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超能力者に愛を求めて  作者: 広野 氏子
第1章 LoreleiとSchrödinger
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Chord7: 邂逅

「……あの小娘はどこだ。」


いつか聞いた低く迫力のある声だった。


「おい、坊主。……あの小娘はどこだと聞いている。」


いつか見た黒い背広、ネクタイ、サングラス、オールバックの男だった。


「オレは、知らない。」


その迫力に気圧されて拓真は後退りしながらやっとの思いで答えた。


「……たかが何もできない人間が、あの小娘を庇うのか?」

「庇うも何も、オレは何も知らない。」


レオンハルト、と呼ばれていた男は、ゆっくり、ただゆっくりと近づいてくる。


「……そうか、残念だ。」


煙草を咥え、煙を吐きながら、レオンハルトは拓真に突進した。


(……!?)


一瞬の出来事で拓真は何が起こったのかわからなかった。わかる前にすでに拓真の体はそのまま後ろに吹き飛んでいた。


「がっ……はっ……」


吹き飛んで宙に浮いていた体が地面に接触し、そのまま転がった。

全身に痣ができ、口の中は血の味でいっぱいになった。制服はところどころが破け、もはや使い物にならないだろう。


(オレは……死ぬのか……。)


そう頭の中で考え始めたときのことだった。



「ハデス!!」


地面に伏して意識も朦朧としていた中、拓真の視線にはしなやかな女性の足が見えていた。

女性は見慣れたスカート、黒いハイソックスを履いており、足元は黄金色に輝いていた。


「まったく……。心配になって戻ってきてみれば、私の忠告も忘れてもう厄介なことになっているじゃありませんか。いっそのこと死んでください。」


そこには、かねてより幼馴染だった、小さい頃はいつも隣りにいて笑っていた、昔からお嬢様口調の変わらない女、中河阿澄が非現実な光を纏って、腕を組んで堂々と拓真とレオンハルトの間に屹立していた。


「なか……がわ……?」


中河の前には何やら黒いものが見えた。それはこの世のものとは思えない雰囲気を醸し出していた。


[いやー久しぶりに召喚されましたなー。あすみん何かあったのかい?]

「その呼び方やめてくださいます?」


その黒いこの世ならざるものは見た目に反して非常に陽気な声色だが、その顔には禍々しい髑髏の面が見えている。ボロボロの真っ黒なローブを着てフードもかぶっており、手には中河の身長の二倍はあると思われる巨大な鎌を軽々と持っている。


「目の前にいるあの黒いスーツの男よ。あいつは私の脅威になりますわ。やってちょうだいな。」

[ふむー。いつぶりかの外界、すぐに帰るのは気が引けますからね―……。せいぜい生き急いでくださいね……。]


そのハデスと呼ばれた見た目通りの死神は陽気な声でレオンハルトに宣戦布告し、その手の鎌を振り回した。


「ちっ……。」


レオンハルトは咥えていた煙草を落として踏み潰し、戦闘態勢に入った。


「そして人はいなくなる。」


中河がそう言うと、白い光が中河の足下から徐々に広域に広がっていった。そしてそのまま拓真の元へ歩み寄る。


「大丈夫ですか!?全く、言ったそばからこんな目に遭うだなんて、本当に私の話を聞いていたのですか?」


中河は拓真を抱き起こし、心配そうに拓真の顔を見下ろしていた。


「中河……。ごめん、ありがとう。オレは大丈夫だ。」


拓真は自分の力で立ち上がろうとしたが、うまくいかずによろけてしまい、中河に抱きつく形になってしまった。


「え……、ちょっと……。やだ破廉恥な、こんな事してる場合じゃないでしょ。」


中河は顔を赤くしながらも、どけるようなことはせず、拓真の体重を優しく受け止めていた。


「悪いな、体が動かないんだ。ほんと、情けねえよ。たった一回、体当りされただけで吹っ飛ばされて、もう体の自由がきかないんだよ……。」

「……。」


中河は拓真の口から初めて聞いた弱音に少し驚愕し、何も言うことができなかった。


「すぐに……、終わらせます。ここで待っていてください。」


中河はそれだけ言い残して拓真を壁にもたれかからせ、ハデスのところへ戻った。


「ハデス、やりますわよ。久しぶりで戦い方を忘れていないですわよね?」

[とんでもなーい。長い間ずっと戦いたくて、自らの手で死を運びたくてウズウズしていたんですよー?]


ハデスはそう言い残して音を立てずにふわりと宙に浮いた。


「黄泉の大鎌の威力、見せて頂戴!!」


中河の掛声と同時にハデスはレオンハルト向けて一直線に突撃した。


[あーらよっと!!]


素頓狂な声に反してその振りかざした巨大な鎌を薙ぎ回した時に生じる衝撃がその凄まじさを物語っている。

レオンハルトはこれをあの時、ローレライと対峙した時と同じようにすんでのところで回避している。しかし、あの時と違ってその顔には余裕が感じられなかった。


「くっ……。」


苦虫を噛み潰したような歪んだ表情をしながらギリギリのところで何度も降りかかる斬撃をかろうじて避ける。


[この鎌は『冥鎌めいれん』と言いましてね……。相手の体に傷一つつけることなく魂だけ持ち去ることができる特殊な鎌なんですよ。あなたの魂は、一体、どんなっ!色をっ!しているんでしょうねえっ!!]


一言一言紡ぎながら、鎌を振り回すハデスのその姿は、所謂死の近い老人の魂を優しく冥府へ連れて行く際のそれとは全く違い、強引に、その魂を引きずり出そうとする、まさに怖い死神そのものである。


(このままでは……。)


レオンハルトは敗北する恐れから、あることを決意した。


その決意とともにレオンハルトの体から滲むように、ゆっくりと赤い、紅い、紅黒いオーラが現出した。


[……!!]

「あれは……!!」


ハデスは攻撃をやめて距離を取り、中河を護るような態勢をとった。


「……この血を捧ぐ、我が鮮血に力を与え給え。『鮮血の弾(スカーレットブレッド)』!!」


レオンハルトがそう呟き、胸ポケットから取り出した小さいナイフで自分の手のひらを斬り、溢れ出るその血を強く握りしめた。



レオンハルトは銃を手にしていた。黒い銃を手にしていた。その銃身は長く、ところどころに紅い模様が施されていた。


「この銃は俺の血を吸って強くなる。あまり俺をナメるなよ。」


ドスの利いたその声がさらに低く、重みを感じる怒りのこもった声に変わっていた。


「……行くぞ。Si vis pacem, para bellum……」


レオンハルトがそうつぶやくと同時に銃の紅い模様が鈍く光った。レオンハルトはすばやく銃口をハデスに向け、引き金を引いた。


ドンガン、ドンガンゴンと発砲音がする。二発撃った弾は一直線にハデス向けて空を切って直進する。


ハデスは難なくこれらを鎌で弾き飛ばす。


[こんなものを使ったところで変わらないよ?]


薬莢の焼ける匂いが周りに広がる。レオンハルトは表情一つ変えずに再度三発撃つ。


これもやはりハデスは鎌の一振りだけで軽く弾の軌道を変えた。


[!?]


ハデスは鎌を振ったその先にレオンハルトがいないことに気づいた。しかし、気づいたときにはすでに遅く、振り返るとそこには中河のこめかみに銃口を突きつけるレオンハルトがそこにいた。


「……終わりだ。」

「っ……。」


中河は何も言うことができず動くこともできないでいた。


「なか……がわ……。」


拓真は何もできない、動くこともできない自分を呪った。自分をこのような事態に巻き込んだ、中河を死の恐怖に晒すこの世界を呪い、恨んだ。


(なんで、どうしてこんな目に……。オレが一体何をしたって言うんだよ……。くそっ……。)


すべてを諦めかけたその時だった。


「ようレオン、遅いと思ったらこんなところで油を売ってたのか?そんな雑魚どもにかまってねえではやくあのガキを探すぞ。」


もう一人、男が現れた。グレーのスーツを着ており、ジャラジャラと五月蝿い音をたてる鎖状のアクセサリーを首から下げていた。


「しかし……」

「おいレオン、あんまりオレを怒らせるなよ……?」

「……。」


レオンハルトは銃を消し、そのままグレーの背広の男とともに去っていった。


「……。」


中河は何も言わずにそのまま地面に座り込んだ。


[あすみん……。]


ハデスは中河を気にかけながら、ゆっくりと黒い風を纏いそのまま消えた。


そして拓真は意識を失った。

なかなか書く時間がなくてもう遅くなってしまったんです……。


今回は初の真面目な戦闘シーンを書かせてもらっています。そんなに長いわけでもないですが、漸く3000字を越えるパートを書くことができました。


こういう能力同士がぶつかり合うバトルを書くときって、自分が厨二病だった黒歴史を呼び覚ましたり、そもそも今厨二病になったりしなきゃいけないんだなーと思うんですよねー。


読んでくださった方には無上の感謝を。楽しんでくださった方には至上の喜びを。

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