ー第2話デンタルミュージック
「ここです」
ギター女子は靴屋の看板の下で言った。
新乃助はギター女子に言う。
「すいません。槇原です。槇原新乃助と云います。お名前は?」
「えっ三上咲子です」
「なんとお呼びすれば良いですか?」
「みんなは、咲姫と呼んでくれます。あの。近くにそういう公園があるので」
「では。咲姫。僕はシンちゃんと呼んで下さい。小学校からのアダ名なんです」
「クレヨンしんちゃん?」
「そうです。呼びにくかったら新乃助でも良いです」
「じゃあ。新乃助さん。この歯医者の地下がデンタルミュージックです」
地下に降りると、オシャレな老婦人が居た。
ミキサー卓に向かって座って、笑顔で迎えてくれた。
「今日のライブの人?」
「いえ。YouTubeのコメント欄の槇原です」
「あぁ。あ~あ~、槇原さん。住み込みで働いてくれるのね?」
「はい。でも若い娘さんがみえるので、アパートを探します」
「そんな、私は大丈夫です。でも、お母さん。聞いてない」
「昨日ね。コメント欄で槇原さんが行きたいって。まさか、こんなに早いとはおもわなかったわ」
老婦人はコロコロ笑った。
「すいません!嬉しくて。出直します」
新乃助は出ようとしたが、動けない。
見ると、裾を詰めていないチノパンの裾を、咲姫が踏んでいた。
「あの。行かないで下さい。私は大丈夫です。前、住み込みで働いてくれる人、急に駄目になって、部屋も全部用意してあるんです。でも、覗いたりしないで下さいね」
老婦人はまたコロコロ笑った。
「この人はサムライよ。姫に恥じを掻かせる事はしない。それに、こんな男みたいな娘、覗かないわよ」
咲子が文句言う前に新乃助が言った。
「いえ。咲姫さんは素敵な女性です」
老婦人は笑いながら上目遣いで2人を見た。
「あらあら。ご馳走さま」
老婦人は笑い続けている。
「お母さんやめて。シンちゃん、部屋案内します」
新乃助は咲子に引っ張り出された。
「照れてるの?大人になったね」
声が追い掛けて来た。