ー第4話涙の色
8時開場で8時半スタート。
普通は午後にバンドが来てリハーサルをやるが、渋滞で遅れるとスマホにメールが来た。
しかし、8時になっても来ない。
「新乃助さん。メール来た……玉突き事故が2つで行けません………東京に居る仲間が代わりに行きます。ドラムとエレキと女性ボーカルです……だって」
「名前は?」
「宮川さん」
すると。入口にドラムスティックを持った、メガネの男性が現れた。
「すいません。スモーキーズの代わりに来ました。宮川です」
「はい。お待ちしてました」
と言って絶句した。
「えっ?!宮川剛さん?」
「はい。はじめまして。えっと、ギターの福澤にAmerさんです」
「福澤和也?Aimer?」
「よろしく」
三人は新乃助と握手して、ステージに上がって行った。
咲子が耳打ちして来る。
ーなんでAimerが?偽物?ー
ー本物だよ。宮川さんはAimerの後ろで叩いてるー
しばらく、セッティングが続き、演奏が始まった。
「やだ!これ、この前上げた私の歌」
手を伸ばし すり抜けた
春の風を追い掛けたら
いつの間にか 過ぎ去った
遠い日々が微笑んでいた
揺れる心抱いて
触れられないで
この想いは募ってくばっかで
空を見ていた
君を見ていた
何もかも忘れて
淡い光をその胸に溶かして
過去をつかまえたら
抱きしめるように
許し合うように
今が始まる
プロの演奏と歌が2時間も続いた。2人いたお客もパニックで、知り合いに電話を始める。
1時間後には満杯になった。
終わると、ミキサーをやってた香澄お母さんに、プロ達は握手を求めに行く。
打ち上げになり、宮川剛氏がソフトケースのギターに気付いた。
「これは?誰の?」
新乃助がビールを注ぎながら言う。
「スタッフの。咲子さんのギターです」
福澤和也氏が反応する。
「じゃあ一曲お願いします」
完璧に酔っぱらっている。
新乃助は断ると思ったが、立ち上がって言った。
「新乃助さん。弾き語りのセッティングをお願い」
さようならを告げるたびに
涙の色は増えてった
「また会おう」手を振ったら
じんわり空が滲んでいた
流れてゆく時の隅で
立ち止まってしまいそうな君の冷えた手をとった
握りしめて離さないから
いつまで元気でいてね
大丈夫だと笑って見せた
君の頬を伝ったひとすじの
やさしさを忘れない
午前1時にプロ達は帰った。
Aimer氏は咲子に別れ際言った。
「咲ちゃん。一番最初の歌、ステージでカバーして良い?」
「えっ?じゃあ、歌詞にギターコード付いたコピー渡します!」
「だいたい覚えてるけど、助かります」
咲子はトートバッグから探して渡した。
「tear‘s colorか……どうしてティーが小文字?」
「なんか、小文字かなって思って」
「そう……素敵ね。ありがとう。また歌いに来て良い?」
「もちろんです!私もライブ行きます!」
「でも。咲子さんとはステージを御一緒したいな。ゲストに来て下さいます?」
「はい。頑張って、上手くなったらぜひ」
「上手い必要は無いの。素敵かどうか。あなたは素敵よ?」
「……………」
プロは素人を揺さぶって帰った。