お試し投稿の読み切り作品
グリフォンという名称のモンスターが、風を操り、木々を薙ぎ倒す。風と破壊の音の聞こえる方向とは反対の方向に、少女は1人走り続ける。
中々獲物が捕まらない事に苛立ちを覚えたのか、飢えたグリフォンは風の勢いを強める。
「キュイィィィィィィィィィィッ!!」
鋭い咆哮が森に響き渡る。少女は後ろを一切見ずに走り続け、いつしか洞窟のようなものが目に入った。グリフォンも洞窟の存在に気づき、逃すまいと速度を上げるが、生い茂った木々がそれを許さない。この好機に、少女はグリフォンとの距離を離す。
そしていざ目の前に立って、少女はこの洞窟の入り口がグリフォンが丁度通れない程度の大きさであることに気づいた。しかし、後方からグリフォンが木々を突破した際に発生したのだろう轟音が鳴り響く。こうなってはもはや一刻も早く洞窟に入らねばならないが、入り口には蔦が絡まり、一筋縄では通れない。命の危機に焦りを覚えながらも刃物を使い、蔦を切り裂いていく。
そして、蔦を切り終えた少女が洞窟に足を踏み入れるのとグリフォンがその鋭い鉤爪を獲物に振り下ろすのはほぼ同時だった。しかし...どうやら少女の方が早かったらしい。振り下ろされた鉤爪は空振りに終わり、少女は洞窟内に逃げ込んだ。
「...暗い...」
独り言を呟きながらも、足は決して止めない。グリフォンのあの風の強さならば、いくら腹を空かしていようと、風化した石を削り、洞窟内に侵入することくらいはわけないだろう。そうなってはこの暗く狭い洞窟内で一方的に嬲られるだけだ。それを避けるためにも、少女は洞窟内を軽く走っていたのだが、どうも奇妙なものを見つけた。
「え...何これ...鉄?」
それは人のようなシルエットをしているが、体は金属製な上に埃を被っている。そしてその近くには随分と古びた本が置かれていた。もしかしたら周辺の地図などがあるかもしれない、という淡い期待を抱きながらも本を手に取り、ページを捲り、読み進めていく。結論から言うと、その本には地図は書かれていなかったのだが、代わりに(?)この鉄についての記述があった。
「..."汎用人型機械"...?」
どうやらこの本の情報を鵜呑みにするなら、これは機械という類いの物らしい。付随して、起動についての記述があることからコレは恐らく動くんだろう。...汎用人型機械...そう、"汎用"だ。それは恐らく、戦闘も可能なのだろう。...これは賭けだ。この機械とやらに先程少女を襲っていたグリフォン以上の戦闘力がある保証など、どこにもない。
だがそれ以前に、少女の足はもう限界だ。このまま逃げたところで、すぐに追いつかれる。それを感じていたからこそ、少女は機械を起動することを選択した。機械の心臓部に手を触れると機械の節々が淡く光り出す。眼前に広がる見たこともない光景に驚きながらも、複雑な操作を手順通りに行う。
しばらくすると、機械は音声を発し始めた。と同時に少し離れた地点から恐らくグリフォンが引き起こしたであろう爆発音のようなものが聞こえた。
『各種装置...稼働を確認...』
...早く...
『起動プロセス...完了...プロトコル...確認...』
...早く....!
「...早くッ!!」
『...周辺に...敵性反応を...確認...』
『...起動...及び、迎撃...』
そう言い切ると、機械は体を軋ませながら徐々に動き出す。だが、そうしている間にグリフォンは既に目の前にまで接近していた。グリフォンの鉤爪は少女に向かって振り下ろされたように見えた...が。実際には金属で出来た腕に阻まれていた。機械はグリフォンの前脚を振り払い、懐に潜り込むと、グリフォンの頭部を殴り飛ばした。少しよろけた後に倒れるグリフォンを横目に、機械が少女を見つめる。
『...』
「...」
何とも痛々しい、気まずい空気が流れる。お互いがお互いになんとも言えない視線を交わしていると、先に機械が口(?)を開いた。
『....えっと...うーん...初めまして...』
「...う、うん...初めまして...」
この2人(?)は後にこの世界を旅をすることになるのだが、それはまた別のお話。