世界一周とウイニングスピーチ
私は緊張しないって思ってた、ピアノの発表会も生徒会もテニスの試合だって緊張らしい緊張はしない。
ただウイニングスピーチだけは本当に緊張する、だって私だけの問題じゃなく、スタッフやファンやスポンサーさんが後ろにいて、私の言葉が皆んなに影響を与える事があるって思うと緊張する。
決勝の前日に原稿をつくるけど、大体忘れちゃってて、ぶっつけ本番でしゃべる。言葉につまると私のチームの方をみる。いつも通り胸の前に指でハート作ってる、分かってるよ沙耶もみんなが大好き。
ドクターとコーチからOKをもらって私は復帰したあの日、毎日会ってるのに瑠璃ったら泣いてハグしてきた。
痛みがだいぶ引いてからテニスが出来るまでテニス部のマネージャーとして部室の掃除などの雑用をやらせてもらっていた。
少しでもテニス部のみんなと関わりたくて、リハビリの合間にベンチで練習を見たりしていた。
テニスがやりたくて、やりたくて、公園のコートでパパに球出しして貰ったりしていた。なぜかパパは異常に球出しが上手くてほとんど動かないでボールが打てた。
復帰初日、
「今日はこのボールで54回ラリーが続くまで世界一周やりましょー、沙耶は1人です」
モルトジャールは緑色のボールを手に持っている。
世界一周とは1球打ったらコート一周するグループ練習だ。部員は19にんで沙耶は回らないから18人で3週だ。
「いーち!」
新入部員のチーちゃんが1球目を打った、私はコートの真ん中に打ち返す
「にー!」
シズル先輩が打ち返してきた、
チーちゃんが走ってこちらのコートに来て、
「沙耶先輩、おかえりなさい!」
そう言って自分のコートに戻っていった。
泣きそうになったが頷いてボールに集中した。
「さーん!」
ミク先輩だ、最初にテニス部を案内してくれた。
打ち返す
シズル先輩とミク先輩がこっちに来る、
「待ってたよ!私達だってうまくなったんだからね!」
私は打ち返しつづけた。
18人目は瑠璃だった。
「じゅうはーち!」
瑠璃がこっちに走って来るだけで泣きそうだった、
「ミスんないでよ!こっちは大変なんだから!」
瑠璃の言葉に笑みが出る。
結局1球で54回繋がり、最後瑠璃がポーンとチャンスボールをくれた。得意のフォアハンドで右端に決めると、拍手しながらコーチが近ずいてきた。プラスチック製のおもちゃのマイクを私に渡して
「ウイニングスピーチをお願いします!」
いきなりで混乱したがおもちゃのマイクをコーチから受け取り、思いついた言葉を並べてみた。
「えー本日はお日柄も良く、御足労頂きありがとうございます!」
部員は大爆笑だ、顔が暑い、多分真っ赤だ。
「まずは会場のスタッフに対戦相手に感謝と祝福を、、、今度練習しましょう。
そして今みたいにスピーチが止まったら自分のチームを見てごらん」
テニス部のみんなを指さしてコーチが言う。
テニス部の皆んなは満面の笑みで胸の前に指でハートを作っていた。
それから2ヶ月後にウイニングスピーチをする事になるとはこの時は思いもしなかった。
「The coach」