第17話
いやおかしい、家に誰かいるはずなんてない…だって親なんて当然あり得ないし、唯一来れるとしたら鍵を持ってる真美さんくらいなはずなのに。
僕は久しぶりに体を身構え、そろりそろりと息を殺すようにリビングへ向かう。
*カチャリ*
目の前には想像できないような光景が広がっていた、そう予想できるはずがない!、天川さんがエプロン姿で料理しているなんて…今日はそういう予定もないはずだし家に入るすべがないはずなのに。
「天川さんどうして…ここに?」
きっと今の僕の声は相当冷たく聞こえるはずだ、それも昔の事件の影響でこういうことには敏感になってしまったからだ。
「どうしてって料理を作りにだよぉ~」
「いや信じれないよだって君は僕の家に入る手段がないはずだ、それに今日は作ってもらう予定の日じゃない」
「覚えてないの!?私鍵返し忘れててさ、それを返すついでに料理を作りに来たの、でもメッセージが返ってこないから、もう作っちゃおうかなって思って…でもごめん、確かに勝手に作り始めるのは野暮だったよね…」
「こっちこそごめん、メッセージはちょうど充電が切れて使えなくなってたんだ、それに返してもらうのを忘れてたのはこっちのほうだし、でもいきなり作るのは確かにびっくりするから前日までに必ず教えてくれ…」
「わかった!ありがとう、千秋」
もしかしたらそうとう天川さんは僕のことを怖がっていたかもしれない、天川さんは内側を隠すのがとってもうまいから僕にも判断のしようがないし…
「ごめん、こんな冷たい声出して…正直怖かったよね?」
「そんなことないよ、むしろ新たな一面が知れてよかったよ!」
これは自分の思い込みかもしれない、でもこのときの彼女の表情だけは嘘偽りない笑顔だった。
♢♢♢
「そろそろ帰るよ、鍵ここに置いとくね」
「いや、その鍵まだ持っててよ、料理作りに来るときなにかとあったほうがいいと思うし…」
「わかった!」
「ちょっと待って、さすがにこんな時間に一人で歩かせるわけにはいかないし、僕も行くよ」
「あ…ありがとう…」
照れながら赤面する表情はとても凛々しく、とてもかわいらしかった。
「もう!見惚れてないでさっさと行くよ!!」
「はい!」
♢♢♢
「最近イベントばっかで忙しいね…」
「そうだね、天川さんはとくにクラスの中心だから楽しいだろうけどその分疲労もたまるだろうから無理はしないようにね」
「バイトいつも頑張って家でもなんか頑張って、食生活が私がいないと全然な人に言われたくないですぅ~」
「それは仕方がないことだから、あはは…」
「むぅ」
「そんなかわいらしい顔されても何も変わらないよ」
「かわいらしいって!?」
「あ、顔赤くなった!」
「もうそんなこと言うからでしょ!!そんなからかうならもう作ってあげませんよぉ~」
「すいません、これからもつくってください!」
「よろしい!!じゃあもうここでいいよ、すぐそこだから」
「わかったじゃあまたね」
「またねぇ~」
月夜に照らされる彼女の顔は神々しく、神秘的で魅力的だ、ほんとうに夜が似合うな、天川さんは。
♢♢♢
体育祭が近いということで、クラスで体育祭二大イベントの一つ、クラス対抗リレーの練習中なんだが。
「あと少しだぞ、千秋!!あとは任せろ!!」
まさにこの体育祭は陽キャのためだけのイベントである、陰キャは目立ちたくないと思っての強制で少しは目立つ、そんな地獄のようなイベントだ。それに比べ陽キャは陰キャの目立ち効果の相乗効果もあるためいつも以上輝く場でもある。だから僕はまるで僕らを踏み台にするようなこのイベントが大っ嫌いである。
「おつかれですなぁ~千秋君!!」
「何の用だ菅野下」
「一つ質問したくて、君はなぜ本気を出さないんですか?」
「それは…」
「答えたくないならいいんです、答えたくないのなら…」
菅野下蒼、やはり不思議な女性だ、いつもオタクでばかやってるのに時折すべてを見透かしているようで末恐ろしいなほんとに。




