空白
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私の本当の名は、ユークリッド = セフィリア。ユークリッド家の長女だ。
しかしこの名は誰も知らない。いや、正確には「知らなかった」と言うべきか。このおぞましい日々が始まる迄は。
–
10年前。
「イヤァァァーーーッ!」
私は剣を振り上げて、指南役に襲い掛かる。
ゴッ……。
「…」
「痛あああああああっあああああああああああああ」
剣を振り下ろす暇さえ無く、胴に一閃入れられた。なんか変な音が聞こえた気がする。そして痛すぎ。
「切りかかる時に、鳥の首を絞めたような覇気の無い声を出しているから簡単にやられるんですよ」
「声は関係ないでしょおおおおおお」
「まぁそんなことはどうでもいいですが」
「いやっそんなことって」
指南役はいつもそうだ。真面目に取り合ってはくれない。私は弱いから。
「お嬢、…失礼、貴殿が弱いことには変わりないでしょう」
そして、いつものように止めの一言を残して去っていく。
私はこのユークリッド侯爵家に長女として生まれた。しかし今は「長男」ということになっている。また、王家への届け出でも「ユークリッド = フィル」として、法的に見れば長男である。
こうなったのも自然な流れなのかもしれない。いや、詳しい事情やこんなことして良いのかとかいう相場観は分からないが、私の周りにある空気では是なようだ。
細かい詳細は省いて事実のみを言うと、私を産んだ後に母は死んだ。そして母の死を境に、私の扱いは180度変わったということだ。性別の壁を超えるぐらいに。
長男はおらず、また、父は再婚しないことを公言していたため、家の存続のために私が長男になったのだ。
――不可解なのは養子は取らない(もしくは取れない?)ことだ。一度なぜかと直談判したが、「忙しい」と切って捨てられ言外に反論は許さないという圧を受けてから、この決定は覆らないことだけははっきりと分かった。
そういう訳で、私は長男としての教育を施されるというわけだ。
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数日前。
今思えばそこそこの努力もしていたし、充実していたのかもしれない。ただとうとうその瞬間が来たのだ。
私が女だとバレたのだ。
侯爵家のほんの一握りしか知らないことだったが、今では王家をはじめ、国中の貴族に広く知られてしまった。
なぜかと言えば、私の剣技がお粗末だったからだ。
いやもっと直接的に言えば、参加必須の剣技大会で、あろうことか散々にいたぶられ、衆目の前で素肌を晒すことになったのだ。そこまでになってしまえば、そりゃあ侯爵家といえど、観客全ての目を潰して回ることなどできないだろう。
それでどうなったか。
結局のところ、侯爵家としては私への擁護が何もないようなのだ。……っ。
私はそろそろ死ぬだろう。
身分詐称というのは私が当初思っていたものよりかなり重大な違反だったようだ。貴族というのは名声や体裁を重んじるが、嘘は重罪らしい。それも王家への虚偽申告だ。
「はっ、ははは」
ここ数日、笑いながら泣くという特技を習得した。すごいだろう。さて、あと何日生き延びられるだろうか。
私はボロボロになった手足をさすりながら、しきりに上半身を前後させていた。




