あめがふる
六月に入って、梅雨に入り始めたとき。
誰に言うでもない声が部屋に響いた。
「あめ、やまないかな~。」
その言葉にふと気になって、彼女に歩み寄る。
「りんちゃんは、雨が嫌いなの?」
「うん。」
彼女――――というには、幼い彼女は、下を向く。
「なんで?」
「とにかくきらいなの。」
意地を張っているようなりんちゃんに笑みがこぼれそうになる。
ただ、このような場合、笑うことでりんちゃんの機嫌を損ねかねない。
「佐藤先生、なおちゃんとりおちゃんのお迎えのお兄さん着てますよ~。」
「あっ、はい。」
先ほどまで、りんちゃんと一緒に遊んでいた彼女たちは、もう夢の国だ。
「なおちゃんとりおちゃん、早く起きて~。」
「あっ、大丈夫ですよ、背負って帰ります。」
お兄さんは、にっこり笑いながら、なおちゃんを背負う。
「零、りおのこと持てるか?」
「普通に持てるし。」
少し小さめのお兄さんは、よっこらせと言うように、りおちゃんを背負う。
「じゃあ、ありがとうございます。」
「はーい。」
なおちゃんとりおちゃんを起こさないように小さい声で言う。
そんなやり取りを終わらせてから、ふと気付く。
このやり取りをうらやましそうに彼女――――りんちゃんが見ていたことだ。
「りんちゃん、いいこと教えてあげようか?」
「なに?」
少しおませなりんちゃんは、むすっとしている。
りんちゃんは、ご両親ともお仕事が忙しく、いつも預かり時間のギリギリにお迎えにくる。
それに、りんちゃんは、兄弟がいるという話も聞いたことがない。
「りんちゃんのお母さん、今日は早く来てくれるってよ。」
「ほんとうに?」
「うん。」
彼女の顔がパァっと明るくなるのが分かった。
雨が嫌いなのは、きっと、寂しさを余計感じるからなのだろう。
「なおちゃんもりおちゃんもさ、おにいちゃんいていいなっていったら、【あげないよ】っていうんだ。」
「そっかぁ。でも、りんちゃんにもさ、弟とか妹とかできたら、嬉しい?」
「うん。」
うれしそうに言うりんちゃんの顔を見て、一安心する。
きっと、彼女なら、可愛がるんだろうな~。
「佐藤先生、はなの迎えに来ました。」
「あら、凛ちゃん。」
私が笑うと、彼女ははにかんだ。
三年前に見た彼女は哀しげだったが、今は晴れやかだ。
「梅雨は、好き?凛ちゃん。」
「いいえ、嫌いです。」
「そう。」
その言葉を聞いて、変わらないなと思う。
「はなちゃん、お迎えですよ~。」
それでも、この子は、雨は好きなようで。
「りんねーちゃん、ながぐつ、ながぐつ。」
「はいはい。」
長靴をはけるのが、よほどうれしいらしい。
「それじゃあ、先生、また明日。」
「じゃあね、はなちゃん、バイバイ。」
「ばいばーい。」
うれしそうに手を振るはなちゃん。
手を振っていないほうの手で、ギュッと凛ちゃんの手を握っていた。
楽しそうに帰るはなちゃんの顔に、あの日のりんちゃんの顔を照らし合わせた。
シリーズから、四人のゲストがいました~ww




