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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【’S 】アポストロフィーエス

作者: motomaru

 僕、高校二年生の日生曉ひなせあきは何時も友人の佐伯遠豪さえきとうごと一緒に登校する。


 どういう訳か、遠豪は中学の時からずっと僕と一緒に登校する為に毎朝誘いにやって来る。


別に家が近いという訳でもないのにだ。


それがもう三年以上続いている。


 遠豪は背も高くてカッコいい爽やかイケメンで、女子にモテモテだ。


その遠豪が、平凡でこれといった取り柄も無い僕と何故友人でいるのか?僕自身、不思議でしょうがない。


 学校が近くなると、同級生達が声を掛けてくる。


勿論、それは僕にではなく、遠豪に向けられているものだ。


「おはよう〜」


「っはよ~」


「おう、おはよ」


 遠豪は誰にでも気軽に挨拶を返す。


きっと同級生で遠豪を知らない者は居ないだろう。


いや、もしかしたらこの学校の生徒全員が知っているかもしれない。


それくらい遠豪は目立つ存在だ。


 180cmの長身に弓道で鍛えられた逞しい四肢と体は、男の僕でさえ眩しくて憧れる。


 僕はそんな事を思いながら、何時もの光景を横目に校門を過ぎて昇降口まで行く。


中に入って上履きに履き替える為に靴を脱いでから靴箱を開けると、誰が置いたのか、上履きの上に綺麗に四つ折りにされたメモ用紙の様な物がちょこんと乗っていた。


 僕はそれを手に取って広げてみる。


紙には〘お話ししたい事があります、昼休みに体育館裏に来て下さい〙とだけ書かれていて、他には差出人の名前も何も無かった。


(誰だろう?隣の遠豪の靴箱と間違えてるんじゃないのかな……?)


 僕がそう思っていると、横で見ていた遠豪が不意に紙を取り上げて


「お話ししたい事があります、昼休みに体育館裏に来て下さい」


と小さく声に出して読み上げた。


「あっ、コラ遠豪、返せよ」


 僕が少し怒ったように言うと、遠豪は紙を折り畳んで僕の胸ポケットに突っ込んでから、冗談混じりにポンポンと指の腹で軽く叩いてみせた。


それから上履きに履き替えながら


「で、行くのか?」


と聞いてきた。


「行かない」


「なんで?」


遠豪が“意外”というような顔をする。


「これ…遠豪の靴箱と間違えたんじゃないのかな……?」


「そんな訳ない。こんな事するのに間違えるとかあり得ないだろ」


遠豪は呆れたように言ったが、僕はそうは思えなかった。


「そうかな……」


「そうだよ、とにかく行ってみれば分かるだろ?」


遠豪は上履きに履き替えている僕に笑いながら言った。


「い・や・だ」


僕は少し不機嫌になって一文字ずつ区

切って返事をした。


「え〜、行ってやれよ、ずっと待ってたら可哀想だろ?」


遠豪はまるで僕が人でなしの様なことを言う。


「分かったよ、行けば良いんだろ行けば……!」


僕は半分ヤケになってそう答えると、遠豪と並んで教室へ向った。


 正直、遠豪からそんな事を言われると何だか少し悲しくなる。


それなのに廊下を歩きながら遠豪が僕の肩に腕を回して悪ふざけするように抱きついてくると、高鳴る胸の鼓動を知られたくなくて


「離れろッ!」


と、つい無下に扱ってしまうのだ。


 人見知りだった僕が、学校や今のクラスに馴染めているのは遠豪が僕を対等に扱ってくれるうえに、さり気なくサポートしてくれるからだ。


 そんな遠豪を僕は…きっと好きだ……


ただ憧れてるだけ…自分にそう言い聞かせて、なるべく遠豪から目を逸らせている。


そんな僕の気持を知ってか知らずか、遠豪はやたらとスキンシップをしてくるのだ。


「あき〜、メシ食べよ〜」


 昼休みになると、遠豪が弁当を持って自分の席から僕の席にやって来る。


遠豪は机を二つ向かい合わせにくっつけて座ると、弁当を広げ、パチンと掌を合わせて


「頂きます」


と軽く頭を下げてから食べ始める。


僕もそれに習って掌を合わせてから食べ始めた。


 暫くすると遠豪が


「曉、玉子焼きくれよ」


と僕の弁当箱を指差す。


「え〜、遠豪のにも入ってただろ?」


「曉ん家の玉子焼き俺好みの味で好きなんだ」


そう言って遠豪は何時も僕の弁当から玉子焼きをかっさらって行くのだ。


と言っても、他人ひとの弁当箱に勝手に箸を突っ込む様な無作法なマネはしない。


「いいよ」


 仕方なく僕が玉子焼きを遠豪の弁当箱に移そうとすると、遠豪は


「あ〜ん」


と言いながら口を開けてくる。


「は?自分で食べろ」


僕が冷ややかな目をして遠豪の弁当箱に玉子焼きを放り込むと、遠豪は


「たまには食べさせてくれたって良いだろ?」


と口を尖らせた。


「頼むからそういうの止めてくれ、恥ずかしいから」


 僕は眉を顰めて俯いた。


そんな事をしたら、きっと顔が赤くなって僕の気持ちがバレてしまう、それだけは絶対に避けたかった。 


「相変わらず夫夫ふうふ仲が良いねェ〜」


「いよッ佐伯夫妻!」


 傍を通るクラスメイト達が冷やかして行く。


「ほら見ろ、遠豪のせいだからな」


僕は怒ったように遠豪を睨み付けてやった。


「ん〜いいだろ別に……言いたいヤツには言わせておけば……」


遠豪は拗ねたように僕を見るが、それを無視して僕はひたすら弁当を食べ続けた。


そして急いで食べ終えると、空になった弁当箱をサッサと片付けて席を立った。


「曉、どこ行くんだ?」


 最後の一口を頬張りながら遠豪が

聞いてくる。


「体育館裏、遠豪が行けって言ったんだろ」 


僕は声を抑えてぶっきらぼうに答えた。


「え、ああ…うん、行って来い」


遠豪の返事を聞いて、僕は教室を後にしたが、その後直ぐに遠豪が僕の後を追って来たことを僕は知らなかった。


 渡り廊下を伝って体育館裏へ行くと、そこに見るからに一年生と分かる、小柄で利発そうな目をした少年が待っていた。


「ごめん、待たせたかな…?」


不安気な顔で僕を見詰めている様子を見て、僕は


(弁当を食べる前に来たほうが良かったかな……?)


と少し後悔した。


「いいえ、僕もさっき来たばかりです」


少年はそう答えたが、それが常套句だという事くらい直ぐに分かる。 


 どうやら遠豪の靴箱と間違えた訳では無さそうだ。


「僕に話したい事って、何?」

 

 僕は極力柔らかな声で尋ねた。


「あの…僕、一年の長谷川啓太といい

ます。日生先輩…好きです、僕と付き合って下さい……」


長谷川啓太と名乗った少年は、そう言って手を差し出しながら頭を下げた。


「えっと…あの……」


 こんな何の取り柄も無い、冴えない僕のどこが良いんだろう?


そんな事を思いつつも、突然の告白に戸惑っていると


「悪いけど、こいつはダメだよ」


と、後で声がした。


振り返ると、そこに遠豪が立っていた。


「遠豪……?」


「佐伯先輩……」


 遠豪は僕の跡をつけて来て、体育館の陰から話しを聞いていたようだ。


「悪いけど……」


 遠豪はそう言いながら僕の腕を掴んで啓太の方へ向けさせると、顔を上げた啓太に向って


「こいつ、俺のアポストロフィー付いてるから」


と、訳の分からない事を言った。 


「遠豪ッ!何訳の分からない事言ってるんだ?」


僕は思わず声を上げてもう一度振り返ろうとしたが、僕の腕を掴んだままの遠豪の力に阻止されてしまった。


「は?何それ、どういう意味ですか?」


啓太も半ば呆れたように尋ねた。


すると遠豪は 


「習っただろ?アポストロフィーエス、所有格を表すって」


そう言われても、啓太はまだよく意味が飲み込めていないようだ。


「要するに……」


遠豪はそう言いながら、後から僕を抱きすくめると肩に顎を乗せて


「こいつは俺のものってこと」 


と啓太に見せつける様にして続けた。


 それを見た啓太は何度も頷くように首を縦に振りながら後退りすると、クルリと踵を返して走り去ってしまった。


 遠豪に抱き竦められた僕は、喉から心臓が飛び出そうなほど鼓動が激しくなって、息をするのもやっとという有様だ。


抱き付かれるのには慣れている筈なのに、今は何故か何時もの遠豪と違うような気がした。


「遠豪ッ、離れろ!」


 僕はやっとのことで声を絞り出した。


遠豪がハッとしたように手を緩めたので、僕は振り返って


「何であんなこと言ったんだ?誤解されただろ」


と怒ったように言った。


頬が熱くて、明らかに蒸気しているのが自分でも分かる。


それを見られたくなくて僕は俯いていた。


「曉は嫌なのか?誤解されるの…」


「………」


僕は何も答えられなかった。


複雑な思いから答えを引き出すには時間が必要だ。


「てか、俺…本気だから」


「は?」


 僕は思わず顔を上げて遠豪を見た。


「俺、本気で曉のこと好きだから」


遠豪の言葉が僕の心を掻き乱して益々複雑にする。


「冗談…だろ……?」


「冗談でこんなこと言う訳ないだろ」


遠豪は真剣な眼差しで真っ直ぐに僕を見詰めている。 


「だって…遠豪みたいにモテるヤツに僕みたいな…地味で平凡なのを好きだって言われても信じられる訳ないだろ……」


「曉は自分の良さが分かってないのな……」 


 遠豪が顔を近付けて言った。


「自分の……良さ……?」


僕は問いかけるように呟いた。


遠豪の顔が近過ぎて顔から火が出そうなほど頬が熱い、


「曉、十兵衛を拾った時のこと憶えてるか?」


 遠豪が唐突に聞いてきた。


十兵衛というのは僕の家で飼っている黒猫の名前だ。 


「憶えてるよ」


 中学二年の時のある日、帰り道で公園の入り口に段ボールに入れられて捨てられていた十兵衛を見付けて、放っておけずに連れて帰ってしまったのだ。


「あん時、俺見てたんだ」


「え……」


言われてみれば、途中まで遠豪と帰る方向が同じだった。


「十兵衛抱き上げて『もう大丈夫だよ、一緒に帰ろうね』って言った時の曉の横顔が…あったかくて優しくて……今でも忘れられない。あの時俺は……曉が好きになったんだ」


 そうだ…思い出した。


遠豪が始めて話し掛けてきたのは十兵衛を拾った次の日だ。


およそ釣り合わない自分の側に何故か何時も遠豪が居る……何時も不思議に思っていたその答えが、今やっと分かった。


「俺は何時も好きアピールしてたのに、曉は全然気付いてくれないんだもんなぁ…」


「それは……」


 僕はそれをよくある男子のじゃれ合いくらいに思ってた、そしてドキドキしていることを知られたくなくて、態と遠豪に素っ気なくしていたのだ。


「曉は優しくて……」


 遠豪はそう言いながら上着のボタンを外すと、僕の手を取って自分の胸に当てた。


力強く脈打つ鼓動が、手を通して僕の胸に伝わり、僕の鼓動と共鳴する。


「曉と一緒に居るとここがあったかくて、幸せになるんだ……」


「でも僕は、何時も遠豪に素っ気なくしてたのに……」


「知ってる。でもそれは本当の曉じゃない、本当の曉は…優しくて他人を傷つけるような事はしない」


「遠豪……」


僕はこの時、遠豪が僕のことをちゃんと見てくれているんだと知って嬉しかった。


「俺は曉が好きだ。だから…付き合って下さい」


 何時もカッコいい遠豪の、顔を赤らめている姿がなんだか可愛くて、僕の鼓動はいっそう速くなった。


「曉が…男同士が嫌なら無理強いはしない…でもそれならせめて…友達のままでいさせてくれ……」


 切なく歪んだ遠豪の眉が、僕の胸を揺さぶる。


「遠豪……」


「曉は…俺のことどう思ってる?好きか……?それともただの友達?」


「僕も……遠豪が…好き……」 


 消え入りそうな声で僕がそう答えると、遠豪は僕を抱き締めて優しいキスをした。


そして唇を離すと


「曉、返事は?」


と僕の目を見詰めて言った。


「あ…はい。あの…よろしく…お願い…します…」


僕は途切れ途切れにそう答えるのが精一杯だった。


「ありがとう…曉」


 遠豪はもう一度僕を抱き締めた。


「遠豪…こんなとこ誰かに見られたら……」


そう言いながらも、僕は遠豪の胸に顔を埋めた。


心臓の音がトクントクンと聞こえる。


「別に見られたっていい。俺は曉が大好きだから」


遠豪はその名前の通りに豪気なようだ。


「遠豪……」


僕は顔を上げて遠豪を見詰めた。


「曉……」


遠豪も僕を見詰めている。


自然に顔が近づいて、僕達はお互いの気持を確かめ合うようにもう一度キスをした。


 こうして僕達二人は正式に付き合う事になった。


それでも、僕達の学生生活にこれと言って変わりはない。


変わったと言えば、遠豪のじゃれ付きに僕が少しだけ付き合うようになった事くらいだ。


 例えば玉子焼き。


何時ものように遠豪は


「あき〜玉子焼き」


と言って


「あ〜ん」


と口を開けてねだってくる。


今までの僕なら


「自分で食べろ」


と素っ気なく突き放していたところだ。


でも今はちゃんと食べさせてやっている。 


もともと遠豪は何時も僕にじゃれ付いていたし、仲がいいのはみんな知っている。


少しくらいイチャついても僕達が付き合っているなんて誰も思わないだろう。


 この先、僕達の未来がどんな”かたち“になっていくのか、今はまだ分からないけれど……


遠豪のアポストロフィーは当分の間…外れそうに無いようだ。


         END



























































短編も初めてなら一人称も初めてで、オマケにド素人の小説です。

何かご意見、ご感想など頂けたら幸いです。


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