レイアップシュート
「勇人は瑠璃派?沙耶派?俺は付き合うなら瑠璃で、結婚するなら沙耶かな」
ドリブルしながら伊吹竜は聞いてきた。
朝学校に行く前に公園のバスケットコートでシュート練習をするのが俺達の日課になっている。
フリースローのシュートモーションに入った伊吹にフルスイングでボールをぶつけたい衝動を抑えてスリーポイントをねじ込んだ。
刈込沙耶は俺のアイドルだ、親友であろうと侮辱は許さない。
瑠璃と沙耶は大平高校に彗星の様に現れたテニス部の1年で大平高校のアイドルだ。
瑠璃は出るところは出て引き締まるべき所は引き締まっている、スタイル抜群のギャル、沙耶は高身長のお嬢様系ハーフだ。
俺は断然、沙耶派だが笑われるのはわかっていたから黙っていた。ミスマッチだ。
色々試したが身長計は1年間ピクリとも動かなかった。沙耶の横を歩くのは自分でも想像できない。
最初に俺が沙耶を見たときは衝撃を受けた、テニスコートに立つ沙耶はまさに女神のようだった。
テニスはやった事ないけどゆっくりで美しい動きから飛び出すとんでもないスピードのサーブを打つ沙耶に見とれてるのは俺だけでは無いはずだ。
俺はミニバスからバスケ部に入ったけど、身長が小さいから厳しいのはわかってた。でもバスケが好きだった、ドリブルとスリーポイントを必死で磨いた。
1年の終わりに背番号6番をもらった、嬉しくてトイレで人知れず泣いたんだ。
「おー!いたいた勇人さん、あなたにお願いがあります!」
巨大な風船のような外国の男が体格の割に短い手を振って近ずいてくる。
確かテニス部のコーチだ。
「この子に世界で一番美しいドリブルからのレイアップシュートを見せて下さい!」
巨体に隠れていた女子がモジモジ出てきた。
「湧川先輩おはようございます!」
沙耶がお辞儀してきた。
「か、刈込さん、、」
突然現れた沙耶に声がひっくり返った。
伊吹が吹き出すから、
フルスイングでボールを投げると見事にキャッチされた。流石ウチの不動のポイントガードだ。
「君達の新人戦での活躍みたよ、特に終盤に見せた勇人くんのドリブルで切り込んでのレイアップシュートは試合を決定づけるものだった」
巨大なボールみたいな男がバスケットボールをドリブルしながら言ってくれた。
お世辞でも嬉しかった、伊吹からボールを受け取るとリングの右からドリブルで切り込んむ、素人にはそっちの方が分かりやすいと思ったからだ。
「タッタン!」
リズムよくステップを踏んでレイアップシュートを決めた。
「おー!パチパチパチ!」
巨大風船と女神が拍手してくれた。
「私の金の卵はリズム感を磨く必要がある、たまにアドバイスくれるかな?」
それから毎朝、沙耶は私達よりも早くきてレイアップシュートの練習をしていた。
沙耶は最初は絶望的なリズム感とテニス部とは思えないボールコントロールでシュートどころかリングに近ずくのも苦労していた。
笑えないし、手伝いも出来ないレベルだ。
俺も伊吹もシュート練の間にアドバイスしたりレイアップをみせたりした。
決して飲み込みは良くなかったが、とにかくしつこく練習するタイプみたいだ。
「私瑠璃と違って不器用だから、、」
沙耶は1ヶ月でレイアップシュートを習得した。
「何が不器用だよ」
呆れていたら、沙耶を迎えに来た瑠璃が何気なくツーハンドでスリーポイントを決めた、、、
巨大なテニスコーチが拍手しながら近づいて
「さあ私の金の卵達!テニスの神様が嫉妬する前にコートに戻るよ!」
「先輩またね!」
沙耶が手を取って走り去って行った。
人生最高の瞬間に浸っていると、
「勇人くん、私は分かるよ君がどれだけバスケが好きで練習してきたか。ボールワークとドリブルを磨きなさい、いつかバスケの神様は祝福してくれるだろう。ただ君の女神が君に振り向くかは分からないよ」
モジャモジャの顔がウインクして去っていった。
私はここからシュート練に加えてドリブルとフットワークを磨いていく。
たまにテニスコートに行ってアドバイスをもらった、基本的にはメンタル的なものだが、
「セパレートスプリット」や「スキップ&ホップ」などバスケでは知りえないフットワークを教えてくれた。
私はNBAの選手になってTHUNDERと呼ばれる様になっても彼がアメリカに来る時は絶対に会いに行く。
私がバスケに関係ない人をこう呼ぶ事は彼以外にいない。
「The coach」