沙耶とレイラ①
高校を卒業して沙耶と瑠璃は違う道に進む、瑠璃は名門早稲川大学に特別体育推薦で入り、私はプロの道に進んだ。
丁度高校との契約が終わったモルトジャールがコーチに付いてくれた。試合のスケジュールやフィジカル、テニスのトレーニング、ホテルや練習コートの確保まで全てやってくれた。
私は鏡の前で笑顔の練習したり、サインを考えたりしていたが、それどころでは無かった。
勝てなかった、もう7ヶ月間1試合も勝てなかった。勝ちたいと思えば思うほど、、、
オーストラリアで地元のジュニアに負けた時は自分の才能を疑い、テニスをやめようと思ってしまった。
だがモルトジャールは落ち込むことも許さなかった。試合が終わると試合会場の練習コートを取り、ミスの多かったパターンや基本的なショットの練習を要求して来た。
モルトジャールは高校の時とは別人の様に厳しかった。次の大会が始まるまで勝ち上がっている選手の練習相手やトレーニングをびっしり入れて来た。
「ちょっと用事があるから次のモントリオールW15はこのメモと従って1人で行ってくれる?試合には間に合うと思う。空港には鈴木さんがいるから、心配しないでね」
コーチから受け取ったメモには
「明日のエア・カナダ10:25の便、バンクーバーで乗り換え、、次の日の9:20の便でモントリオールに着くのは17:00。GOOD LUCK!」と書いてあった。
初めて1人での移動だ、緊張するが嬉しくもあった。何だか大冒険が始まるみたい。
イヤホンでブルーノマーズを聴きながら、ラケバを背負ってキャリーバッグを引いてシドニー空港を歩いていたら、何だか気分が上がってきた。
シドニー空港でスモウと言う謎のサンドイッチを食べ、バンクーバーでは到着ロビー付近にあるティムホートンの匂いに誘われてドーナッツとコーヒーを味わいながら乗り換え便を待った。
少し優雅な感じが心地よかった。
旅客機の窓からモントリオールの夜景が見えてきた、暗闇の中に沢山のビルから漏れ出る光が幻想的だった。
到着ロビーで「刈込沙耶ちゃん!ようこそ!」というダンボールで出来たプラカードを持ったスキンヘッドの日本人が待っていてくれた。