大蛇さんくださいな
短いお話です。
赤いハート型のポシェットを肩からかけた女の子が、鼻歌を歌いながら森の中を歩いています。
「大蛇さん、くださいな。くださいなったらくださいな」
横に倒れている丸太をゆっくりまたいで、どんどん歩いていきます。
「くださいな。大蛇さん、くださいな」
女の子は一体何がほしいのでしょうか。枝の上にとまっている小鳥が首をかしげ、うさぎが茂みの中から顔をだします。
「大蛇さん、大蛇さん」
「一体私に、何の用かな?」
木の陰から顔を見せた大蛇が、ちろちろと赤い舌を見せます。まわりにいた動物たちはびっくりして逃げ出しましたが、女の子は自分の頭の上からのぞきこんでくる大蛇に、口をあんぐりと開けました。
「大蛇さん、大きいねぇ」
感心したような女の子に、大蛇は気分を良くしました。
「昨日、脱皮したばかりだがな。まだまだ大きくなるぞ。」
顎をそらして得意気に、上を向く大蛇に女の子は瞳をキラキラさせました。
「くださいな」
「ん?」
「大蛇さんの脱け殻くださいな」
女の子は赤いハート型のポシェットから、おばあちゃんが布の切れ端で作った小さなおサイフを取り出しました。
「おサイフに入れるからくださいな」
にっこり笑う女の子に少し困ったような顔をしながらも、大蛇は自分の脱け殻がある場所へと案内します。
大蛇の脱け殻を見た女の子は、目をまんまるにしてため息をつきました。
「これじゃ、入らないね」
大蛇さんは大きいねぇとしょんぼり肩を落とす女の子のそばで、大蛇は大きな体を地面にぴたりとつけて、はいまわりました。
女の子がおサイフをポシェットに入れて帰ろうとすると、大蛇がむくりと起き上がりました。
「大蛇じゃないが、蛇の脱け殻がここにもある」
これなら、女の子の持つおサイフにも入るだろうと言うので、女の子は大蛇のそばまで歩いていきました。
大蛇が顔を下に向けて、草をよけ女の子が見えやすいようにしました。
「小さいね」
「これじゃダメなのか?」
女の子は、小さな蛇の脱け殻をじっと見つめています。お日様にあたって、金色にぴかぴか光るので少しわくわくしてきました。
もう一度ポシェットからおサイフを取り出して、金色に光る小さな蛇の脱け殻をおサイフの中に入れました。
女の子はサイフを開けたり閉めたりして、蛇の脱け殻があるのを確認しました。
「蛇の脱け殻をサイフに入れてどうするんだ?」
「おサイフに蛇の脱け殻を入れるとね、お金が集まってくるの」
「お金?」
「大金持ちになれるんだって」
大きく両腕を広げる女の子に、大蛇は人間は変なことを考えるものだと感心しました。
読んでくださりありがとうございます。