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真実か。それとも嘘か

 全力で自転車をこいだ結果、UFO墜落現場にはものの3分で辿り着いた。

 自転車を道ばたに放置して姫乃たちオーパーツ回収同盟のメンバーの姿を探す。

 UFO墜落現場は山中らしいのだが、山道がバリケードでふさがれているため、実際の墜落現場を見に行くことはできないようだった。バリケード前には警察官が立ち並び、野次馬たちを威圧していた。

 全国ニュースで放送されたためだろう、山道前は人で埋めつくされている。100……いや、200。きっと、それ以上の人がいるに違いなかった。この中から見つけ出すのは不可能に近い。


「天野ぉー! どこにいる!」


 声を張りあげてみたが大人数の発する雑談の壁に阻まれ、届いているとは思えない。それでもやらないよりはましだと思い声を張り上げ続ける。

 声をあげるだけではだめだと判断し、正太朗は集団の中へと突撃する。ひとりひとりの顔を確認しながら前へ前へと進む。体格のよくない正太朗は集団に潰されそうになった。それでも知人を助けるという思いを胸に人の塊を押しのけていく。

 中程まで進んだが、まったく見つかる気配はなかった。時間は過ぎていくばかりだ。このまま見つからないのでは? と絶望しそうになったとき、希望の振動がポケットを揺らした。救われた思いでスマホを取り出す。


「どこにいるの? 全然分からない」

「バリケード前だ。早く来い」


 すぐに電話は切れた。

 早く来いはないだろうと正太朗は思った。最初から場所を教えておいてくれれば問題はなかったのだ。かなり理不尽だった。後で抗議しようと正太朗は決意を固める。

 人の群れをかき分け、かき分け、ひたすら前へ。密度が高くなかなか進めない。周りの人間の体温で暑い。汗が出る。汗の臭いもひどい。気分が悪くなってきた。

 それでも仲間の窮地を救うため正太朗は前ヘ前へと進み続ける。

 ようやくバリケード前に来たときには正太朗はかなり消耗していた。消耗していても、たどり着いたという達成感のため疲れは感じなかった。

 これからが正念場なのだ。なにをすればいいのかは分からない。だが、呼ばれたからにはできることがあるということだ。まずは美咲を探さなければならない。そう思いあたりを見回すとちょうど美咲が近づいてきていた。


「遅い。手間取りすぎだ」


 いきなり罵倒された。「ごめん」とつい圧倒されて謝ってしまう。文句をいおうという決意もどこかに消し飛んだ。

 自分でも情けないと思うが、美咲にはなんともいえない威圧感があるのだから仕方がない。168cmの正太朗よりも背は高く、彫像めいたつくりの顔にはいつも不機嫌が張りついている。どことなく近づきがたいオーラをまとっていて、美咲自身も近づいて欲しくないと思っている節があるので接していると妙に萎縮してしまうのだ。


「美鶴さんたちは?」


 美咲がバリケードから少し離れた場所に親指を向けた。向けられた方を見ると、オーパーツ回収同盟の一団が何人かの警察官となにかを言い争っていた。


「なにがあったの?」

「事情は後で話す。だから今は……」


 美咲は集中力を高めるようにゆっくりと呼吸を整えた。


「腹に力を込めろ」

「へ?」


 間抜けな声を出した次の瞬間、腹部を衝撃が貫いた。


「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」


 声にならない叫びを上げる。

 痛みが腹部で暴れ回り、足から力が抜けていく。気がつけば膝をついていた。美咲はだからいっただろうといわんばかりに憐憫の眼差しを正太朗に向けた。

 意味が分からなかった。なぜ、殴られたのか? 答えを求めて美咲を見る。冷たい視線が返ってきただけだ。


「歯を食いしばれ」


 言葉が終わるとほぼ同時に、視界が揺れた。膝蹴りが頬を捉えたのだ。膝をつき、体勢が低くなっていたので、美咲の膝がきれいに頬にめり込んいる。そのまま仰向けに倒れた。意識を失わなかったのは奇蹟としたいいようがない。


 なんだ、これ?


 痛みのせいで逆に覚醒していく意識で正太朗は考える。姫乃がまずいことになったといわれて、来てみたらいきなりこの仕打ちだ。

 ひどい。ひどすぎる。あんまりだ。俺がかわいそうすぎる。

 せっかく死ぬ思いでチャリぶっ飛ばしてきたのに……。汗だくになって人混みを抜けてきたのに……。なんで俺、いきなり殴られているの? 

 理解できるはずがなかった。理不尽ここに極まれりだ。

 なんだか腹が立ってきた。いや、腹を立てるべきだ。立てなければならない! 俺にはその権利がある。文句をいう資格がある!

 そもそもなに? 先に警告しとけば殴っても大丈夫的なノリなわけ? うんなわけあるかぁ! いきなりすぎんだろ! 準備できるか、ボケぇ! てか、膝蹴りって! それも顔面に向けてやるとか! ありえねえだろ! てか、そもそもそんなの女が使う技じゃねえ! せめてスカート履いてやれ! そうすれば、なんか痛みとチラリズムでいい感じに相殺されるだろうが! 空気読めってんだ、この暴力女!

 こんな横暴、断じて許されることではない。俺は断固抗議する!

 体をなんとか起こし、それらすべての思いを乗せた抗議の眼差しを向ける。口に出さかったのは次は右ストレートが来そうだなとか考えたからでは決してない。

 美咲は正太朗の最大の抵抗を無表情で受け止めると、


「立て。貴様の根性をたたき直してやる」


 と逆に冷たく宣告してきた。正太朗は思った。


 うん、逃げよう。


 弱腰。軟弱。腑抜け。なんといわれようとかまわなかった。逃げるという選択肢以外に正太朗にはありえない。

 そもそも、呼び出した相手にいきなりボディーブローを喰らわすような凶悪な相手に戦いを挑もうというほうがどうかしているではないか。逃げるが勝ちなのだ。

 それに本能が告げている。この存在に逆らってはならないと。なら、もう逃げるしかない。これは戦略的撤退というやつなのだ!

 自分でも驚くほどの反射神経で反転すると逃げの一手を打つ。が、それを美咲が逃すはずがない。正太朗の背中に容赦のない跳び蹴りを加える。たまらず正太朗は転倒した。

 すかさず美咲はマウントポジションを取った。

 

 あ、俺死んだ。

 

 正太朗は素直にそう思った。


「……すぐに逃げられるようにしておけ」


 美咲が突然囁いた。

 いや、あんたが乗ってるから逃げられるわけないじゃんと正太朗は心の中でツッコミを入れる。やってることといってることが矛盾し過ぎだった。正太朗はもう涙目になるしかない。


「これで終わりにする!」


 美咲が声高に宣言して拳を振り上げた。正太朗には最後通牒にしか聞こえなかった。


「いやあああぁぁぁ! 助けてぇぇぇ!」


 あらん限りに叫んだ。ただ、ただ恐怖で叫んだ。完全に涙声でなんともみっともない叫びだった。


「おい、なにしてるんだ! やめろ!」


 誰かの声がした。かすむ視界の先に誰かが近づいてくるのが見える。涙のせいでよく見えないが相手は警察官のようだった。

 助かった! 心の底から歓喜する。そうして生まれた心の余裕からか、警察官の背後で美鶴たちが逃亡しようとしているさまが見えた。


「よくやった! 匠! 逃げるぞ!」


 のしかかっていた重みが消える。美咲が正太朗の手を取り立ち上がらせた。ここに来てようやく正太朗にも状況が理解できた。理解出来ればやるべきこともおのずと見える。

 正太朗は全力で駆け出した。

 突然の逃亡に警察官はぽかんとした顔で突っ立ていた。それはそうだろう。今の今まで一方的なリンチを受けていたのに、なぜかその相手と一緒に逃げ出したのだ。理解が追いつくはずがない。


「待て、どういうことだ! 逃げるな! 待て!」


 我に返った警察官が事情を聞こうと追いかけてくる。


「二手に分かれる。捕まるなよ」


 美咲が正太朗の肩を叩き、離れていく。正太朗はうなずくと美咲と反対方向に向けて疾走する。

 一瞬だけ後ろを振り返ると美鶴たちもうまいぐあいに逃走できたようだった。それをみて安心すると正太朗は前を向き直し、全力で逃げた。



 正太朗は足を止めた。もう限界だった。もう一歩も動ける気がしない。

 相手を振り切るために山の中にまで逃げ込んでいた。むちゃくちゃに走っていたからどこの山かは分からなかった。

 荒い息をついて近くに生えていた木を背もたれにして座り込む。追いかけてきている気配はもうない。なんとか逃げ切ることができたようだ。あれだけぼこぼこにされたあとにここまで動けるとは実は自分はすごいのではないだろうかと素直に自分を誉めたくなった。

 呼吸が整いようやく動けるようになったころ携帯が振動をはじめた。


「事情……教えてもらえるよね」


 ボディーブローを打たれ、膝蹴りまで食らわされたのだ。納得のいく説明を要求する権利はあるだろう。かなり語調を強めてあったのに美咲はどこ吹く風。淡々といってのけた。


「警察の目を盗んで現場にいったら捕まった」


 しばらく待つ。さらに待つ。だが、それ以上の説明はない。


「え? それだけ?」

「ほかになにがある?」


 本気でいっているっぽい。ほんとうにたちが悪かった。


「あるでしょ。俺を無意味に痛めつけた理由とか理由とか理由とかさ」

「姫乃たちを逃がすための作戦だ」


 なにをいまさらといいたげな声だ。もちろんそんなことは今は分かっている。そうでなければいっしょに逃げたりせず、警察に美咲を突き出している。


「そんなことは分かってるよ! あそこまでやる必要があったのかって話だよ!」

「手加減はした」


 手加減してあれかよ…‥。正太朗は戦慄するしかない。


「それにお前は作戦だって理解していたじゃないか」


 してねえよ! ふざけんなよ、てめえ! と叫ぼうとしたところに思わぬ言葉が耳に飛び込んできた。


「だから、あんな迫真の演技をしたんだろう?」

「は?」

「姫乃をだしに使えば必ず来るという予測があったからお前を選んだんだが、予想以上の働きをしてくれた。あれだけの真に迫った演技をされたらどんなものも私がリンチしているとしか思えなかっただろう」

「ええぇぇ……」


 正太朗は絶句した。この人物はどうやら本気の本気であれを演技だと思っていたらしい。なるほど。確かに演技だと思っていれば、あそこまで徹底的にリンチもできるだろう。……もはや笑い飛ばすしかない。


「特に最後の悲鳴はすごかった。死の恐怖に震えた悲壮感あふれる悲鳴……。演技だと分かっていても良心が痛んだ。お前は演劇の道を目指した方がいい。きっと名優になれる」

「……考えておくよ」


 それ以外に言葉が見つからなかった。もうどうでもいいやと素直にあきらめた。リンチの件はこれでいい。いや、ほんとうはよくないけど。まだ微妙に痛むけど。納得はいかないが納得するしかないのだろう。……非常に遺憾だが。

 気持ちを切り換え、本題を切り出す。


「ひとつ疑問があるんだけど、いい?」

「なんだ?」

「なんでまずい状況にあるって嘘をついてまで俺を呼んだの? 警察に捕まっただけで俺を呼ぶ必要なんてないよね?」


 オーパーツ回収同盟はたびたび警察にお世話になっていた。あやしさ満点の彼らはことごとく通報されるからだ。そのたびに警察と問答を繰り広げてるのは、もはやお約束なっている。本来、オーパーツ回収同盟は警察に捕まった程度で助けを求めるような連中ではないのだ。

 それなのに正太朗は呼び出された。

 殴られた理不尽は許せる。納得できるだけの理由もあった。だが、そもそも呼ぶ必要がなかったのだとしたら、それは許せない。そのせいで親友からの約束を破ってしまったのだ。せめて納得できる理由が欲しかった。


「今回は地元警察じゃなかったから呼んだんだ」


 地元の警察にはオーパーツ回収同盟の数々の奇行が知れ渡っており、ある意味顔パス状態だ。「またお前らか」という顔をして小言の一言二言をいって去っていくのが通常のパターン。機嫌が悪いときでも説教が30分ぐらいだ。実は早く解放されるのだ。

 ところが融通の利かないよそものとの交渉は時間がかかる。いちいち事情を説明しないといけない。下手をすれば連行されるおそれもある。だから、面倒事を避けるために一芝居打って逃げたといいたいのだろう。

 発言の趣旨は理解できる。だが、どうもはぐらかされている気がしてならない。正太朗の知る限り美咲は理由もなく嘘を吐くような人間ではなかった。


「別に地元警察じゃなくたって時間さえかければなんとかなるよね。それに逃げるほうがのちのち面倒なことになるんじゃないかな。それだと理由になってないよ」

「用事を邪魔したことは悪いと思っている」

「悪いと思っているならちゃんと本当の理由を話してよ。……大切な約束を破ってまで来たんだ。納得できる理由を聞く権利はあるはずだよ」


 美咲は沈黙した。話すべきか話さざるべきか迷っているのだろう。沈黙のすえに小さな溜め息が漏れた。


「いったん切る」

「待って!」

「安心しろ。すぐにかけ直す」


 それで通話切れる。着信はすぐに来た。知らない番号だった。正太朗は美咲だと信じて電話に出た。


「もしもし」

「すまないな」


 声の主がちゃんと美咲だった。


「ねえ、変える必要があったの?」


 LINEだから通話は無料だったのだ。これでは無料でなくなる。わざわざ変えた理由が分からなかった。


「念のためだ」


 なにが念のためなのだろう? まさか盗聴?

 いやいやと自分の考えを否定した。ただの学生の通話を盗聴する必要がどこにあるというのだ。きっと電話のバッテリーが少なかったのだ。


「それで結局俺はどうして呼び出されたの」


 美咲はすぐには答えない。わざわざ電話を変えてまでかけ直してくれたのだから話す気はあるはずだ。たぶんどう説明しようか迷っているのだろう。


「今回はたぶん当たりだったんだ」


 唐突な発言に正太朗はついていけなかった。


「墜落現場のあの警備体勢は異常だった。当たりも当たり大当たりだったんだろう」

「待って! 当たりってUFOの墜落が本当だったってこと?」

「そうだ」


 こともなげに美咲は言い切った。もちろん正太朗には信じられない話だ。まさか、はぐらされているのだろうか? そう疑わざるをえない。


「天野って宇宙人とか信じてるんだ」

「信じているもなにも実在するからな」

「え?」


 どうも話がかみあわない。美咲と正太朗では根本的なところで理解が違うからだ。正太朗は宇宙人なんて信じていない。だが、美咲は信じている。いや、いると確信している。確かに信じていないとオーパーツ回収同盟など入らないだろう。

 これは、あれだ。宇宙人がいるという前提で話を聞かないと理解がついていけないということだ。急に切り換えることができる自信はなかったが、美咲の話を本当だと信じて話を聞くことにする。


「いいよ。分かった。UFOが墜落したのが本当だったんだね。でも、それがどうつながってくるのか俺には分からないんだけど」

「おそらく八咫烏やたがらすが動いている」

「八咫烏? たしか日本神話に出てくる三本足のカラスのことだよね」

「いや、そっちじゃない。秘密結社のほうだ」

「ごめん。全然分からない」


 秘密結社に八咫烏なるものがあるなどはじめて知った。


「一般的には日本を裏から操っているとされている秘密結社のことだ。……説明が面倒だ。今度ググってくれ」

「はあ」


 美咲がこんなにオカルトに詳しい人だとは思ってもみなかった。意外過ぎる事実だ。そして、美咲には申し訳ないが興味がないのでググるつもりもない。


「で、その秘密結社がどうしたの?」

「姫乃たちを尋問していたのはその八咫烏の構成員だ……と思う」

「え?」

「私にも確証はないんだ。だが、あの態度に言動。専門家としか思えない」


 あまりにも突拍子もない話に正太朗は空を見上げた。正直、まったくついていけない。それでも美咲が本気で言っているということは理解できた。話自体は破綻している。だが、嘘をついているとしては声に誠実さがこもりすぎている。だから話を合わせる。合わせないと先に進めないので合わせざるをえないともいえた。


「その八咫烏とやらの構成員だったとして、話を聞かれてなんの問題があるの?」


 美咲いわく日本を裏から操っているなんていうトンでも組織にただの大学生にすぎない姫乃たちが質問をされたからといって問題ない気がしてならない。


「問題がなければお前の協力など必要なかった」

「それって……あるってこと?」

「どんな組織にも秘密のひとつやふたつあるとは思わないか?」

「いやいや。あやしげな組織に聞かれてもいい秘密なんて……あっ!」


 あるといえばある。同好会名にその名をちゃんと冠しているではないか。


「そういうことだ。私たちは何個か本物のオーパーツを所有している。それも星の暗号派が欲しがっているコンテンパラリオーパーツだ」

「なにコンテンパラリオーパーツって?」

「オーパーツの意味は知っているな」

「その時代の技術水準に見合わない高度な技術が使われたもののことだよね」

「そうだ。コンテンパラリって単語の意味は?」


 大学受験英語を必死に思い出す。Contemporary……たしか『現代の』って意味だった気が……。


「オーパーツの現代版?」

「そういうことだ。現代の技術を越える品。俗にいうオーバーテクノロジーってやつだな」

「待って待って! え? オーパーツ回収同盟ってそんなすごいものを持ってたの?」

「お前も持っているだろう」

「へ?」

「準会員になったときにもらっただろう。あれは一応コンテンパラリオーパーツだぞ」

「えっ! マジで!」


 そういえば銀色の球体をもらった気がする。あれはオーパーツだったのか!


「それで俺のもらったオーパーツってどういうものなの」

「あれか。確か認識迷彩を遮断するもののはずだ」

「おお! なんかすごげ! で、認識迷彩って?」

「認識そのものに干渉して使用者を知覚できなくする装置のことだな。ちなみにこれもコンテンパラリオーパーツつまりはオーバーテクノロジーだ」

「うおおお! すげえ!」


 オーバーテクノロジーを相殺できるオーバーテクノロジー! まさに技術を持って技術を制するだ。まさにミラクルだ。

 ひとしきりすげえとすげえと騒いだ後に気がついてしまった。そう。気がついてしまったのだ。


「ちょっと待って! それって実は意味ないんじゃないの? 現代に認識迷彩なんてものは存在しないんだから持ってても宝の持ち腐れってことじゃん」

「そのとおりだ。無価値だから渡してるに決まっているだろう」


 正太朗は絶句した。美咲にではない。自分の頭の悪さにだ。

 美咲の話は完全に詐欺だ。認識迷彩という存在の証明ができないものを打ち消せる装置をどうやって本物だと証明できるというのだ。あやうく騙されるところだった。もちろん、すげーと騒いでいる時点で騙されているのだが、それはそれだ。


「……人を騙して楽しいか?」

「信じる信じないはお前の自由だ。信じるものは救われるらしいぞ」


 美咲は完全に人をおちょくっていた。美咲の話のどこからどこまでが本当なのか正太朗には分からなくなった。なんだか全部が嘘のような気さえしてきた。もしすべてが嘘なのだとしたら正太朗が呼び出された理由がないことになる。だが、あるはずだと正太朗は確信している。確信したからこそ本当の理由を聞こうと思い美咲を問い詰めたのだ。その先に出てきた答えがこんなにも嘘っぽい話な訳で……。でも、美咲自身は本気で信じているとしか思えない……。なんだかよく分からなくなってきた。


「結局さ。俺がいかなかったらどうなってたの?」

「正直にいえば分からない。だが、追及されると姫乃がボロを出す可能性が高かった。……こんな与太話ばかりして信じてくれないかも知れないが、私は本当に感謝しているんだ。へたをすれば姫乃は確実にまずい立場になっていた。……姫乃はあまりにもこちら側に関わり過ぎている。姫乃の安全を確保することは無関係な彼女を巻き込んだ私の義務だ」

「天野が美鶴さんを巻き込んだ?」


 電話口から舌打ちが聞こえた。美咲は余計なことをいったのだ。


「今のは記憶から消去しといて……いや、忘れてくれ。……すまん。ちょっと混乱しているようだ。悪いが切らせてもらう」


 一方的に告げられ、電話を切られた。正太朗は無言になったスマホをぼうぜんと眺めることしかできない。

 最後の感謝は疑いようもなく本物だった。そして、その後に出てきた言葉も思わず言ってしまったという感じだった。

 美鶴さんが関わり過ぎている? 天野が巻き込んだ? いったいどういうことだ?

 正太朗には分からない。なにが真実で。なにが嘘だったのか。

 もしも美咲がいっていることがすべて真実だったとしたら……それはもう正太朗の理解の範疇を超え過ぎている。

 正太朗は目をつぶった。しばらくそうした後、ぱしんと頬を叩いた。


「考えたってしゃーない」


 理解できないものは仕方がない。理解できる日が来たときに理解すればいいだけだ。

 それに美咲の口ぶりからするに正太朗はちゃんと知人のピンチを救えたのだ。それ以上に望むべきことはないではないか。これなら胸を張って零に謝れそうだ。胸を張って謝るっていうのもどうかと思うが。

 頭を使いすぎたせいか。肩が凝っていた。伸びをする。服が引っ張られ胸に何かが当たった。胸ポケットの中に何かが入っているのだ。


「あっ! これって……」


 胸ポケットから出てきたのはくだんのオーパーツだった。認識迷彩を打ち消せるとかいうアレだ。そういえば姫乃からもらったものだということでありがたがって毎日胸ポケットに入れて持ち歩いていたのだ。毎日出さずに入れっぱなしにしていたため、いつのまにかその存在を忘れ、そのままこの服の胸ポケットで眠り続けていたらしい。


「いっしょに何回か洗濯しちゃったけど大丈夫かな?」


 思わず心配してしまった自分に苦笑する。これがオーパーツなはずがない。どこからどう見てもちょっと大きめのパチンコ玉だ。

 じっと見ているといたずら心がわいた。


「おりゃああああ! 発動しろ!」


 指につまんで前へと突き出してみた。……かなり恥ずかしかった。


「俺はいったいなにをしているんだろう……」


 しまおうと思っていると手を滑らせた。銀玉がふわりと宙へと待った。


 バチッ!


 いきなり目を焼くような激しい青光が生まれた。とっさに手で目をかばう。光りが生まれたのは一瞬で、すぐに光りは消えた。


「今、光ったのって……オーパーツ?」


 かがみ込んで地面に落ちた銀玉を確認する。黒く変色していた。もしかして発動した? 周りを見てみる。が、なにも変化は……あった。

 4メートルほど離れたところにいつの間にか女の人が立っていた。20代前半ぐらいの女性だ。服装はなぜか白衣だった。


「あらあら。見つかってしまいましたわ。困りましたわね」


 たいして困った風でもなくその女性はつぶやいた。正太朗はなにも反応できない。頭の中は混乱し続けている。オーパーツが反応したということは……この人もオーパーツを持っている? 正太朗の疑問に答えるように女性は口を開いた。だが、その口から語られたのは正太朗の予想をはるかに越えるものだった。


「はじめまして。地球人さん。わたくしは知能共有種。あなたたちのいうところの宇宙人ですわ」


 その女性は優雅に固まって動けない正太朗にお辞儀してみせた。


 これがすべての元凶。『創出の魔女』との出会いだった。

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