逃走して……?
わずかに顔を上げた少女と目が合ったが、表情は相変わらずだった。次の瞬間までは。
固いものがはじける音とともに、少女の体が宙に浮いた。
「その女も連れて行け! 獲物は全部積み込んだんだろうな?」
そのまま走りながら指示を出し、甲板に出た。
肩に担ぎ上げられた姫君は暴れる事は無かったが、今まで人形の様だった顔に驚きの表情があった。
同じく別の男に担ぎ上げられた侍女は、大暴れだったが。
「船を出せっ!」
そう叫んで、そのまま甲板を蹴り海へ飛び出した。
少女は悲鳴こそあげなかったものの、目を固くつむって抱えている男の肩口をぎゅっと掴んでいた。
海ではなく、床の上に降り立った感覚がわかったが、しがみついた手をすぐ離す事は出来なかった。体が小刻みに震えていた。
その背中を、男は軽くたたいた。子供をなだめるように優しく。
「撒くぞー!! 今日は大収穫だ」
乗組員の歓喜の声と、慌ただしく船を操作する人々の声が響き渡った。
船は張った帆に風を受け、スピードを上げ、その場を離れた。
そのまま細かい指示を出しながら移動し、船内への扉を開けた。その時、「まるっきり感情が無い訳じゃないんだな」と言う男のつぶやきに、少女の体はびくりと反応したのが分かった。
部屋へ入ると簡素なベッドの上に少女を下ろし、座らせると同時に、一人の男が入って来た。
「頭、持ってきやした」
手に持って来たいくつかの細い金属を渡す。
「おお、さんきゅ♪」
受け取った金属の中から一つを選び、姫君のスカートをまくり上げる。
少し驚いたか多する少女に、裾を少し持ち上げる様に言った。
「ちょっと待ってろよ」
そう言って枷のはまった足に手をかけ、鍵穴に金属を差し込みいじり始めた。
少女はおとなしく座ったまま、やや首を傾げるように覗き込んでいた。次の瞬間、かちりと音がしたかと思うと、大きな音を立てて枷が床に落ちた。
「重かったろ? これで……」
「姫様っ」
得意げに顔を覗き込んだところに、一緒に連れてきた侍女が駆け込んで来た。男は突き飛ばされて部屋の隅に転げた。
「か、頭?!」
「姫様、お怪我はありませんか? 何もされてませんか?」
おろおろする侍女は、スカートが捲れ、はだけた足に枷がなくなっている事に気付いた。
戸惑ったような表情で、自分の足を見る少女に、侍女は涙を浮かべ言った。
「せっかく枷が取れたのに、このような者に捕まってしまって……」
「外してやったこんな者に、この仕打ちか!」
頭をさすりながら抗議してきた。




