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親しくなって……?

 海賊に捕らえられて3日目の事だった。

 この3日間は海も穏やかで、あてがわれた船の一室で姫様と侍女は静かに過ごしていた。

「街?……ですか」

「ああ、今回の戦利品を金に換えるんだ」

 向かう先の陸にある大きな港街に寄るのだと言った。

 この船に乗ってから毎日、彼、船長のレオンは部屋へ顔を出し、いろいろな話をし、時には歩けないセレスティアを抱き上げて甲板へ出て外を見せてくれた。

 今日も暇を見つけて顔出した彼から差し出された林檎を受け取り、少し考えるそぶりをしておそるおそる覗き込むように尋ねた。

「私……も?」

 林檎にかじりついたまま、不安顔で見つめるセレスティアを惚けた顔で見返したレオンと、しばし見つめ合っていた。

「いやいやいや!ないないない!!」

 不安な瞳の意味を悟ったレオンは、慌てたように目の前で大きく手を振る。

 身長は180を越える彼も、他愛の無い話やこのような時の仕草は少年のように見えるときがある。

 船に乗っている男達は、体格もまちまちで、強面の者も多いが皆とても気さくだった。皆、とっかえひっかえ覗きに来ては、侍女のミリィに追い返されているのだった。

 セレスティアにとって、今まで部屋に閉じ込められ、尋ねてくる者も限られた者ばかりだったので、とても新鮮で楽しかった。

 その中でも船長だというレオンは、まだ二十歳を過ぎたばかりだという。

「俺たちは人の売買はしねぇ。どさくさまぎれにさらって来ちまったが、どっか行きたいとこがあるんなら、送ってくぜ?」

 ニコニコ笑って言った彼の言葉の最後の方で、セレスティアの表情が曇ったのに気付いた。

 彼から声をかけるより先に、セレスティアの小さな声が聞こえた。

「私の……行きたいところ……」

 生まれた時からずっと、城の奥の部屋に繋がれて暮らして来たセレスティアに、行きたい先など思い浮かばなかった。

 ましてや歩く事もままならない自分。船医だと言う船に同乗していた医師の話では、体力をつけて練習すれば歩けるようにはなるとの事だったが、それはいつの事か。

 すっかり俯いてしまった彼女の頭に大きな手がのせられた。

 はっとして顔を上げると、彼が覗き込むようにして笑って言った。

「とりあえずは、俺たちと一緒に街へ降りて見物するのもいいだろ?」

「!」

 一緒に街へ。その事にうれしかったのか、それとも。

 セレスティアの心臓の鼓動がうるさかった。

「い、いいのですか?」

 大きく見開かれた瞳は、こぼれ落ちそうだった。

 俯いてばかりで分からなかった彼女の瞳の色は、2日前エメラルドのように綺麗なグリーンだと気付いた。

 細くやや波打った髪は蜂蜜色で、結い上げていた髪を下ろすと膝まであると分かったのも、朝日を見せる為に甲板へ連れ出した時だった。

 侍女には身支度をしないまま連れ出した事にえらく怒られたが。

 水平線から登る朝日を、抱き上げたレオンの肩口をし怒りと掴みながら、瞳を輝かせて微笑み見る姿を見ると、侍女に殴られるぐらいどうって事無い思った。

「この下郎!また目を離した隙に、姫様に近づいてっ!!!」

 突然扉を開けて侍女のミリィが入って来て叫んだ。

 手にしていた洗濯物かごをレオンに向かって投げつけようとした。

「軽々しく触れるなと、何度言ったら……」

「あ、あの、いいの、ミリィ。お話してただけよ?」

 そんな二人の間におろおろと止めに入るのも、この3日間ですっかり日常と化していた。

「あのね、あのね、私を街に連れて行ってくださるのですって……」

 少し遠慮がちに、でも、宝石のような瞳を輝かせて言った主の言葉に、ミリィは顎が外れんばかりに口を開け、持っていたかごを当初の予定とは違ったが、レオンの頭の上に落とすことになった。

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