ウォーキング
沙耶の引退試合は東レパンパシフィックだった。
日本で行われる国際大会では最大規模だが世界ランキング一位の選手が出場するほどの規模では無い。
最後は応援してくれたファンと戦いたいと珍しく沙耶は熱弁してた。有明コロシアムは満席だった、沢山のジュニア達、テニスなんてしなそうな人もうちわを持って応援してくれた。人気、実力共に絶頂の沙耶の引退宣言は世界に衝撃を与えた。
これ以上一線で戦うとセカンドライフに関わると言うコーチとトレーナー判断を沙耶は素直に受け入れた。
瑠璃が優勝した高校1年の新人戦で沙耶は椎間板ヘルニアを発症してコートからコーチに運ばれ、半年もの間テニスどころか歩く事も難しい状態だった。
その経験が、沙耶に引退を決断させた。
引退する選手とは思えない情熱的なプレーと会場が震える程の声援で沙耶は優勝した。
沙耶が世界的に人気なのは見た目もあるが、
姿勢と歩き方が大きいと思う。
ウイニングスピーチに向かう沙耶を目で追う、あの歩き方、姿勢、となりで号泣しているモルトジャール。俺は耐えられなくて伊吹達に視点を変えたら過呼吸みたいに笑ってた。
「竜くん、湧川先輩!ウィッス!」
瑠璃が走って近ずいてきた、大き目の白いパーカーに青いワイドパンツを着た瑠璃はさらに大人びて見える。
新人戦が終わって1ヶ月がたったある日、
伊吹が沙耶の家に見舞いに行かない?って誘ってきた。伊吹は瑠璃の彼氏だから分かるけど、俺はどんなポジションなんだろ?
瑠璃が家のチャイムを鳴らすと、沙耶ママが出てきた、沙耶に劣らないスタイル抜群の美しい女性だ。
「なにしてる?早く入って!」
かなりフランクに家に招き入れた。
広いリビングではベースの効いたクラブミュージックと共に聞きなれた男の声
「はい!はい!はい!」
女性インストラクターの手拍子に合わせて、オットセイと休日のモデル、、、いや。
青いレオタードにハチマキをしたモルトジャールとパジャマ姿の沙耶とモデル歩きしている。
瑠璃が「え?、、、え?」
「おお!瑠璃!勇人くんと竜くん!一緒に正しい歩き方を学びましょう!」
ゼイゼイいってるモルトジャールが私たちを手招きしてくる。沙耶ママはノリノリで「ウィー!」って腰を振りながら飲み物をもってきた。
「はい!はい!はい!」
それからみんなでリビングを何周も回った、
「瑠璃さん顎あがってる!勇人君は膝から移動!」
インストラクターの大きな声が響く。
「はい!はい!はい!」
「モルトさんリズム良く!沙耶背中!」
インストラクターが叫ぶ!
あれ?何しに来たんだっけ?
レッスンは2時間続き、やっと終わったみたいだ。四つん這いでゼイゼイ言ってるモルトジャールが沙耶に言う。
「沙耶、大丈夫?私は大丈夫じゃないけど、、、」
沙耶が笑いながら言った。
「みんな付き合わせてごめんね!大丈夫?」
沙耶を見舞いに来たのに一番沙耶が元気だった、「勘弁してよ」俺の言葉に皆が笑った。
沙耶のウィニングスピーチはスポンサーや大会運営に対する感謝、来場者やファンに対する感謝、家族やスタッフ、私達に対する感謝をメモを見ながらだが、スムーズに進んだが、ここまでだった。5秒の沈黙の後で沙耶は涙声で言った。
「テニスを教えてくれてありがとう、そして止めさせてくれてありがとう。あなたをこれからもずっとこう呼ぶわ!」
「The coach」