表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

貴方の知らない時間(07)

---2011/03/05 09:54 (3)


「じゃあ、千紘。よろしくね」

「はーい」

 少し風は冷たいが、良い天気だった。

 私は買い物用のエコバックを持って、家を出る。

 家を出てすぐのところで、海人くんとすれ違った。

「あ、こんにちは」

「千紘さん? あ、こんにちは」

 海人くんとは、すっかり顔馴染みになった。

「えっと……あの、隼人兄がお世話になってます」

「どうも、こちらこそ」

 今更どうしたのかなとも思う、海人くんの挨拶に、私は内心首を傾げた。

「買い物ですか?」

「うん。海人くんは?」

「僕も、あの、買い物です」

 今日は土曜日で、近所のスーパーの特売日だった。それで母は朝早くから、私に買い物を頼んだのだけど、もしかしたら一緒かもしれない。

「そういえば、千紘さん」

「何?」

「今日、隼人兄、友達とバイクでツーリングって言ってました」


「え、え、千紘さん?」

 海人くんが慌てる声が聞こえたが、なりふり構っていられなかった。走って、隼人の家に向かう。家に戻って携帯で連絡するより、ここからなら直接行った方が早い。

 もう家を出てしまっているだろうか。何としても止めなくてはならない。

(何で?)

 走りながら、疑問が湧いてくる。

 隼人はそんなこと一言も言ってなかった。

 それに、バイクだって持っていないはずだ。隼人の家には何度も遊びに行っているから、持っていれば気付くはずだし――第一、隼人が免許を取ったなんて話さえ聞いたことがない。

 何で、どうして。

 甘かった。絶対にバイクにだけは一生乗らないよう、ちゃんと言っておけばよかった。理由を怪しまれようが、とにかく言い聞かせればよかった。

 とにかく、今は隼人を止めなくては。

 誰かに話しかけられたが、なりふり構わず全力で走って、隼人の家が見えた。

 隼人の家の玄関前、そこに、一台のバイクが停まっていた。そのバイクの横に、いつものジャケットを着て、ヘルメットを被った隼人が立っていた。

 急がなければ、行ってしまう!

「駄目! 隼人!」

 叫んで飛び出した瞬間、けたたましいクラクションが、耳を刺した。トラックが、迫ってきていた。

 ああ、そうか、と思った。

 もしかしたら――巻き戻った時間というのは、例え変えようとしても、同じように繰り返すものなのかもしれない。

 変わったとしても、その代わりが、何か。

「千紘!」

 隼人の叫ぶ声が、聞こえた。




---2011/03/05 09:58 (2)


 今から出れば、待ち合わせの時間には余裕だろう。風は少し冷たいけれど、天気もいいし、今日は走るにはもってこいだ。

 俺はバイクにキーを差し、エンジンを入れた。ヘルメットを被り、バイクに跨ろうとしたその瞬間――

「駄目! 隼人!」

 ほとんど絶叫のような声が聞こえた。耳慣れた声、千紘の声だ。振り向けば、血相を変えて、こちらに走ってくる。

「千紘? どうし――」

 その先は言葉にならなかった。

 角から現れたトラックが、千紘の体を吹き飛ばした。


「千紘!」

 そう、叫んだと思う。

 千紘に駆け寄った俺の後ろで、バイクが音を立てて倒れた音がした。

「おい、千紘、何で、なん……」

 悲鳴があがった。違う、こいつがいきなり飛び出してきたんだ、と男が喚く声、そんなことより救急車、と誰かが叫ぶ声。それらが、自分の血管が波打つ音と一緒に、妙にはっきりと聞こえた。

 血まみれで倒れた千紘を見て、頭が真っ白になった。

「……はや、と?」

 千紘の唇が、少しだけ開いた。だけど目は、柔らかく閉じたままだ。

「千紘!」

 名前を呼ぶことしかできなかった。何も、考えられない。

「おね……が……い……」

 段々、声が小さくなっていく。小さく咽せて、血を吐いた。

「だめだ、千紘!」

 それでも千紘は、何かを言おうとした。そして、最後に、ふ、と微かに笑った――。俺はそれを聞いて、体中の力が抜けた。

 誰かが、俺の体を引っ張った。真っ赤になった千紘が、担架に乗せられ、救急車に運び込まれていく。




---2011/03/08 14:58 (2)


 千紘のお父さんは、俺に時計を渡してくれた。俺がクリスマスに千紘に渡した、白い腕時計だ。文字盤が割れて、十時前で止まっている。

「これは、隼人くんが千紘にあげたものだそうだね。……千紘、いつも付けていたよ」

 知っている。事故の日も、そうだった。

「良かったら……形見に持っていてくれ。……千紘のこと、ありがとう」

「……ありがとうございます」

 病院に運ばれた千紘は、手遅れだった。トラックに撥ねられ、ほとんど即死だったという。

 だから、俺の聞いたあの言葉が、千紘の最期の言葉だったのだ。

 葬儀場のロビーで、いつまでも座っていた俺に、海人が声をかけた。

「隼人兄……俺たちはそろそろ帰ろう」

「……」

 俺は首を振った。先に帰ってくれ、と言ったつもりだったが、海人は、俺の隣に座った。

「……隼人兄」

「……なんだ」

「千紘さんが亡くなったの、僕のせいかもしれない」

「……何でだ」

 海人は、頭を抱えた。

「僕、あの日、千紘さんに会ったんだ。それで……僕、ちょっと話して……隼人兄がツーリングに行くけど、一緒じゃなかったんですかって言ったら……急に走り出していったんだ」

「……」

「僕、訳分からなかった……何で……僕が何か変なこと言ったせいで、千紘さんが……」

「違う」

 千紘が死んだのは。

 俺のせいだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ