始まりの日
―――20XX年―――
新鋭ゲーム会社の新作MMORPG内に、プレイヤーが閉じ込められるという現象が起きた。
それは世界を震撼させる大事件となった。
ゲーム内に閉じ込められ、外部からの情報は入ってくることも適わず、混乱の最中―――
おれは、畑を耕していた。
いやだって、畑は毎日世話しないと、ね?
後で聞いた話だが、ログアウト場所からのスタート。
戦闘中はログアウト出来ないので、大半のプレイヤーが町中に集中していたらしい。
おれの場合は山の中の自分の持ち家だったのだ。
なので必然的に周りには誰もおらず、現状も分からず。
坊との連絡が繋がるまで、なーんにも知らなかったのである。
「ん?……気のせいか」
最近、何かと耳鳴りが酷い。
たまに目がチカチカすることもあるし。
首を捻りながらも、おれは今日も野良仕事。
この世界にはイベントでもない限り、雨が降らない。
自生植物はそれでも何故か育つ。
しかし自分で育てている植物はそうもいかないらしい。
井戸水からホースを引っ張って、水を遣り。
それから草むしりや害虫駆除、必要があれば間引きや添木。
そうこうしている内に日も高くなって来た。
毎日晴天。洗濯日和。
ぐーっと伸びをして、
「よし、昼飯だー!」
冷たいうどんが食べたいな。
大根あったしおろしにして……穴子の天ぷらも添えて穴子のぶっかけうどんにしよう。
薬味はカイワレと長ネギで良いかな。
つくづく色んなスキル獲得しといて良かったと思う。
自給自足の生活で不足分は何でも自分で作り出せる。
漁師のスキルが無ければ、もしかすると魚は食べられなかったかもしれないし。
自分の土地に川があったのは幸運だった。
海も近くにあり、比較的楽に漁に出られる。
昼飯を食い終わったし、午後は狩りにでも行くか。
自分の小屋は山中なので、狩りをするにも楽である。
「なーにっがとっれるっかな~」
今のところ食べられる獣を確認できたのは兎・鹿・猪・鶉・熊くらいである。
鶏と牛は小屋付近で飼っているので玉子や乳製品は手に入る。
買わないと手に入らないものは豚肉や缶詰などの加工食品、しかしそれらも買い置きがあるので今のところ大丈夫だ。
システム上腐らないからと買い置きし過ぎて置いて良かった。
そんなわけで夕飯は猪鍋に決定。
野菜は畑から収穫し、鍋を煮込む。
一味をかけてはふはふ食う。
汗はだらだら流れ落ちるがそれが良いのだ。
あとでシャワーを浴びてさっぱりしよう。
「ん?」
また耳鳴りというか空耳というか……。
目もチカチカするし。
「いつもこの辺りなんだよなぁ……」
なんとなく、手を伸ばす。
『あー!やっとつながったぁ!!ちょっとななちゃん!無視しすぎなんだけど!!』
「は?坊?ナニコレ」
『何これって、フレンドリスト!教えたでしょ!?』
「あー……」
そういえば、坊に登録させられたっけ。
ゲームであまり人と関わってないし、坊しか登録されてないしな。
「で、どうした?」
『で、どうした?じゃないでしょ!ななちゃん現状わかってんの!?』
「現状?」
『だから!僕らゲーム内に閉じ込められちゃってるでしょ!』
「あーはいはい、わかってるわかってる」
『脱出のための手掛かりを探すの。こっちに来て』
「だが断る」
『はぁ!?』
「とにかくおれ今晩飯中だから。じゃあな」
強制終了。
さぁ〆は何にしようか。
うどんか米かそれとも団子か?
ナナシノゴンベエ(32)、MMORPG迷い込みという貴重な体験中ながらも、夕飯に夢中。