囚われて……?
2隻の船に守られるように進む1艘の大きな船。
その船は3大王国の一つグレイプニルから、最近勢力を拡大し始めた隣国、ナザルへの友好の為の多くの品と、その国の王へ政略の為に花嫁として贈られることになった一人の姫が乗っていた。
船の奥の部屋で窓の外を見る事も無く、ただ人形のように毛足の長い絨毯に、沢山のクッションに埋もれる様に座り込む少女が一人。
「姫様、お茶をお持ちしますか?」
そばにいた侍女が声をかけるが、ただ首を横に振るだけで、また人形のように一点を見つめているだけだった。
侍女は少し考え込んだ様子だったが、少し席をはずすと言って部屋を出た。
一人残されても微動だにせず、愁いを帯びた表情のまま座っていた。
そのとき、突然大きな音と揺れが船を襲った。
「きゃっ」
一言だけ漏らし、体がクッションの中へ倒れ込む。
その直後、また何度かの揺れと、人の怒号と悲鳴が響き渡った。
しばらくしてざわめきと沢山の靴音が近づいてくるのがわかった。そして、聞き慣れた侍女の声も。
そして部屋の扉が荒々しく開かれた。
数人の見知らぬ男達が入って来た。と、言ってもこの船に乗っている者達の顔は、付き添っていた侍女以外ほとんど知らないのだったが。
見知らぬというのは、着ている服が皆バラバラで、城の者達と違うという事である。その男達の後ろから一人の若い男と、とらわれた形の侍女も。
「姫様!姫様っ!」
必死に押さえられた手を振りほどき駆け寄ろうとするが、屈強な男に押さえられてそれもままならない。
「へぇ~、まだまだ発展途上ってとこだが、なかなか」
侍女と一緒に入って来た若い男が、値踏みするように見回しながら近づいてくる。
傍らに片膝を付き、顎に手をかけ顔を上に向かせた。
「……」
その顔を見て男は眉根を寄せた。状況がわからない訳でもあるまいに、声一つあげず、まして表情は恐怖よりも、どこかあきらめのような心ここにあらずと言った顔をしている少女に。
男は少女のその足下に、部屋に似つかわしくない代物を見つける。
次の瞬間の行動に、侍女の他、一緒に部屋に入っていた男達も驚いた。
「何やってんすか?!お頭っ!!」
「ちょっ!ガキじゃあるまいし!!」
いきなり少女のスカートをめくり上げたのだ。
だが、その足下を見て他の男達も目を剥いた。
少女の足には、鉄の足枷がはめられ、鎖に繋がれていたのだった。
「おい、女」
頭と呼ばれた男は、振り向かずに侍女に声をかけた。
「お前さっき『姫様』って呼んでたが、コレはなんだ?」
心なしか、声のトーンが落ちたような気がする。
「どうにも、一介の国の姫さんが身につけるアクセサリーには見えねぇんだが」
部屋と豪華な衣装とはまるで似つかわしくない囚人のような扱い。替え玉か?
しかし先ほどから少女は表情も変える事無く、ただ座り続けている。人形のように。
男達に押さえられながら侍女は俯き、目をそらす。
そこへ別の男が駆け込んでくる。
「頭っ、船が数隻近づいてくる。おそらく軍艦だっ」
「ずらかるぞ!!」
すかさず指示を出し、側で斧のような大剣を持っていた部下からそれを奪うと、少女の前に立った。
「?! 姫様っ」
引きつった声を上げる侍女を尻目に、剣を振り上げた。




