予選決勝
今年28歳になるシェ・ジィーチンは引退を決めていた。
刈込沙耶のバックのダウンザラインがコートに入ることは分かっていたが見逃した。
やる気はあるが身体が全く反応しなかった。
経営者の父親の援助のお陰でこの歳まで現役を続けてきた。
グランドスラム本戦に入り、
地元で大騒ぎになったのも9年前の事だ。
ここ2.3年は負けが続き、
徐々にポイントが無くなり始め、
とうとう下部の大会の予選になってしまった。
最近は父も結婚を仄めかしてくる。
この試合も
トリッキーな戦法でファーストセットをとったが、
セカンドセットの序盤で圧倒するしか勝つすべは無いことは分かっていた。
ドロップからのロブやボレーはもう通用してない。
徐々にボールにあってきた刈込沙耶を止める術は
今の所見いだせない。
トルコで戦った時は簡単に勝つことが出来た。
ちょっと揺さぶったら勝手にミスしてくれたし、
緩急も粘りも無かった。
少しづつ落ちていく私と
勢いをつけて上がっていく刈込沙耶が
コート上で交差する。
「もっと戦いたい!クロスコートから来たボールを切り返したい!」
無情にもゲームは進んでいく。
私は少しでもコートにいたくて、
時間稼ぎに緩いループボールを打った。
刈込沙耶は前に踏み込んでノーバンドで引っぱたいてきた。ピッタリとライン上に乗るから頭にくる。
「神様、この試合だけで良いから勝たせてください!」
ファイナル10ポイントタイブレークに入る前に祈った。
ラリーの中でどんどん角度が付いてくる沙耶のボールに半歩追いつけず、ラケットフレームに当たり失点する。
ノータッチエースの方がまだマシだ、
こういう地味なポイントの失い方のほうが
体力とメンタルにダメージをうける。
「コムイエン!」
は?何語?
昨日はジュニア相手にビビってラケットも振れなかったくせに!何よ!私の時だけ調子乗っちゃって!
「コムイエン!」
もういいでしょ、8-0なんだから手加減しなさいよ!
「ジーチン!久しぶり!あの時のモントリオールより寒いかも、、ふふふ。
よろしくね!」
チャイナオープンの為に地元に来てくれた絶対女王サヤがトーナメントデレクターの私を名前で呼ぶ
名前を呼ばれただけなのに、私の人生を肯定された気がして、涙か止まらなかった。
「ミス カリコミ 明日のレセプションパーティでスピーチをお願いしたいのですが」
自我を押し殺して仕事モードに入る、
本当は沢山話したい事も聞きたいこともあったけれど。
私の自慢はサヤから1セット取ったことと、
チャイナオープンを失セット無しで優勝したサヤが使ったラケットをもらったことだ。
あの時が私の青春だったのかもしれない。




