【EX01】 ガロウズ旅日記(後編)
さて、第1章のラストの番外編は前後編合わせてEX01とします。
【一応、ざっくり前回のあらすじ】
ソウルフォレストの事件の一ヶ月前、魔王ディミオスの配下筆頭として不甲斐なさを感じたガロウズは、見聞を広め、強さの技量を磨くためにディミオスの元から旅立った。
そして、旅の途中で冒険者"マジカウインガー"と行動を共にする事となった。
ひょんなことから冒険者"マジカウインガー"と行動を共にするようになったボク。
ふと、彼女達の名前を聞いていないことに気がついた。
「そういえば、キミ達の名前は?」
「あれ?まだ名乗ってませんでしたっけ?」
パーティ名を名乗った時点ですっかり忘れていたのだろうか。
黒髪サイドポニーテールの羽有人族が飛びながらてへへと笑うと、立ち止まってボクの方に向き直した。
「改めてまして。"マジカウインガー"のリーダーにして、羽有人族三姉妹の長女のクロウです!これでももうすぐストライカーに進化しそうなファイターですっ!どうぞよろしく~」
「よろしくお願いします(元気だなぁ・・・・・)」
クロウはニコッと笑い、隣の銀髪ロングヘアの子に合図を出した。
「僕はサブリーダーのウルって言います。三姉妹の次女です。役職はウィザードです」
「おぉ凄い。ウィザードて、上位の役職じゃないですか!」
「えへへ///」
僕っ娘のウルが照れながら自己紹介を終えると、ボクの隣にいたもう一人の子に合図を出す。
それを受けて、両サイドに橙色のヘアゴムを2つ付けた灰色のボブヘアの子はくすくすと笑うと、丁寧に礼をした。
「はい。羽有人族だけにトリを飾るのは、三女のパーラと申します。役職はタンクとヒーラーを兼任しています。どうぞよろしくお願いします」
「(おぉ、随分個性的な姉妹だこと・・・)此方こそ、よろしく頼みます」
斯くして、三人の自己紹介が終わり、ボク達は再びコールドタワーへ向かう旅の空中散歩を始めた。
その道中、彼女達の今までの冒険体験談やボクのドラグナーの仲間達に関する話など、かなり会話が弾んだ。
「それでそれで、・・・あれ!?いつの間にメイジビートの森に入っていたんだろ」
「「「え!?」」」
話に熱が入っていたクロウは今になって竜王国からメイジビートの森に移動していたことに気がついたらしい。
これにはボクだけでなくウルもパーラもビックリ。
「今気づいたんすか!?」
「え!?クーちゃん気づいてなかったの!?」
「う、うん(照)」
「流石お姉ちゃん…」
「緊張感皆無っすね(本当にこの子達はあのヘルワームを倒したんすかね?)」
ボクだけでなく妹二人からも呆れられるクロウは、顔を赤らめながら頬をかいた。
「あ、あははー///ガロウズ様に恥ずかしい所見られちゃったなぁ」
「(様・・・なんかむず痒いっすね。後で直させましょうか)」
それから30分ボク達はメイジビートの森を飛び続けた。
ラフレシアの大花やカオスリバーを越え、目的地であるメイジタワー跡地-コールドタワー-に到着した。
「さて、着いたっすね(意外とデカイ。ディミオス様の城よりも高そうっすね……)」
「今のところダンジョンボスの影響は無し・・・」
先程と打って変わってクロウの表情は真剣そのものである。
パーラはというとコールドタワーの周囲を確認している。
恐らく罠やモンスターの襲撃を警戒しているのだろう。
「(ふむ、思ったよりちゃんと冒険者してるんすね)」
「罠も無さそうだし、入りましょうか」
タワーに入ろうとした瞬間、何処からともなく涙ぐんだ声が聞こえてきた。
振り返らなくてもなんとなくわかる。この声の主は、ウルだ。
「ぅぅぅ・・・」
「どうしたんすか?」
「あぁ~。実はですね、ウルは怖いのが大の苦手で」
「無理無理無理無理!!僕、ここで待ってるから!!」
そういえば、魔死族や死妖族いっぱいの所怖くて嫌だったと言っていたっけ。
気休め程度だが、ボクはウルにフォローを入れた。
「大丈夫っすよ。ここに生息する死妖族のモンスターは意外と可愛い見た目してますから!(※一部を除いて)
それに、魔死族はコールドタワーの上層部までは出てきませんから、それまでに心の準備をできますよ」
「ほ、本当ですか?ゾンビとかスケルトンとかみたいにキモグロいのは出ないんですか!?」
ウルは目に涙を沢山蓄えてうるうるしている。(※偶然)
それにしても、キモグロいモンスターか・・・
ちょっと心当たりがあるな。
※クロガイコツというスケルトンやというデスゾンビというゾンビが16階層から出る。
因みに、コイツらは魔死族のB+級のモンスターで、ザコ敵にしては相当強め。
「ま、万が一のことがあったらボクに任せてください」
「は、はいぃ・・・」
「(本当に怖い系苦手なんだ……)」
「カッコいい~!!」
「クロウちゃん辞めなさい」
ひゅーと悪戯っぽくボクをもてはやすクロウと辞めなさいと叱るパーラ。
一体どっちが姉なのか解らなくなる。
そんなやり取りを見て、ボクはため息を吐いた。
「やれやれ」
調子狂うなぁと思いながらもボク達はコールドタワーへ潜入した。
メイジタワー跡地-コールドタワー-は計20階層の円柱の建物。
薄暗い部屋が永遠に続き、どこかにある螺旋状の階段を探す。
そこからダンジョンボスのいる最上階を目指し登っていく、至って単純な探索だが、それを邪魔するのがモンスター達。
500年前のゼロ対戦で倒されたカース・ゼロの呪いから生まれた奴らは、ボクら魔物や人間とは全く別の生態系を持つ。
とはいえ15階層まではD-級のレイススやC+級のボーンドラコにリビビーしか出てこないのであまり苦ではない。(モンスター達の詳しい解説は後書きにて)
ましてやボクは、こんなナリでもドラグナー筆頭と呼ばれる実力を持っている。
なので、全滅は絶対にあり得ないだろう。
◇
「あ、来たよパーラ!」
「レイススとボーンドラコの群れね。Ok!(メタルウイング展開!)クロウちゃん!今のうちに!」
「よしキタ!シャドーストライク!ウル、そっちは任せたよ!」
「了解っ。彼方まで吹き飛べ、エアーダスター!」
タンク(基ヒーラー)のパーラがモンスターを引き付け、ファイターのクロウが前線を張り、魔法使いのウルが援護。(ウルは6階層でやっとレイススとボーンドラコに慣れた。リビビーは虫族だからギリ大丈夫)
彼女達はなかなか良いコンビネーションが取れており、A-級のダンジョンボスのヘルワームを倒したと言われても納得する強さだった。
「(この量相手でもボクが先陣を切らなくても良さそうってことは、冒険者として相当の腕前っすね。これは高評価をあげれますね)おっと、エンカウントっすね」
「びっ!?(訳:ふぇ!?冒険者ナンデ!!?)」
臆病でビビりの蜂のリビビーが此方に突っ込んできた。
(※というよりかリビビーは逃げ惑っているだけ。その証拠にリビビーの目が涙目になっている。これでもC+級のモンスターなんですわ。個性的でしょ?)
「びっつびび・・・!(訳:最悪最悪…!助けt・・・)」
「逃げ惑ってる所悪いですが、倒させて貰うっすよ。アクアブレイク!」
逃げ惑うリビビーに水属性の乗ったボクの拳がヒットし、難なく撃破する。
「うえぇワンパン!?」
「強・・・」
「これが、ドラグナーの幹部筆頭の力!?」
「(うっ、視線が眩しい・・・)」
こうして、"マジカウインガー"から憧れの視線を感じながらも15階層まで来た。
来たのだが、ここで予想外の事が起きてしまう。
「わっ、眩しっ!?」
「っ、目が……」
「ぐっ!?(何だ?コールドタワーには目眩ましの技を使うモンスターはいなかったハズ……!)」
螺旋階段を登ると、突然目映い光が視界に飛び込んだ。
ボク達は余りの眩しさに驚くと、パーラが上を指差した。
「クロウちゃん、ウルちゃん見て!空が!」
「まだ15階層なのに、どうして天井が無いの?」
「っ!?あれは・・・」
「ガロウズさん?」←『様』は性に合わないので途中から変えさせた。
「(7階層から覚えた胸騒ぎ。何故だろう。どんどん強くなってきた・・・)あぁ、ごめんね」
パーラ達はキョトンとした顔でボクを見る。
そんな中、ふと、途中で破壊された螺旋階段を見つけた。
「・・・三人はここで待ってて下さい」
"マジカウインガー"の三人に待機させ、上がれる所まで登ってみた。
青空(外)に近付く程、胸騒ぎが更に強まり、心臓の鼓動が加速する。
不快感を覚えながらも先の様子を伺う。
「!!」
ボクが見たもの。
それは、むき出しの天井で外が見えると思っていた先に、16階のフロアが続いていたのだ。
「(ヤバいっすね、ヤツらと目が合いました・・・)」
それだけでも目を疑いたくなるが、驚くのはまだ早い。
不敵な笑みでこちらを見る赤い髪の道化師と、帽子に赤いリボンをつけ、右目に眼帯をつけた灰色の髪の魔女。
それに、首元に赤、紫、桃、青、黄緑、水色、橙の7匹の蛇を使役する黄色の髪の女。
そして、自分の背丈以上の手裏剣の形をした盾を背負う茶髪でムキムキの鬼。
"竜の右手"と呼ばれるボクですら、冷汗が止まらない程の溢れる強者の風格。
モンスターが、それもダンジョンボス級が4人。
明らかな異常事態だ。
「(コレでしたか。胸騒ぎと不快感の正体は・・・
なんなんすかね?悪い夢でも見てるんすか!?全員がA+級以上のダンジョンボスの風格。彼女達を守っての戦闘だと流石に分が悪すぎる・・・)」
これ以上この場所に長井すると危険に巻き込まれる。
「ねぇウル、パーラ。ガロウズさん、どうしたんだろうね?」
「さ、さぁ・・・」
「外に何か見えたのかな?」
恐らく彼女達は何も感じていない。
いや、感じれる訳がない。
何故なら、奴らは高度な幻覚魔法か何かで住処を見えないようにカモフラージュしているからだ。
そのせいでクロウ達は16階層より上を認知出来ておらず、外が見えているのだろう。
では何故、ボクは突然16階層を確認できるようになったのだろう。
・・・考えても答えは出てこない。
「(はぁ、困りましたね。無事に逃げ切れるかどうか、)」
いくらA-級のヘルワームを倒した彼女達とはいえ、危険に巻き込む訳にはいかない。
早いところ退散させよう!!
ボクは引きつった顔がばれないでくれと祈りながら階段から降りた。
「あっ、ガロウズさん!」
「・・・すみません。何度も確認しましたが、やっぱりここから上は崩れてて登れないみたいです。引き返しましょう」
ボクの反応を見てクロウとウルが声を震えさせた。
「ということは・・・」
「ダンジョンボスのトロウには・・・」
「えぇ、会えませんね」
「そんなぁ!」
クロウは悔しそうに頭を抱えた。
「なんでぇ~>< 崩れてるなんて情報出てなかったよ!?」
「まぁ、仕方ないっすね(うん。仕方ないんだ。現状のボクでも勝てるかどうか怪しいのに、少なくとも今の彼女達では太刀打ち出来ません……
ここは若い芽を守る選択をしましょう…!)」
クロウの様子を見たボクは深く、深ーく頷いた。
「仕方ない!クーちゃん、パーちゃんギルドに帰ろ!一刻も早く!!」
怖いもの嫌いのウルは嬉々とした顔でボク達に帰ろうと催促している。
「はいはい、ウルちゃんったら……」
「あはは~・・・あ!そういえば、ガロウズさんは武者修行の旅なんですよね?この後とか決まってます?」
ふと、クロウが質問してきた。
「いや、特に決まってませんが」
「(ニヤリー)」
「!?」
嬉しそうにニヤニヤするクロウを見て背筋がピンッと伸びた気がした。
「でしたら、一緒にジャンヌ・ヴァルクのギルドに行きませんか?」
「クロウちゃん、それは良いアイディアかも!」
驚く間もなくパーラが乗った。
「ガロウズさんがスポットで入ってくれて、僕、凄く心強かったです!あの、ダメですか?」
ちょっとウルさん?
「じろ」
「じろり」
っ??!それにクロウさんにパーラさんも!
そんなあざとい顔で見ないでください!断れなくなるから!!
「はぁ、解りました。解りましたよ、ボクもジャンヌ・ヴァルクの冒険者ギルドへ行きましょう。そこを武者修行の拠点させてもらいますから」
「「「やったー!」」」
やれやれ、してやられましたよ。
ですが、ボクなんかでここまで喜んでくれるなんて。
ちょっぴり、いや、凄く嬉しかったっすよ。
だが、この間ボクが現実逃避をしていた事は言うまでもない。
◇
そこからボクは、事情を聞いた勇者クロムからジャンヌ・ヴァルクの冒険者ギルド-アマテラス-の特別職員的な役職を貰い、様々な冒険者達の指導をしたり、スポット(一時加入)をして世界各地を回ったりした。
当初思ってた武者修行とはだいぶ違ったが、この一ヶ月間、ボクはとても良い体験ができた。
そして、時間は1ヶ月先の今日まで進む。
何の縁か、ボクは再び"マジカウインガー"と冒険を共にする事となった。
今度の目的地はモンスターが発生しないことで有名なソウルフォレストの中央にある精霊樹-ソウル・オブ・ルミナス-である。
「やぁ、"マジカウインガー"の皆さん。一緒にクエスト、というのは一ヶ月ぶりですかね?」
「ハイ!ガロウズさんとのクエスト、凄く楽しみです!」
相も変わらず元気なクロウはボクを見て嬉しそうに手を振った。
「今回はソウルフォレストの精霊樹が目的地っすよね?」
「はい。『ソウルフォレストの至る所に生えている光るキノコの研究の為に、管理者のルミナスさんの所に行ってきてくれ』とギルマスに頼まれちゃいまして」
「ご、御愁傷様っす」
はははと乾いた笑い声をあげるクロウ達に、ボクはそう言う事しかできなかった。
その理由だが、まず、この冒険者ギルド-アマテラス-のギルドマスターは勇者クロムであり、この国を治めるのも勇者クロムだ。
そう、彼は勇魔六英雄でありながらも冒険者ギルドの長として、かつジャンヌヴァルクの国を治める者として色々な実績を持っている。
・・・のだが、ボクはここ一ヶ月でそんな勇者クロムの裏の顔を知った。
裏の顔。
それは、かなりの自由人で何を考えているか理解不能だという点だ。
それが凄くわかるエピソードがあるので一つあげておこう。
今回、ボクと"マジカウインガー"の目的地となったソウルフォレスト。そこには、ルミナス・ナチュレという精霊族の管理者がいる。
彼女は昨日、中央王都で開催された大規模な会議に呼ばれており、その会議が終わった直後に魔法都市ウィンドサクレッドの管理者である吸血鬼族のソラ・スカーレットと一緒にグッタリとした姿を見せていた。
噂によれば、クロムがルミナスを急遽会議の当日に呼んだらしい。
なんでも、ルミナスの断り下手な性格を利用したのだとか。
余談だが、その会議は明日にもあるらしいのだが、昨日の夕方頃、ルミナスは絶対に行かないからな!とギルドのエントランスでソラと一緒に大声で駄々を捏ねていた。
そんな勇者クロムに振り回されっぱなしのルミナスの元へ、ボク達は行くことになってしまったのだ。
なので、無理に押し寄せても絶対『帰れ!』だの『寝かせろ!』だのと言われるのは明白だ。
「クロム殿も中々な鬼畜っすね」
ボクは呆れ半分同情半分に言った。
「やっぱり!ガロウズさんもそう思いますよね~」
「ギルマスは自由な人だからね・・・」
「まぁまぁ二人とも。愚痴を言いたいのは解るけど、もたもたしてると高速馬車に遅れちゃうよ」
パーラがクロウとウルを急かしたので、ボクも三人に合わせて走る。
時刻は7:56分。急いだお陰で高速馬車の駐車場になんとか間に合った。
「見えてきましたよ!あっ、いつもの馭者さんですね。おはようございます」
「おぉ、ガロウズ様!"マジカウインガー"の嬢ちゃん達も一緒かい」
「おじさんおはよー」
「「おはようございます」」
ボクはクロウ達が馬車の座席に座った後で運転手にお金を払った。
「はいよ、まいどあり」
「4人で500cって、凄いっすね。赤字じゃないんですか?」
ボクは素朴な疑問を投げた。
すると、馭者のおじさんはワハハと笑った。
「ガロウズ様や嬢ちゃん達みたいに空を飛べる人達もいるけど、冒険者をやるってなると荷物も沢山必要だし、クエスト帰りってなるとこういう荷物を置ける場所が必要だろ?
それに、乗車料を赤字ギリギリにしているからか、おかげさまで毎日色んなお客さんが来てくれるもんでね。それに関しちゃ全然問題ないね」
「本当、お世話になってます」
ウルは馭者にお礼を言った。
「良いってことよ。それで、お客さん。今回の目的地はどこだい?」
「ソウルフォレストの精霊樹までお願いしたいのですが」
パーラが目的地を伝えたら、馭者のおじさんは渋い顔をした。
「すまないねぇお客さん。ソウルフォレストは馬車用の道が整備されていないんだ。だから、行けても東の村までだよ」
ボク達は顔を見合わせる。
「わたしは大丈夫ですよ?」
「僕も問題ありません!」
「私もokです」
「了解しました。馭者さん、東の村までお願いします」
「Ok!頼むぞ、クイックホース」
馭者は馬の頭を優しく撫でた。
人や魔物の脅威として知られるモンスターだが、クイックホースのように共存関係にあるE級のモンスターもいるようだ。
「本当、この子のお陰でボクの狭い視野も少しだけ広がった気がします」
「ヒッヒィーン!!」
おっと、クイックホースさんは喜んでいるようだ。
「よし、お客さん、行きますよぉ!しゅっぱぁつ!!!」
馭者のおじさんの掛け声に合わせて走り始めたクイックホース。
とりあえず、ソウルフォレストに着くまで暫しの休憩である。
だが、この時クロウ達は思ってもいなかった。
これからトラウマ級のおぞましい化け物と出会うだなんて。
そして、この時僕は思ってもいなかった。
あの時目が合った化け物のせいで、道を違えてしまうだなんて・・・
◇
高速馬車はかなり快適だった。
ジャンヌヴァルクから中央王都へ。中央王都からソウルフォレストへと国を跨ぎ、あっという間に東の村へと到着した。
「お客さん、着きましたぜ。ソウルフォレストの東の村に」
「あれ、もう着いたんだ・・・」
「大体一時間くらい?」
「凄く早かったね~」
高速馬車の終点となる東の村に着くまでにかかった時間は予想の数倍早かった。
クイックホースのくくちゃん(命名:馭者)が頑張ってくれたお陰だ。
「凄かったっすね。ありがとうございました」
ボクはくくちゃんを撫でてあげた。
「ヒッヒヒーン♪」
くくちゃんは嬉しそうに鳴き声をあげていた。
「じゃあな、頑張れよ~」
「ありがとうございました。では、これで」
「ありがとー!」
「いってきます」
「くくちゃんもまたね~」
そうして、ボク達は馭者さん達と別れ、精霊樹を目指して歩き始めた。
ソウルフォレスト入りしてから2時間が経ち、漸く精霊樹が見えてきた。
だが、精霊樹の麓はまだまだ沢山の木々に遮られて見えない。
それに、散々森を歩き回ったからか"マジカウインガー"の三人に疲れの色が見えてきた。
「(三人の息が上がってますね。いくらボクが平気でも、流石に2時間もぶっ通しで歩き続けてたら、疲労が溜まるのも当然ですね)」
ボクは今にもへばりそうな三人に休憩を提案した。
「よし、一旦ここいらで休憩しましょう」
「「さ、賛成~」」
「お、お気遣い感謝します」
いくらモンスターの脅威が無いこの森とはいえ、沢山の木々のせいで狭く歩きにくい場所が沢山ある。
そして狭いという事は、当然翼で飛びにくい。
彼女達にとっては最悪のロケーションだろう。
三人には切り株に座らせ休憩させた。
ボクはというと、バッグからキャンプセットを取り出すと、それらを設置した。これで一息つける。
三人の安堵のため息が聞こえた。
だが、その瞬間、強烈な悪寒と共にそいつは現れた。
「アハッ♪」
「「「「!!」」」」
不気味な仮面を付けた、赤髪の女の道化師。
そいつは徐に此方に近づくと、ボクら四人に襲いかかってきた。
「やっと、見つけた❤️」
「ぐっ、みんな、休憩はおしまいです!戦いますよ!!」
「は、はい!」
「了解です!」
「っ、分かりました……!」
この間、メイジビートの森のコールドタワーで目の当たりにした魔力と全く同じ。
「っ、最悪っすね・・・」
それにしても、何だこの殺気は。
失神しそうな程の、凄まじい殺気だ。
◇
戦闘開始から数十分が経った。
ボクとクロウ、ウル、そしてパーラは、疲弊しながらも着実に仮面の道化にダメージを蓄積させた。
「くっ、メタルブレイド!」
「アハッ♪」
「ぶ、ぶっ飛べ……!アイアンストーム!」
「ふむふむ、良い攻撃だねぇ♪」
「ハァハァ、、水よ、集いて弾け、我が敵を押し流せ!グランドウォーター!!」
「おっと危ない♪」
そして、この場で一番のダメージソースであるボクが止めの一撃を食らわせようとした。
「アハハ♪君達、中々やるねぇ」
「これで、終わらせてやる!ナイトブレイク!!」
「アハッ♪」
すると、仮面の道化は再び笑った。
闇属性の乗ったボクの渾身の拳はするりと交わされた。
そして、それと同時に胸元に何かを装着された。
「グッ!?ぐわあぁぁぁぁぁぁ!!!!!
「「ガロウズさん!!」」
「何?何なの!?」
何が、い、一体、、な、ニが、ヲキタ?
「アハハハハッ♪これはアタシからのプレゼントだよ♪アタシ達の拠点を見つけてくれた君へ贈る、アタシを苛つかせたあ・か・し❤」
!!?
瞬間、とてつもない邪気がボクの全身を蝕んだ。
ありとあらゆる場所をだ。
「グァあぁあああああああああああ!!!」
苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しいクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイ、クル、し、い・・・・・・
バタリと倒れもがくボクを見た仮面の道化は、くるりと回り、クロウ達の方向を向いた。
「ニタァ」(←仮面で顔見えてないのに恐怖を感じる演出)
「ヒィ!?」
「な、何なの!?本当に何なの!?」
「がっ、ガロウズさん!!」
うっすらと、パーラの叫び声が聞こえた。
「うっ、ゲホゲホっ!ぐ、に、ニ、ゲロ・・・!みん、ナ・・!ギルドに、戻っ、テ、伝え、r」
「ガロウズさん!!!」
「アハッ♪アハハッ♪次は、君達だよ?」
仮面の道化はクロウ達に飛びかかろうとした。
「死んじゃえ!! っ!?」
仮面の道化師の放った拳は、間一髪彼女達を庇ったボクの背中に当たった。
「っ、ウグゥゥゥ!??ガァァァァア!!」
「っっ!?」
「ガロウズさん!?」
「ギリ、ギ、リ、守も、、、、、レ、、、ta」
彼女達を守ることには成功したようだ。
しかし、カラダがイツモ以上にオモクって、シコウが回らナイ。
「何で!?どうして!?」
「イイから、ギル、ドへ戻、レ・・・伝エ」
「こんのぉお馬鹿さん!アタシの邪魔をするんじゃ、ないよ!!!」
仮面の道化師に思い切り脇腹を蹴られ、ボクの身体は思い切り吹き飛んだ。
「あ"あ"あぁぁ"ぁ"ぁぁぁ!!!!」
「(・・・ごめんなさい、ガロウズさん)ウル、パーラ、行くよ……!」
「ガロウズさん、僕達、すぐ戻りますから!!」
「っっ、ごめんなさい」
「逃がさないっ! なっ!!?お前っ!!」
しばらくして、静寂が訪れた。
彼女達は逃げ切れたのか。それとも・・・・・
「・・・あーあ。逃げられちゃった・・・。まぁ、いっか」
仮面の道化の声をキクに、ドウヤら、彼女たチは、逃ゲキったヨウダ。
Yoか、ッ、、ta
「さぁて。アタシ達の隠れ家を知ってしまった君には、このアタシ、レクちゃんの駒になってもらうからねぇ?うふふっ。これから、ヨロシクねぇ❤️」
「ナニ、を?」
自らをレクと名乗った仮面の道化師。
レクは大きく手を広げ、叫ぶ。
「アハハハハっ♪その怯えた表情、最高だね~❤️・・・・・目覚めよ、ダークマターに眠りし魔龍、アジ・ダハーカよっ!!」
その直後、ボクノ心臓ハ一瞬止マッタ。
ソシテ、鼓動ヲコレデモカト、加速サセル・・・
「(んぐっ!)グオオオオ!!!!??ガッガアァァァァアォオ!!!!」
「アハハっ♪アハハハハ♪」
…………
……
思い出した。全て思い出した。
そうか。ボクはアイツに、仮面の道化に負けたのか。
そして、胸元に付けられた「ダークマター」によって暴れ、あの仮面の道化の言うことを聞いてたのか・・・
「(っっ、ボクが未熟なばっかりに・・・)」
三人の村の兵士達が此方へやってきて、告げた。
「魔王ディミオス配下、ドラグナー筆頭のガロウズ様だな?悪いけど、重要参考人もとい村破壊の犯人として、暫くの間拘束させて貰う」
「っ?意外とすんなり従ったな。あの凶悪なオーラも纏ってない。どういうことだ?」
はぁ。ボクはこれから、どうすればいいのだろう。
そう、心の中が絶望で満たされた瞬間だった。
「ちょっと待って貰おうかお前さん達!」
天から聞こえた、ボクにとっては聞き馴染みのある声。
ボクは慌てて天を見上げた。
そして、ボクは目を疑った。
「え、あ、貴方は!?」
「魔王、ディミオス!?何故、此方に!?」
「本当か!?」
「嘘だろ、信じられねぇ・・・」
な、何故!?一体どうして!?
「・・・よぉガロウズ。一ヶ月振りだな」
ソウルフォレストの南の村の上空に現れた一体の巨大な黄金のドラゴン。
それは、ボクの上司にして、目標にして、大切なお方である、魔王ディミオス様だった。
次回、11話 魔王と勇者の介入
【モンスター図鑑のコーナー】
(今回はレイスス、ボーンドラコ、リビビーの3匹)
Name:レイスス
種族:死妖族 属性:闇/風
生息場所:メイジビートの森のメイジタワー跡地-コールドタワー-
危険度:D-級
【所有スキル】
"夜笑子"
・浮遊 ・誘い笑い
【概要】
・大きさ:約30㎝、重さ:約0.5kg
・ケラケラと笑いながら宙をふよふよ漂う。霊体だが怨みとかは特に無い。
・魔法都市の迷いの森に生息しているレレイスの派生モンスターとして知られる。
Name:ボーンドラコ
種族:死妖竜族 属性:闇/火
生息場所:メイジビートの森のメイジタワー跡地-コールドタワー-
危険度:C-級
【所有スキル】
"骨小龍"
・浮遊 ・硬質化 ・頑丈
【概要】
・大きさ:50cm、重さ:約10.0㎏
・白骨化した子竜の姿だが、不思議と怖くはない。
・レイススとは種族を越えた友達関係がある。
・動くとカランカランと音が鳴る。なので、冒険者を背後から脅かしたくてもそれが出来ない。
Name:リビビー
種族:虫族 属性:光/電気
生息場所:メイジビートの森のメイジタワー跡地-コールドタワー-
危険度:C+級
【所有スキル】
"蜜泣蜂" ←苦労+蜜=はい。
・超速移動 ・絶対音感 ・蜜生成
【概要】
・大きさ:約30cm、重さ:約20.5kg
・めちゃめちゃビビり。とんでもなくビビり。その為、ボーンドラコが近づくと泣き出して逃げる。(その後冒険者とエンカウントしてもっと泣きたくなる)
・臆病かつビビりな性格上、逃げる時の素早さはとんでもなく早い。
・小さいが、お尻に生えた針に刺されるとしっかり痛い。尚、毒は持たない模様。
10/8追記
【ガロウズについて纏める枠】
※例に漏れず、ガロウズ君もスキルのみ秘匿()します♨️
Name:ガロウズ
種族:竜族 属性:闇/水
515歳、167cm、7/23生まれ
好物:わたあめ
【所有スキル】
"龍魂帝"
・?????
【概要】
・魔王ディミオス配下、ドラグナーの幹部筆頭で、通称"竜の右手"。(※竜=ディミオス本人)
・頭脳明晰で冷静。それを生かして主君の秘書を淡々とこなす。口癖である「そうっすね」や「○○っすね」は末期まで行ったのでもぅ直りません。
・ソウルフォレストの事件の一ヶ月前にとある出来事から自身の不甲斐なさを実感した。直ぐ様世界各地を巡って見聞を広め、自身の強さの技量を磨かんと主君の元から旅立った。
武者修行の旅では、"マジカウインガー"の三人を始めとした様々な出会いがあったものの、仮面の道化師という望まぬ出会いもあった。




