「コムイエン!」
「沙耶?終わったらマックいかない?」
ベンチコーチの瑠璃はシビアな試合進行とはかけ離れた事を問いかけてきた。私は「は?」って思ったけどラケットのストリングをなおしながら答えた。
「この試合勝ったらポテト奢ってよ?、、、痛いって、瑠璃」
背中をシャキッとさせる私を見て瑠璃はクスクス笑いながら私の脇腹をつねるのをやめた。
「ターイム!」
審判の掛け声で試合が再開する。私のサービスゲームをキープすれば大平高校のインターハイ団体優勝が決まる。地区予選から瑠璃は圧倒的なテニスで毎回勝ち、残念ながらダブルスは負けるので、毎回沙耶のシングルスNO.2にかかってきた。
緊張で毎回序盤はラケットが振れず8ゲーム先取なのにいつも3ゲームは先行される。
何とか逆転で勝つとチームメイトにもみくちゃにされる。今回もいつも通り先行されたが、2ゲームで留めた。相手は格上だ、全日本ジュニアも取ってるし、インターハイも常連だ、でも私はスーパージュニアで優勝した!自分を鼓舞しながらコートにもどる。
スコアは7-6!
コーチのアドバイスを思い出す、立ち位置、重心移動、肘の位置。相手を確認してから3回ボールをついてサービスを打った。
私の中でカチッとハマったのがわかった、打った瞬間にサービスエースだとわかった。
「コムイエン!」
私はラケットを左に握り変えて、拳を作った右手に向かって叫んだ。スウェーデン語のカモン!だ。コーチに教わったスウェーデン語で大平高校テニス部で今1番流行っている言葉だ。
15-0
2ポイント目、右端に打ったサーブを相手は打ち損じた、すかさず得意のフォアハンドドライブを左の短い所にねじ込む
「コムイエン!!」
30-0
あと2ポイント、、そう思った瞬間に腕が縮こまった、入れるだけのサーブをバックハンドで叩き込まれた。
30-15
ワイドに打ってサーブ&ボレー、、チャンスボレーをアウトした。やばい流れだ。
30-30
チラッとみんなを見る、ベンチに座ってる瑠璃もモルトジャールコーチもテニス部の皆も指でハートを作って笑顔だった。
私はゆっくり息を吐いて足踏みした。少し落ち着いた。相手はバックハンドが得意だ、だけどサーブをフォアハンドに打つと次は強烈なバックハンドが飛んでくる。私は相手の身体目掛けてサーブを打って、真ん中にきたボールを相手のフォアハンド方向に打った。思惑通りフォアハンドをミスしてくれた。
40-30
マッチポイント。
最初から決めていた、
最後はセンターにスライスサーブ。
ポジションの確認、重心移動、肘は高く!
相手が構えているのを確認してからボールを3回ついた。
相手と握手すると、みんなの元へ駆け寄った。
皆の顔を見たら急に気が緩んで涙が止まらなかった。
泣き顔が恥ずかしくて手で隠してたら私の腰にしがみついてる瑠璃の顔の方が酷くて笑って泣いた。
もし高校テニス最後のポイントがサービスエースじゃなければ私の人生は違ったものだったかもしれない。