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貴方の知らない時間(03)

---2008/09/24 12:16 (1)


 学園祭が終わって、私たち三年生はとにかく受験モードになった。

「由美、看護学校に行くんだ」

「うん」

 昼休み、お弁当を食べていても、進路のの話になる。

 私も本格的に志望を葵大に絞って、国語と英語を重点的に勉強し始めた。赤本も部活の先輩に譲ってもらうつもりだ。

「ちなみにさ、千紘、竹村くんと何かあったの?」

「……えー、何で」

 美香のそういう勘の良さには、いつも驚く。あれ以来、隼人が私を、それ以上に私が隼人を避けていたのに気付いたらしい。

「受験で、ピリピリしてるだけじゃないの」

「ふーん」

 嘘をついた。けれど、本当のことは言いたくなかった。ただでさえ仲がいいと囃されていたのに、そのたびただの幼馴染だとずっと言っていたのに、あんなことがあったなんて噂になったら、きっと今以上にクラスでは気まずいことになる。

「隼人のことなんか、私に聞かれても分からないよ」

「……ふーん……」

 美香はちらっと、机でお弁当を食べている隼人を見た。私は、なるべく自然な風にして、そっちを見ないことにした。




---2008/09/24 12:48 (3)


「ええっ! やっぱり千紘、竹村くんと付き合ってたんだ!」

「違う、違うって」

 慌てて興奮する美香を抑える。他にトイレに人がいなくて助かった。

「何で教えてくれなかったのー、だったら邪魔しなかったのに」

「……違うの、内緒にしてたわけじゃなくて、……本当につい最近なの……」

 美香はこの手の話が大好物だった。学園祭を一緒に回ったので、まあ、噂になって当たり前といえば当たり前だけれど。

 最後の学園祭なんだから。

 隼人はそう言って、私にとって二度目の高校最後の学園祭を、都合のつく限り引っ張りまわした。地学部のプラネタリウムも一緒に見に行ったから、由美から美香に伝わったのがありありと想像できる。

(隼人、そんなに嬉しかったのかなあ……)

 高校生の男子にとって、彼女ができるということは、そういうことかもしれないと、理屈では分かるのだけれど、どこか腑に落ちない。

 何だか、よく分からない。

「いいなあ」

「……そう?」

 そろそろ午後の授業が始まる。次は数学の授業で、正直ついていけない。

 学園祭が終わった後、高校生になった私を待っていたのは、普通の学校生活と、受験勉強だった。大学を卒業した今の自分が、高校生の時より色々なことを知っているのは確かだけれど、勉強に関しては、かなりのことを忘れていた。

数学は、前から苦手だったけれど、どうしたらいいのだろう。




---2008/12/31 10:33 (3)


自分の部屋で一人勉強していると、携帯が震えた。取ってみると、隼人からのメールだった。

『頑張りすぎて、風邪ひくなよ』

 隼人のメールはいつも短い。あまり文章を書くのが、得意じゃないらしい。大晦日なので、この時間でも両親は下でテレビを見ている。電話しても気付かれることはないだろう。

 数コールで、隼人が出た。

「勉強してた?」

『ん、別に大丈夫』

「そっか」

 高校の勉強に七年のブランクを開けた上で臨んだ模試は、予想はしていたが、散々な結果だった。当然、葵大を受けたいなどと親に強硬に主張できるはずもない。

 浪人せずに大学受験を乗り切る――受験教科の少ない私立大学に狙いを定め、得意教科で徹底的に何とかする。それが私の立てた作戦だったが、それでもこうして必死になって勉強しなければならないのは変わらない。

『千紘こそ、大変そうじゃん』

「……うーん、まあ……」

『でも大丈夫だって。千紘なら何とかなるよ』

「無責任なこと言わないでよ」

 そっちと違って、こっちは学生じゃなかったのだ。

『今年も終わりだな』

「そうだね……」

 高校生活に追われるうちに、あっと言う間に時間が経った。もしかして、朝目覚めると、二十五歳の自分の生活に戻っているのではないかと思うこともあったが、そうはならなかった。あの学園祭前日から、ずっと私は、高校生としての生活を送っている。

 今こうして話している隼人が、事故で死んだのがいつのことか、私は知らない。あの同窓会では、そこまで聞かなかった。

 隼人の事故を防ぐには、どうしたらいいか検討がつかなかった。自分が未来から来ていて、隼人が死ぬ未来を知っていると言ったところで、信じてもらえるとも思えない。

 どうにかバイク事故に遭わせないようにするには、隼人自身にツーリングの趣味を止めさせるしかないのだろう……。とはいえ、まだ免許を持ってもいない今の隼人にそんな趣味があるとは思えないから、今出来ることはなさそうだった。

『どうかした?』

「え?」

『何か、ずっと黙ってたから』

「あ、ううん、ちょっとね」

 電話の向こうの隼人に、あえて明るい声で答えてみせた。

『そうだ、明日さ、初詣、行こうぜ』

「え?」

『合格祈願に』

「うん、いいよ。時間、あとでメールするね」

『了解』

 お互いに受験勉強は大変だったが、何だかんだで、私達は付き合っていた。




---2009/04/13 13:48 (3)


 大学の近くのカフェテリアで、隼人と私はハンバーガーを食べていた。

 結局、私は何とか、松本学院大の文学部に合格した。隼人も工学部に合格し、学部こそ違うけれど、幼稚園から大学まで一緒ということになった。

「千紘はどこかサークル入る?」

「どうしようかな……隼人は?」

 入学式の後、色々なサークルに誘われた。

 私が一度目の大学生だった時、葵大ではテニスサークルに入ったが、雰囲気になじめなかったのと、バイトやゼミ、就活が忙しくて、ほとんどいた覚えがない。

「俺は、特にサークル入らないかな」

「何で?」

 隼人はちょっと肩を竦めた。

「あー、うん。どっちかというとバイトしたいし、理系って結構忙しいらしいからやれるかどうか」

「実験とか、忙しいって言うよね」

「それに、千紘と会えなくなるの、嫌だし」

「……あっそ」

 私は、ポテトをつまんだ。時々隼人はこういう事を言う。隼人が私を追って、同じ大学に進学したらしいと、高校では噂されていたくらいだ。

 まあ、嫌な気持ちはしないけれど――少し、罪悪感がある。

隼人は知らないけれど――一度は断ったわけだし、今にしたって、私の本当の思いを、隼人は知らない。

 気心が知れた仲だから、居心地はいいのは確かだけれど。

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