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短編(超短編)

h.i.g

作者: 芝田 弦也

吐き出した息が空気中で熱を奪われ白い蒸気として立ち昇っていく、

雪がちらつき始めた真夜中の出来事。

僕らは特にいくあてもなく、静まり返った商店街をふらふら徘徊していた。

街灯は一仕事を終えたのか沈黙を貫き、

時たま素通りしていく車のヘッドライトが眠れる街に仄かな光を浴びせる。

ひっそりとしたこの瞬間をゆっくりと時が刻んでいく。


頭を上げれば、厚い雲に隠れてた月が少しだけを顔を覗かせて薄笑いを浮かべている。

その微笑に照らされて輝く、小さな氷の結晶がきらきらと存在を目一杯誇示していた。

アスファルトに触れた瞬間に溶けて消えていく運命だとも知らずに。


僕の耳に入ってくる物は、僕らが刻む足音と名残惜しそうに響く残響音だけ。

他の雑音が混じることのない、闇夜の時。

確かに僕らは、此所に足跡を刻んでいった。


薄暗い世界に、ぼんやりとした光を垂れ流し続ける長方形の筐体が視界に入り込んできた。

感覚が鈍くなってきた、かじかんだ手で眠る事を知らない筐体に命を吹き込む。

すると赤い小さなランプが一斉に光りだし、私を押して押してと呼びかけてくる。

冷えた手を温められればどれでも構わない。

だからぱっと目に付いた物を選択して、筐体の口から差し出された物を手に取り、

両手で包み込んで温もりを感じてた。


些細な幸福を噛みしめていたら、誰かが朝は来ないと呟いた。


反射的に、声が聞こえた方に振り向く。

声を出したと思しき仲間の空気中には、吐き出された息が薄くなりながら上空へと昇ってゆく。

誰が口にしたのか直ぐ分かれど、意味が分からなかった。


ダウンジャケットに手を突っ込んで、

どこか遠くを見据えている姿を目の当たりにしたら、問い質すのを躊躇ってしまった。

一体、君の目には何が映り込んでいるんだろう……。

僕は視線を落として、手にしているコーンポタージュと見比べてみたけど何も分からない。

ここに確かな温もりが在るというのに。

君は確かに、呟いた。


誰もさっきの発言には興味を示さず、ただ聞き流してまた夜道を歩き連ねる。

眠れる街に敬意を表する様に誰も彼もが口を閉ざして。

これから行き着く先が何処なのか、今の僕には判らない。

行く場所なんて決めてないから、ただ時間を食いつぶして歩数を重ねていくだけだ。

だから僕らの歩みは止まないし、吐く息は直ぐ熱を失って消えるだけ。

一つ確かな事は、この缶はもう冷えてしまったって事だ。

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