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夕べの夢

作者: なと

夏の欠片を探して麦藁帽子をひっくり返す

静かになった森の中鳥居に赤い紐をかけたおまじない

夢の後先、入道雲は木陰に隠れていた

過去を探しております

常世に参りますと笹筏をそっと念仏と共に

古き町のひそひそ声が今だ三半規管を揺らす摩訶不思議

B29は草原の上を渡るお祭りの残り火のように

夕暮れ時北に向かって飛んでいる渡り鳥は何想う

雨雲は低く怒りを貯めて遠雷で人は怯え彷徨う

夜のたましひはこぞりて西へ極楽浄土を目指して

海へ還るたましひ山へ還るたましい

あのひとつになれたなら

厭世的、自滅的、懐古的、夕暮れがかすかに微笑む

墓石に抱き着いて眠る事だけを考えて眠りにつく





昔の人は炎のたましひを持っていたと聞く

杜の小鹿の無垢な瞳に炎は呪いの様に映る

風は見知らぬ夢を乗せて旅をしている

炎は胸の裡でうねり激しく燃え立てる花火のやうに

人の一番奥深くに眠る暗闇の中

炎はひとりでただ涙を流しながら

痛い痛いと燃える体を抱きしめる

やがて灰燼となった灰

それでも







聞こえてくる黄泉路の声が雨の日になると

暗い雨の景色の中で夏のか細い遺言が積み重なった本の上へ

サイダーは冷蔵庫の中で北斗七星の夢をまだ見ている

亡くなった少年は入道雲の下を走り回っている

今確かに生きていると感じる瞬間

それはオレンジで濁った夏を飲み干す頃

時計の針が正午を廻った頃








懐かしい風景はなぜ色褪せるのだろう

過去が永遠であったらいいのに

橙色の夢が枕の下に眠るのであれば

蝶になってあの古町を散歩しよう

いにしへは荒れ野であったあの土地を素っ裸にして

確かに夢は現実に成りつつある月食を超えた先に

幽かな吐息密やかな溜息

夕べの空は青かったか

憧れの土地にて






雨が降るパレードが始まる雨粒の足音が早くなる

季節の移り変わり懐かしい景色に消えて行くたましひ

旅人のモノローグはお茶と一緒にお湯に溶けてゆく風呂の旅

赤い夕焼けあの世のような茜色迷い誰そ彼逢魔が刻

昭和の怪人があの瓦屋根の上でずっとソーダを飲んでいる夏の残り香

夢ばかり過去の記憶





かすかな溜息は秋の吐息でしょうか

揺れる眼差し聞こえる声子供達のはしゃぎ声

懐かしく誰そ彼時に染まって行くアルバムの黄ばんだ写真たち

あの鳥居の下に夢を置いてきました遠い空は涙色

幽かな足音雨だれに消されてゆく想い出のあの人たち

旅人は古ぼけた旅館で雨の日はお湯に溶けてゆく

昏き記憶






眼差しの向こうに風見鶏、ゆっくりと此の世を旋回する

夏の呼吸を閉じ込めておいた匣には小さな蛍

雲を呼び嵐を呼び、小さな箱庭には娘ひとり昏き眼差しにて雨を呼ぶか

遠くの空に眠る記憶の海は底なし沼の様にいつまでもいつまでも私を呼ぶ

土踏まずの隙間に棲むようになった蝸牛は水母の骨を食べる






祭りの夜の光源は此の世の街から産まれたものじゃない

過去も幻視灯は仄暗く誘蛾灯のふりをして虫達を呼ぶ

雨という謎の祭りは地獄への道がひそかにあの神社に開かれる

祭りの夜は納屋の黒電話が鳴り続ける地獄経の言い伝えでは

赤に呪われた世代は昏き雨の日に赤い経本を火にくべるいにしえのやうに








朝焼けの中にこそ真実はあるからと言って

友人は旅人になって西へ旅立った夢をたずさえて

朝焼けはどうして躰を透き通るようにしてしまうのか

幻でさえ幻ではない蜃気楼は夏に揺らめいて今では月の裏側

神社の杜には夢ばかり隠れているそっと笹船を川に流す

古い記憶は鈍色に光る薬缶の様に懐かしき影





旅人のコートの裾に秋風はもつれからまる足音の様に

夕べ雨が降ったから雨傘は踊った後みたいに疲れてる

懐かしき人写真のなかでゆうべの夢をみている

泡沫の春の幻を陽だまり堕ちる座敷の中に硝子細工を置いて

そっと土踏まずの柔らかい場所に芋虫は棲みつく魔物の様に

今でも思い出す東京は幻か





なかったことにしたかった記憶と後悔と

夏はそんな過去まで明晰に浮上してくる事変

揺り籠から墓場まで天井裏で見守っている瞳は妖し

夏の終わりは蚊帳の中を蛍でいっぱいにして

潮騒の匂いは何故忌まわしく感じるのだろう

郷愁を閉じ込めた開かずの扉には赤子の匂いがした

いらかの上を太陽が燦燦と





夕べの夢は洗面台で歯磨きをしていたら

歯が抜けてよく洗ったら金歯だったんだ

打ち出の小槌は小人を老人に変え

辻の処に幽霊出ます看板にはそう書いてあって

夢日記をつけると死んでしまいます

入道雲は物憂げな吐息をついている

秋深まり想いは夏に魂を置いていったみたい

誘蛾灯に集まる私の影






夏の気配はうろ覚えの日溜まりの中

夜の町を踊りながら彼岸花の夢を見る

電車の中通り過ぎる季節の移り変わり

後頭部に夏は棲む入道雲の隠れ場所

メトロノームはミドリムシの

あの曲がり角を曲がって行く足取りを音で刻む

顕微鏡の中の古町に小さな人影

そうっと季節は布団のなかに潜り込む

夢を見る







夢を見て涙が零れて目が覚める

鳥居の下で誰かが嗤っていたんだ

シンクタンクの水たまりは揺れて言葉を濁す

悲しい夢だった夏の夢だった

貝殻の光る部分を撫でるように

座敷に堕ちた陽だまりに南無阿弥陀仏を唱えたんだ

そうしたら天井から覗いている黒い影はすうっと消えた

夏の吐息を感じた







身の内の炎がちろちろと、祭りの夜に舌を出してあっかんべー






夕暮れ刻が切ない気分になるのは何故だろう

神様が選んだ逢魔が刻には

魔物にだってなれるんだぞ

君が選んだ選択だろうと

彼岸花はお地蔵様の元で揺れている

秋は深まり名もなきちっぽけな魔物は

あの神社で踊っている午後二時を過ぎた頃

沢山の幽霊を背負って僕ら何処迄行くのだろう

あの枯れた草原で






車のテールランプはまるで線香花火

蝉の音の幻聴が不意に耳を打ち

秋の虫の音色に変わって行く

遠くを走る汽笛の音は

あの頃と変わらず遠き過去を思い出す

チンドン屋さんに一度だけ会った事がある

パチンコ屋のビラみたいなものを渡された

あの日のおしろい花の咲いている季節です

月が見下ろす夜







夕闇にぽつぽつと外灯が火の玉みたい

宿場町にも夜が来て仏壇で仏様が嗤ってゐる

まるで操り人形のように人生も誰かに操られている

風待ち酔いどれ道行かば

賽を振れば明日の天気も分かるかな

冷たい風にまだ風鈴が揺らされて

寂しい気持ちがつのってゆく

こんな夜は風呂に入ってビバノンノと

古き唄






どうして人は過去に郷愁を覚えるのだろう

魂が覚えているのかもしれない

胎児の頃から前世の記憶が

擦り込まれているのかもしれない

遠き日は幻、やがて夢、人は軒の下眠る眠る

祭り太鼓が何か太古の記憶を呼び覚まし

笛の音と共に踊ります舞います海の潮を想い出し

仏壇と祖母の背中に懐かしい記憶が






夏の欠片を探して麦藁帽子をひっくり返す

静かになった森の中鳥居に赤い紐をかけたおまじない

夢の後先、入道雲は木陰に隠れていた

過去を探しております

常世に参りますと笹筏をそっと念仏と共に

古き町のひそひそ声が今だ三半規管を揺らす摩訶不思議

B29は草原の上を渡るお祭りの残り火のように







夕べ夏の魂を喰ったせいか

今日はどこまでもあるいていける

秋の魂はどこか旅人の心のようである

地獄経の魂は彼岸花に宿るから

あの街角のお地蔵様にお供え

運命論と因果論をひっくるめて

竈の中でぐらぐらと

間違いだらけの論理は柱時計の秒針を狂わせて

俄かに此の世は月食のように暗い

秋の夢






春の闇はきしきしと

私の後をついてくる足音みたい

真っ暗な家の中には黒い影がいっぱい

なんだか少し寂しいですね

過去はデジャブと似ている

いつか遠い空に還れますか

角のお地蔵様にくちづけを

彼岸花の代わりに櫻の枝をそっとお供えして

陽炎が浮かぶくらいの頃には

私は消えてしまうからね






秋の路地裏は寂しい人の溜まり場

秋風で地球が風邪を引きそうだ

真っ黒マントの怪人が屋根の上を跋扈する

此の世を地獄にしようと

彼岸の秘密をあの匣に入れて

夕焼けの熱を開かずの戸にしまうと

なんだか部屋が少しがらんとしてしまった

路地裏の猫たちがいっせいに鳴きだして

地蔵菩薩の影から遠雷が

なかったことにしたかった記憶と後悔と

夏はそんな過去まで明晰に浮上してくる事変

揺り籠から墓場まで天井裏で見守っている瞳は妖し

夏の終わりは蚊帳の中を蛍でいっぱいにして

潮騒の匂いは何故忌まわしく感じるのだろう

郷愁を閉じ込めた開かずの扉には赤子の匂いがした

いらかの上を太陽が燦燦と

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