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わくわくして……?

「わぁ! お祭りですか?」

 港町に降り立って、人の賑わいに圧倒され目を見張って発した言葉だった。

 あのあと散々もめにもめたが、セレスティアの願いにミリィが渋々折れる形になった。

 持っていた衣装から大人しめの装束を探し出し、長い髪をうまく束ねて、一見旅の一行に見えるように仕上げてくれた。

 が、船から降りる直前に、レオンに頭からショールをかぶせられたのだった。

 不思議そうな顔で見ると、慌てた風に「日差しが強いから」と言ったが、なぜか船の皆にからかわれていた。

 船を商船に偽装し港へ着くと、留守番を数人残し、食料の買い出しや換金に手分けして向かうことになった。

 レオンとセレスティア、そしてミリィと数人が買い出しとして市に足を向けたのだった。

「コレぐらいの街だと、コレが日常だ」

 いつもとは逆に頭一つ半下にあるレオンの顔が、上を向いていろいろ説明してくれる。

 レオンが肩の上に抱き上げてくれているので、とても高い位置から辺りが一望できた。普段座ってばかりいるので、こんな高い位置から人を見下ろした事が無い。初めて見るものだらけで、目を輝かせてあれこれ聞いてしまった。

「ご、ごめんなさい。一人ではしゃいでしまって……」

 ふと我に返って、かぶっていたショールで恥ずかしそうに顔を隠し、そっとレオンを見た。なんだか、かぶせてもらっててよかったと思う。

 数分前までミリィも付いて来ていたが、どうしても行きたいところがあると、他の船員に案内を頼んでこの場を離れている。待ち合わせ場所は決めているが、今はレオンと二人きりだ。歩けないのでレオンがいなければ何も出来ないのだが。

「その、疲れませんか……ずっと、あの……」

 恥ずかしそうに尋ねるセレスティアの言わんとする事がわかったレオンは、いたずらっぽい笑みを浮かべて答えた。

「そういや、初めて抱えた時と変わらない気がするな~」

 ショールの奥で頬が赤く染まったのがわかった。

 セレスティアはどちらかというと成長が遅れている方だ。閉じ込められて育ったせいか、筋肉も細く全体的に小柄で、16歳という年齢に反して幼く見える。おまけに食も細く、どちらかと言えばやせ過ぎだった。しかし、この3日で劇的に食欲は出た。

 船医の指導で、少しずつ足を動かす為に運動を始めたのだ。

 あまりいい顔をしないが、ミリィにお願いして簡単な手伝いをさせてもらう様になった。

 少しずつ体を動かす様になって、初めて経験する事ばかりにわくわくし、城にいた頃よりは質素であるが、食事がおいしく感じる様になった。

 レオンが言った最初とは、あの重い足枷が付けられていた時の事だ。その時と同じという事は……。

「あの、あの、あの……」

 真っ赤になった顔を隠しながらうろたえるセレスティアを見て、笑いを堪えるあまりしゃがみ込んでしまった。突然踞ったレオンに、落とされない様にしがみつきながら、心配そうに覗き込む。

「!」

 セレスティアはレオンが声を殺して笑っているのに気がつき、ますます顔が熱を帯びるのがわかった。

「あはは!悪かった、悪かったって」

 ショールで顔を隠したまま、反対の手でレオンの頭をぺちぺちとたたき続けた。

 そんな二人に、側の露店の女将が声をかけて来た。

「おやおや、仲のいい事。どうだい、何か買っていかないかい?」

 見ると、特産品なのか、貝殻などで作ったアクセサリーなどが並べてあった。

 レオンはセレスティアを抱き直して店に近づいた。それを見て女将が聞いてきた。

「お嬢ちゃんは足でも悪いのかい?」

「ああ、でも、療養すれば治るんだ」

 レオンが答えた。

「そうかい、よかったねぇ。じゃあどれか気に入ったのがあったらプレゼントしてあげるよ」

「え、でも……」

 初めてあった女将からの言葉に、戸惑うセレスティアに、

「いいから、いいから」

 と、明るく手招きをする。

 レオンは店先の商品を覗き込み、一通り見回していった。

「じゃあ……、オレからと、女将から一つずつってなら、いいだろ?」

 そう言ってコインを数枚、女将に渡して青い貝殻に細かい細工がされているペンダントを選んだ。

「おやまあ、ずいぶん奥ゆかしい子なんだねぇ。遠慮する事無いよ、お兄ちゃんがペンダントを選んだんなら、髪飾りはどうだい?」

 女将は2人が兄妹に見えたらしい。セレスティアの顔を覗き込んで女将が手にしたのは、桜色の貝殻で花のように仕上げられた髪飾りだった。

「これなんか似合いそうだね、試しにつけてご覧?」

 セレスティアは差し出された髪飾りに釘付けになった。

「きれい……」

 ショールを外すと、女将が髪につけてくれた。

 鏡を見てそしてレオンを見た。だが、レオンからは何も反応が返ってこなかった。

「やだよ、あんまり似合うもんだから、お兄ちゃんびっくりしちゃって言葉も無いかね」

「! や、ちがっ」

 慌てるレオンに、セレスティアも真っ赤になった。

「あはははは。それ気に入ったようだね。それで良いのかい?」

「どうもありがとう。とてもうれしい」

 真っ赤になったままだったが、はにかんだ笑みで女将に礼を言った。

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