表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

全音・シ

作者: 山藤里菜
掲載日:2026/05/24



高い音がする。

震えるのに、重ならない。

指先が滑って落ちた。


ピアノを弾く指先は、跳ねなかった。

並んだ音符は同じに見えた。


「あなた、やる気ある?」

大人はため息を吐いた。

項垂れたふりして首を小さく振る。


「ちゃんと、練習して来なさい。」

私は一礼する。

背中に刺すような視線があった。




その帰り道は、狭かった。

満月が、見えた。


楽譜の入った手提げが揺れる。

置いて行ってしまおうか。

けれど、母が過ってしまう。


母は耳が良かった。

それは、呪いだ。


「ただいま。」

その言葉すら、声にならない。


思い出せない音がある。


母は何も聞かない。

無言でオムライスを食べる。

スプーンを皿に置くと、音がした。

無くしたのは、もっと高い音だった。




深夜の灯りは、遠い。

黙っていた。

空が白むのを待った。


私は何も触らない。

知っていたから、指先が滑る。


ピアノに反射する私の視線が落ちる。


あの音を、忘れたわけじゃない。


きっと、こんな時間に弾いたら、怒られてしまう。

それが私を掻き立てた。


もう、いいよ。


小さな音は、私だった。

鍵盤の右端を、指先が決める。


震える小さな高音を、置いた。

それは、重なる前のようだった。





お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ