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親友からの警告

ニュース見た? 9:42

             既読 9:42 どれ?

君の町にUFOが墜落したってやつ 9:42

             既読 9:42 ああ、あれ

もしかして見に行く? 9:42

             既読 9:43 そのつもり

どうしてもいかないとダメか?

             既読 9:43 どうしたの、急に? 

見に行くな 9:43


 友人の激しい語調の返信にたくみ 正太朗しょうたろうはご飯に伸ばしかけていた手を止めた。


 れいと正太朗が知り合ったのは2年前だ。零から届いた間違いメールがきっかけだった。ちなみに文面は


『宇宙からこんにちは』


 だった。

 誰に向けて送ったメッセージかまったく予想もつかなかった。おそらく友人だろう。恋人では間違いなくない。こんなメールを送ってくる恋人ははげしく嫌だ。

 友人だとは思う。思うのだが、なぜに宇宙なのか? あまりの不可解さに思わず、


『宇宙飛行士の方ですか?』


 とこちらもまた意味不明なメールを出してしまったのだ。なぜこんな内容になってしまったのか正太朗自身よく分からない。たぶん相手の文面に酔っていたのだろう。そうでないと恥ずかしすぎる。

 そんな意味不明なメールを送ったにもかかわらずメールはちゃんと返ってきたのだ。文面は以下のとおり。


『じゃあ、そういうことで』


 予想外過ぎた。なんだ、そういうことでって……。正太朗はあきれた。あきれ、そして、不覚にもおもしろいやつかもと思ってしまった。


『宇宙飛行士さんは友達いますか?』

『帰還すればちゃんといる。でも、今は孤独な任務についてるからいない』

『だったら、今からメル友になりませんか?』

『悪くない提案だ。ちょうど任務に飽き飽きしてたところだ。地球人の友人というのも悪くない』

『地球人ってw あなたもそうでしょう?』

『近い存在には違いない』

『近いってw』


 こうやってできた友人が零だった。最初こそこんなふざけた内容だったが、零は正太朗の相談に乗ってくれたり、なにかとアドバイスをくれたりと実は頼りになる青年だったのだ。……まあ、ほんとうは女性かもしれなかったりするのだが。

 実は正太朗は零の性別を聞いていないのだ。青年か少年か。はたまた少女かおばあちゃんかも実際のところは分からない。だけれど、正太朗は同い年か少し年上ぐらいの青年だと思っている。そうでなければ、ここまで気が合うはずがないからだ。

 そんな出会いからはや2年。いまではなんでも話せる最高の親友になっていた。性別も年齢も聞いていないのは最高の親友だと思っているからだ。ほんとうの親友に性別も年齢も関係ない。親友とはそういうものを超越したものだと正太朗は思っていた。

 そんな大親友からこんな激しい言葉で返信が来たのだ。こんなことはいままでに一度もなかった。疑問よりも心配が先行した。零の機嫌をひどく損ねるようななにかがあったに違いなかった。

 正太朗は返信にどう返信するかに迷い指が止まった。しばらく考えた末に、指を動かす。


             既読 9:47 なんかあった? こわいんだけどw

ごめん 9:47

いやな予感がするから行かないほうがいいって思ったんだ 9:47

             既読 9:47 なんだよいやな予感ってw

とにかく行かないで欲しい。これは友人としてのお願いだ 9:50


 返信に少しだけ間があった。友人としてのお願い。こういわれては正太朗に行くという選択肢はありえない。零とは顔も合わせたこともないただのメル友だ。それでも他のどんなリアルな親友よりも信頼していた。


             既読 9:50 安心して、行かないよ

悪い。君はほんとうは美鶴(みづる) 姫乃(ひめの)といっしょに行きたかったんだろう 9:50


 美鶴 姫乃は正太朗の思い人だ。当然のことながらその思いは一方通行だ。

 大学一年のときに見かけ、一目見たときからその清楚可憐な容姿からいいなと思いはじめた。思いはじめるも、学部が違うため一般教養ぐらいでしか同じ教室になることはない。2年になり一般教養も終わってしまったため、もはや接点らしき接点はゼロに等しい。唯一の救いはキャンパスが狭いのでよく見かけることだ。ビバ! マイナー大学!

 キャンパス以外でも姫乃を見かけるチャンスがもうひとつだけあった。それがUFOなどのオカルトネタだ。姫乃はオーパーツ回収同盟なる同好会に属していた。姫乃が所属していることを知るまでは存在すら正太朗は知らなかった。

 活動内容は名前のとおりオーパーツの回収らしい。というとあやしげなことをしているように聞こえる。が、実際のところはオーパーツがあると思われるところに大型シャベル片手に見参し、掘って掘って掘りまくるだけのサークルだったりする。それはそれで、すでに十分に怪しのだが、概ね健全(?)な部活なのだ。

 そんな彼らがUFOの墜落に飛びつかないはずがない。早朝、ニュースが流れて五分ぐらいして、正太朗の携帯に『Assemble, now(今すぐ、集合せよ)』というメッセージとともに集合場所の画像付きのデータが送られてきた。たいていニュースよりも先に情報を入手している彼らにしては遅い初動だった。

 メールが送られてきているが、正太朗はオーパーツ回収同盟なる穴掘りサークルなどに所属していない。そんなあやしげなサークルに所属するはずがない。が、あまりにも穴掘りの現場に現れるためにいつの間にか(記憶する限りは3回目)、準会員に任命されていた。うれしくはない。だが、資金徴収係が姫乃なので特に訂正もしていない。

 ちなみに月に一度、最近は月に二回1000円ずつ徴収されている。完全にカモだ。分かっている。分かっているのだが、お金を渡すとき姫乃の笑顔が見られると思うとどうしても断れない。最近は1000円で笑顔を買っていると完全に割り切っていた。もちろん零には『君の将来が不安でしょうがない』と本気で心配されいる。

 そういうわけで行く気満々だったのだが、零に釘を刺されてしまった以上は行くことはできない。


「分かってるなら止めないで欲しいな」


 などと愚痴をもらしつつ、


             既読 9:50 すぐにチャンスがあるよ。あいつら穴掘り大好きだしw


 と返しておいた。


それを聞いて安心した。野暮用があるから今日は連絡が取れなくなると思う 9:50

             既読 9:50 あいよ

くれぐれも墜落現場には近づかないようにしてくれ 9:51


 念を押してから零からの返信は途絶えた。

 事情を聞くつもりはなかった。零が事情をいわなかったということはいえない事情があったに違いない。案外、零はマスコミ関係者かなにかで現場にいるのではないだろうか。見られたくなかったからあんな言い方をしたのかもしれない。それにしては語調が強すぎる気がした。

 あるいは、ほんとうに危険ななにかがある……とか?

 まさかと自分の考えを打ち消した。打ち消したが、なんとなく嫌な予感が残った。ちらりとオーパーツ回収同盟の部員たちのことが頭をよぎる。なにかいっておいた方がいいだろうか?

 などと考えているうちに、朝食を完食していた。スマホを手に取る。LINE立ち上げようと思い、やめた。確信もないのに活動を邪魔をするべきではない。

 その代わりにもはや習慣になっているソーシャルゲームへのログインをはじめる。育てる気はないが、ガチャだけ引きたいというタイプなのだ。ガチャを引くアイテムを手に入れられるようなのでイベントダンジョンを攻略していく。全員に配布するための簡単なダンジョンなのでわずか一分にて終了。今日のお仕事終わり。

 今日は土曜日だ。大学がない。だから予定がない。オーパーツ回収同盟の活動見学はちょうどよい暇つぶしだったのだ。こういう暇なときに限って課題すらも出ていない。復習でもしろということなのだろう。

 今こそ高校時代の終わりと共に封印した勉学への熱意を復活させるべきなのかも知れない。正太朗は固い決意を込めてノートを開くと机へと向かった。


 その一時間後。正太朗の手にはちゃんとペンが握られていた。が、それはスマホ用のタッチペンだ。ペンの先で動かしたドロップがみるみる消えていく。


「オチコンこいやぁぁ! うし! ざまあ! なんだ! しばらくやってなかったけど俺のパズル力もなかなか捨てたものじゃないじゃないか!」


 ちょうどレベルアップしたのでスタミナも前回だ。あえて超地獄級にチャレンジか? と思ったところで我に返った。


「ぬおおおおおぉぉぉう! 俺はなにをしているんだ! これ、ダメですよ。あかん、パターンですよ!勉強しようと意気込んでいたというのに……。くっ……。ソーシャルゲーム侮りがたし!」


 スマホをていねいに机に置く。以前、ぽーんと放り投げて画面にヒビが入ったのだ。修理代は思った以上にかかり、姫乃への貢ぎもの……もとい同好会費を払えなくなりそうになるという事件があった。それ以来スマホを丁寧に扱う習慣ができたのだった。

 気を取り直して、いつの間にか閉じられ机の端にまで移動させられていたノートを開く。読む。一度ではなく、二度三度と読む。さらには教科書まで開く。そしてじっくりと読む。


「うん。よく分からない」


 諦めるまでたったの20分。短い。昔ならもっとがんばれたような気がする。でも、今の自分としてはよくがんばった方だ。そんないい訳をして、勉学タイムは終了した。


「うーん。ご飯でも作ろっかなあ……。そういや洗濯もたまってるよなあ……。そろそろ掃除もしなくちゃいけないし……」


 一人暮らしをしていると、本来やるべきことは多いのだ。暇などあろうはずがない。一人暮らしは忙しいのだ。

 ただし、罠もある。誰にも強制されなければ、やらないor後回しという選択肢もあるからだ。そして、人はおうおうにしてその選択肢を選ぶ傾向にある。


「ああ、やっぱ学食でいいや。土曜は開いてるし」


 正太朗もまたその例にもれなかった。

 大学にいけば図書館もある。単位に関係ないとなぜだか少々難しい本でも読める。暇つぶしには最適だ。

 そんなわけでろくに選びもせず服を着替えると正太朗は大学へと向かった。


 

 昼食を食べ終えたのはちょうど12時22分だった。UFO墜落のニュースが流れたのが9時半ぐらいだったからちょうど三時間ぐらいがたったことになる。今ごろは穴掘り同盟もとい、オーパーツ回収同盟により一帯が穴だらけになっているだろう。

 姫乃がシャベルを手に汗を流しているところを夢想して頬を緩めているとスマホが鳴った。メールではなく着信だ。


「はい、もしもし」

「匠、今どこにいる?」

「食堂」

「大学のか?」

「うん」


 相手は同じ工学部の天野あまの 美咲みさきだった。別に仲がいいわけではない。彼女はオーパーツ回収同盟の一員なのだ。


「なら、5分で来られるな」


 美咲がいっているのはもちろんUFO墜落現場のことだ。普通なら断るところだが、残念ながら美咲の場合はそうはいかない。美咲は姫乃の親友なのだ。むげには扱うことはできない。特に姫乃について色々とたずねている立場からすれば。

 美咲との関係と零との友情を天秤にかけようとして、やめた。どちらが大切かは決まっている。


「あー。それなんだけど。今日はちょっと用事があって行けないないんだ。ごめん」


 姫乃のことは好きだが、思いを伝えたわけではない。大学を卒業すればたぶん二度と会うことはない。だが、零は違う。これから会うかどうかは分からない。でも、一生交流は続けることだけは間違いない。正太朗にとって零はそれぐらいの親友だった。そんな親友との約束を反故にするなどありえない。

 今のこの瞬間だけの淡い恋心よりも死ぬまで続く友情を大切にする。正太朗はそんな男だ。

 だから、正太朗は思ってもみなかった。まさかその決意を揺るがせる言葉が紡ぎ出されるとは。


「姫乃がまずいことになってる」


 胸を衝撃が貫いた。頭の中が真っ白になる。


「それってどういう……」

「説明してる暇はない。このままじゃ姫乃も他の奴らも全員……」


 ブツリッ

 突然、音が途切れた。通話終了を示す無情な電子音が後に続く。


「ちょっと待てよ! どういうことだよ!」


 返答の帰らぬ電子音にたいして叫んだ。


「ふざけるなよ……」


 奥歯を噛みしめる。ガリッという不快な音が口内から頭に抜けた。混乱と不安がぐるぐると脳味噌を揺さぶる。

 まずいことになっているという言葉。それに親友からの行くなという言葉。いやな予感がした。

 考えたくはないがなにかよくないことが起こったのかも知れない。それも、とてもよくないなにかだ。

 

 状況の分からぬ理不尽さ。

 知人になにか会ったかも知れないという恐れ。

 親友からの警告ともとれるメール。


 それらが激しい嵐となって正太朗に襲いかかって来ていた。


「くそっ!」


 正太朗は昼食の片づけもせぬまま立ち上がると全力で駆けだした。


『見に行くな』


 零からの警告が頭に浮かんだ。もしかしたら行くことでまずい状況に陥るかもしれない。だが、知人のピンチを見過ごせるはずがない。手にしていたスマホを操作して、LINEを立ち上げる。親友に『すまん』とだけ打った。

 スマホをポケットに押し込むとあらためて全力疾走を開始した。


 正太朗の打った文面が既読になるのは事態は取り返しのつかないところまで進んだあとだった。

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