氷の夢
それは人魚の恋に似ていた。
炭酸水で満たされた世界の底で、頭上へ浮き上がっていく泡の子達を、ただボーッと眺めた。私がまとう泡の子達も、いずれ私を離れて天空を目指し飛び立っていく。みんな炭酸水の世界を離れて天空を目指すけれど、そこに何があるかわからない。
「私には翼がないから」
泡の子達に、どうして上を目指さないのか聞かれたら、いつも曖昧に笑うしかなかった。夢いっぱいに上を目指す子達を見送るのは、ちょっぴり寂しいけれど、笑って見送ることは、飛べない私なりの責務だと自負していた。
ある日、少しだけ長生きな泡の子が、私にひっついて言ってきた。
「ウソつき」
大人を咎める凛とした声に、じんわりと胸が切なくなる。
「どうして、嘘つきだと思うの?」
泡の子は持っている知識を自慢するように、得意気に話した。
「氷にも翼があって、水の中を飛べるって知ってるもん」
予想外のことを言われて、ビックリしてしまう。
「そうなの? 私、知らなかった」
「えー。ボクでも知ってるのに?」
教えてあげられたことが嬉しかったのか、急に明るい声になる。
「お姉ちゃんも、いつか天空を目指しなよ」
それだけ言って、泡の子は光を浴びながら天空に飛び立ってしまった。
泡の子の命は短い。翼があることは知ってても私が飛べない理由を知らない。炭酸水の世界に放り込まれて、一番下に押さえ付けられた氷は、世界が飲み込まれてもグラスの底から動けないのに。
炭酸水の世界の底で、さっき旅立った泡の子を想い、誰にも聞かれない言葉をもらす。
「置いていかないで」
700字数以内。「それは人魚の恋に似ていた」「置いていかないで」を条件に書いた短編作品です。診断メーカーで表示された結果を参考に50分で書きました。小説家になろうサイトでの投稿の仕方を理解するためのテスト投稿も兼ねています。