠実な素振りを開始するのだった。


 私は知る由もなかったが、木陰から忍んでこちらを見ている者があった。その瞳は、揺れていた。

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