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弱虫王女と王様従者  作者: Nサブ
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第一話

 一歩一歩、歩を進めるたびに大理石の床に敷かれた真紅の絨毯が小さな足跡を残す。

その感触に未だなれないのか、絨毯の上を歩く少女はその小さな目に涙を浮かべながら視線集まる中を歩いている。


 ――見世物。

その言葉通り、少女が歩くたびに周りから好奇の視線とひそひそと小話が聞こえる。それもそのはず、少女の容姿はこの世界では滅多に見られないからだ。


(うぅ、もう嫌だ・・・・・・。お部屋に帰りたい)

歩くたびに強くなる視線に耐え切れず少女は心の中で愚痴をこぼした。


(皆、私の事を見てる・・・・・・。私の黒い髪を笑ってるんだ)

 少女が歩くたびに艶やかな黒髪が彼女の後を追うようにしてついてくる。いつからだろうか、この黒髪が鬱陶しく感じられるようになってきたのは。


(姉さま達も、妹達も皆綺麗な金髪なのに・・・・・・)

 そう思い、絨毯の道に並ぶようにして置かれている椅子に鎮座する姉妹達を見る。一様はあれど、みな母と父からの血を受け継いだ金髪だ。

その時、こちらを見ていた姉妹たちが少女の視線に気付いたのか、何か汚らわしいものを見るかのようにこちらを睨んだ。


 その形相に少女は小さな悲鳴を上げ、再度視線を下に落とす。


(やっぱり、私なんかがこんな儀式自体に参加することが間違いなんだ・・・・・・。部屋で迷惑をかけないでずっと引きこもってれば良かったんだ・・・・・・)


 周りの視線に加え、姉妹たちからの視線も加わりより一層少女の心に重い足かせが積み重なる。

しかし、それを否定するかのように絨毯の途切れた先、玉座が据えられた場所に鎮座する者によって少女の考えは途切れた。


「よく来たね、第10王女レリエム・ウォン・レイリア。愛しき我が娘よ」


 その言葉と同時に辺りいっせいに祝福の調べを奏でる音楽が流れ始めた。


「は、はい。お父様、レリエム・ウォン・レイリア、名に恥じぬ者となるべく只今参りましたっ」


ゆっくりながらも胸をはり、王と呼ばれる父に恥をかかせないよう言葉を出す。だが、その言葉とは裏腹に少女の心はどんどんと不安な気持ちで満たされていた。


「安心しなさい。皆、君のことを祝ってくれているんだ。主役がそんな顔をしていたら他のみんなが心配しちゃうだろう?」

そう言って、父は玉座から腰を上げ、レリエムの下まで歩んでいくとその華奢な手をそっと握った。


「大丈夫、君ならきっと上手くいくはずさ。他の娘たちも皆成功しているんだ。もっと自信を持って」


「は、はい。お父様・・・・・・」


「従者選びの儀式は王族の血を引くもののみが行える魔法・・・・・・。レリエム、君は私の血を引く娘なんだ。きっと大丈夫だよ」

 そう言うと、父は他の娘たちを指差した。


「見てごらん、君も成功すればあのように立派な従者を得ることができるんだ」


 そこにいたのは、王子・皇女達の後ろに控える人間、いや、人間の様な存在。

獣の耳が生えている者や、爬虫類の尻尾が生えている者。肉食動物のように鋭い犬歯が口から見える者や翼が生えている者。


 そう、この世界において亜人と言われる者達。それも主を守ることが出来る力を取り戻した者達。


 


 従者選びの儀式、それがレリエムが行う儀式だ。


 亜人を自分の意志で選び、その物を屈服させ己の力、従者とする。この国において古くから伝わるこの儀式は、自身の従者を選ぶだけではなく後継者争いにおいても力を持つ。

力を持てば当然、自身の品位もあがり、いざという時には主を王にせんがためその力をいかんなくふるうことが出来る存在。それがこの従者選びの真意。


 だからこそ、この儀式は絶対に行わなければならない。でないと、自身の命を捨てることと同意義だから。


 「は、はい。頑張ります……」


 だからこういうしかない。自分を手助けしてくれる人がいなくても。


 レリエムの言葉に満足したのだろう。満面の笑みを浮かべ、王は頷く。そしてゆっくりと手を離すと、玉座に戻る。ゆっくりと辺りを見回し、意を決したように右手を上げた。


 瞬間、広間に響き渡る鐘の音。広間の天井、吹き抜けの奥にある場所に設置された白く輝く鐘。儀式の開始を告げる合図が広間だけでなく、国中に響き渡る。


 その音は始まりの音。そして国中を湧き立てる音。


 ある者は王女のために必要な物資を集めようと躍起になり。

 ある者はどのような亜人を手に入れるのか思いをめぐらせ。

 ある者は一攫千金を狙い王女に取り入り。

 ある者は酒のつまみにと賭けの対象にする者。


 無数の事が動き出す音が鳴り響く。けれど、レリエムにとってそれは死刑執行の合図みたいなもの。音を聞くたびに呼吸が乱れ、手が震える。

震えているのを悟られまいと、指が白くなるぐらいぎゅっと握りこぶしを作る。


 盛大な始まりとは裏腹に自分に突き刺さる視線は冷たいまま。きっと姉達は成功することを望んではいない。けれども、例えそれを父に、王に言ったとしても自分の声が届くことはない。

父は優しすぎる人だから。優しき王、他の国からも友好的に見られ、民からも慕われる善き王。けれども、今この時だけは、そのやさしさが自信を貫く刃となる。


 息を吐く。そして顔を上げた。

始まってしまった儀式。止めることはできない。であれば、とるべき行為は一つ。


 「レリエム・ウォン・レイリア、従者選びの儀、見事成功させて見せます」


 

 悟られないように、精一杯自分を偽ることだけだった。


 

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