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そうめんと天ぷらと氷水

作者: 有未

 ジイジイジイと蝉が鳴く季節、夏。毎年、夏になると母はそうめんと天ぷらを沢山作る。天ぷらは、にんじん、たまねぎが主だ。飲み物は氷水。あまり強くは冷房の入っていない部屋で、家族揃ってそうめんと天ぷらを食べることが夏の日課のようなものだった。子供心にいつもそうめんだと飽きるという気持ちはあったのだが、一口、そうめんと天ぷらを一緒に食べるとそんな心も吹き飛んでしまう。少しだけ冷えたそうめんと出来立て熱々の天ぷらがとても合うのだ。つまり、とてもおいしい。喉に詰まった時は氷水をぐいっと飲む。ものすごく満足する。


 ある日、天ぷらがにんじんとたまねぎだけのことに少し不満を持ち、

「さつまいもとかじゃがいもの天ぷらも作ってほしいな」

 と、母に言ってみたことがある。


 母は快諾してくれたのだが、次のそうめんの時の天ぷらがさつまいもとじゃがいもの二種類だけになってしまった。いつもあった、にんじん、たまねぎの二種類の天ぷらがなかったのである。母は極端だなあと思ったことを覚えている。


 夏の暑い日にぬるい冷房の入った部屋で食べる、そうめんと天ぷら。飲み物は氷水。この食事を私は大人になった今、何故だか繰り返し思い出す。シンプルな食事だが、とてもおいしかったと。味を思い出しながら自分でそうめんを茹でて冷やし――天ぷらは揚げ物が作れないので買って来ることや、そもそも無かったりするのだが――飲み物の氷水と一緒に用意してみるものの、どうも懐かしの味にならない。色々とそうめんやめんつゆの種類を変えてみたりしたのだが、どれも「何だか違う」のだ。母は特別に何かこだわって作っていたわけではなさそうだったので、茹でるだけの料理で何故、味を再現出来ないのか私には不思議でならない。そう、思っていた。


 勿論、二十年以上前に食べたそうめんと全く同じ味にそうめんを作ることは難しいのかもしれない。当時に母が使っていたそうめんのメーカーなども分からないし、母が作る天ぷら無しには味の再現は出来ないのかもしれない。しかし、私はふと思ったのだ。あの頃、そうめんと天ぷらと氷水というシンプルな食事がとてもおいしかったのは、家族揃って楽しく話しながら食べたからではないだろうかと。暑い夏の日、聞こえる蝉の声、ぬるい冷房の中で。父と母と弟と私の四人家族。家族揃って、そうめんと天ぷらを食べて。氷水を飲んで。話題は弟と私の学校での出来事や、流行っているテレビアニメ、読んだ本の話などが多く。お盆が近いから親戚の家に行く予定などを父や母は話していた。そして、今度、食べたいご飯についても家族で話したことを覚えている。一家団欒という感じだと、思い返しながら私は思う。


 私の思い出の中の食事でそうめんと天ぷらが記憶に強く残っているのは、母が良く作ったからということもあるが、家族が皆、それが好きで、和気あいあいと一緒に食べた記憶もまた強く残っているからだと思い至った。楽しかった家族との会話、雰囲気が、より一層のことそうめんと天ぷらをおいしくしていたのだ。


 私は、この思い出を大切にして行きたい。そして、食べることへの喜びと感謝を忘れずにいたい。

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