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恋とゲームと殺人と  作者: 内海 京
8/20

8


「えっと、なんで桂川さんにチャンスがあるの?」

 嫌な雰囲気を壊すようにことさら明るい声を出して尋ねてみる。

 佐藤さんはわたしの方を見ずにあくまで桂川さんに狙いを定めたかのように、彼女に視線を固定させていた。

「あるでしょ? 桂川が遊戯室に向かった時に」

「……え、え、それってつまり死体発見と同時に殺害したって言いたいの?」

 戸惑い問う。

 いやだって、そんなことある? 出来る? 無理でしょ?

「そうだよ、別におかしいとこないでしょ? あたし達には誰もそれまで蝶ヶ崎の殺害が出来なかった。唯一のチャンスはその時しかないでしょ?」

 当たり前のように言い放つ。

「そんな、わたくしは、美貴子さんを、こ、殺したり、していませんわ!」

「佐藤、それは無理すぎるだろ。桂川は部屋に入ってすぐ出てきた、それは俺もお前も見てたはずだ」

 近原くんが言うと、佐藤さんは顔を険しくさせた。

「さあ、あたしは見てないけど?」

「佐藤!」

 近原くんの怒りを含んだ声を振り切るかのように佐藤さんは「ともかく‼」と声を荒げる。

「桂川がその時殺したんだったら、言い訳がつくじゃない? たとえ返り血を浴びたとしても友人の死に動揺して抱き着くとかしてごまかせる、服を着替えてどこかに捨てる必要もない! そうでしょ?」

「そんな!」

「桂川の服に血は付いていない!」

「たまたま幸運でつかなかっただけでしょ? あたしが言いたいのは、桂川は例え返り血がついても何とか出来たってこと!」

「さっきも言ったが、俺が桂川の異変に気付いたのはこいつが部屋に入ってすぐだ、その後駆けつけて……夏目もそれは証言できるだろ?」

「え?」

 急にヒートアップした議論に視線をうろうろとさまよわせたいたところに名前を呼ばれたので声が裏返った。

「えっと、確か55分に桂川さんは遊戯室行ったんだよね、うん、そう、異変に気付いてわたしが顔出したのはそれから3分も経ってないころだったよ」

 わたしの言葉に佐藤さんがキッと睨んでくる。

 う、睨まれても本当の事だし。

「それでも3分は猶予があった! 3分もあれば殺せるよ。殴って刺すだけなんだから!」

「殴って、刺すだけって……」

 友呂岐くんが呆れたように「ないない」と首を振る。

「わたくしはそんなことやってませんわ!」

「佐藤、お前の推理には無理があり過ぎる!」

「チカ! 現実見てよ、あたし達は全員蝶ヶ崎を殺せなかった、時間の問題で! でも桂川だけは出来たんだよ!!」

「佐藤さん、落ち着いて。千歳さんがそんなことするはずがないわ。この中で唯一、美貴子を殺害する動機がないのが彼女ですもの」

 智恵美がはっきりと言い、落ち着かせようとするけれど佐藤さんは聞かない。

「動機? 動機なんてどうとでもなるじゃない! 蝶ヶ崎が面倒臭くなって殺したかもだし? そんなことで? って殺すこともあるでしょ⁈」

「いやー、本当だよね、そんなことでってことあるよね」

 久住さんがニヤニヤ笑いながら佐藤さんの意見に肯定するようなことを言う。

 佐藤さんが同じ意見の人がいたとばかりにそちらに視線を向けると久住さんの表情がさっと変化した。

「ほーんと、そんなこと、くっだらない嫉妬で無実の人間に罪を擦り付けるようなことってあるよね?」

 一瞬シンとなる。

「あのさ、あんたの意見? 難癖? どう考えてもおかしいでしょ? 良い? 胸からナイフは抜けていて、その所為で壁にまで血が飛び散ってたんだよ? で、桂川サンの服には返り血の痕跡はない。ってことは、桂川サンはおじょーさま殺害時にあの部屋にいなかったってこと」

「それは」

 佐藤さんが言い返そうとするが、久住さんは許さない。

「あのさ、こっちはさ、おじょーさま殺されてムカついてんのよ? ワタシがあの我儘女にゴマ擦ってたのは、就職先紹介してもらう為だったの、そうじゃなきゃ誰があんな女の取り巻きになると思う? それを殺されて……ワタシの今までの我慢が全てパーじゃん」

 久住さんの眼が座ってきている。

 喋り方もいつもと違ってとげとげしい。案外彼女の本性はこっちなのかもしれない。

「は? そんなのあたしに関係ない」

 佐藤さんが小馬鹿にするように言うと、久住さんは毒を含んだ視線で彼女を睨む。

「そうよ、関係ない。だからワタシはそれを出さなかった。でもあんたは桂川サンへの嫉妬を恥ずかしげなく喚き散らして、メイワク。あんた、脈ないしみっともないのよ」

 ぐっと胸が痛くなる。

 そこまで言わなくても、と思う。佐藤さんを見ると、顔が真っ青になっていて唇が震えている。

「く、久住さん……」

 止めようと思うけれど、それ以降言葉が出てこなかった。

 佐藤さんの桂川さんへの攻撃、まさしく攻撃と言うにふさわしい行為だった、の理由は近原くんをめぐる桂川さんへの嫉妬だとここにいるほとんどの人間がわかっていたから。

「近原クンもさ、さっさと引導渡してあげなよ? あげないからこんな風になるんだよ?」

 近原くんは黙っている。その黙っている彼を見て久住さんは笑った。

「あ、なるほどね、もう渡されてるんだ。なのに未練がましく追っかけまわしてんだ?」

 ハハと笑い「みじめ~」と続ける。

 あぁ、もうダメだ。胸が痛い。

「も、もう、今日はここまでにしよう!」

 わたしは席を立ちあがりながら声を張り上げた。

 それは震えるわ、裏返るわ、でかなり情けなかったけれど、みんなの耳にはちゃんと聞こえたようだった。

 視線が集まり、わたしは情けない表情を浮かべながら「みんな、疲れてるんだよ」と続けた。


 わたしの弱々しい終了宣言は受け入れてもらえた。

 ほっとしながら片づけを始める。

 今夜はここラウンジで眠るしかない。1階の部屋からマットレスを運び出していたのでそれを敷く為に、今まで使用していた円卓やラウンジ内にあるその他の机や椅子をロビーまで運び出すことにした。

 円卓は男性陣が運んでくれたので、わたしは椅子を運ぶことにする。

 周囲をさりげなく見回すと桂川さんの傍には智恵美と久住さんが居たので、わたしは佐藤さんの傍に行くことにする。

「さ、佐藤さん、ここらへんの椅子運ぼうか」

「……」

 佐藤さんは無言で椅子を持ち上げる。

「あ、結構重いね、引きずっても大丈夫かな?」

「……」

「一個ずつ行こうか」

「……」

 こんな感じでロビ―までの道のりを二人で歩く。

「あ、こっち……」

 ロビーに行くと利波くんが手を上げた。

「あ、ここでいいの?」

「うん」

 わたしは椅子を言われた場所を置いて、「ここだって」と佐藤さんに声をかける。

「……」

「……感じ悪い」

 利波くんがボソッと呟く。

 利波くん! 何言うの!? ともしわたしが猫だったら驚きで毛を逆立ていたことだろう。

「夏目さんは君に気を使って話しかけてくれるのに、無言って……。はっきり言ってあれは自業自得だと思うけど?」

「利波くん!」

 今度は声がちゃんと出た。

「なに?」

 利波くんがこちらを向く。

「わたしのことは良いから」

「でも……」

「大丈夫、気にしてないから、ありがとう」

「……そう……、ごめん、余計な事言った」

 言って利波くんはラウンジの方へと歩き出す。

「あ」

 呼び止めようと思ったけれど、止めておく。利波くんの意外な一面を見たような気がする。

 そういう事を気にしない、我関せずな人だと思っていた。

「えぇーと、佐藤さんも気にしないでね」

「……」

 佐藤さんは相変わらず無言だ。

「よし、ラウンジに戻って、もっと椅子を運び出そう!」

 歩き出す、後ろを伺うと佐藤さんもついて来ているのでひとまずほっとした。


「オレとチカは廊下でテント張って寝るよ、一応寝ずの番ってやつ? マットレスは女の子たちで使って。利波と鈴白はソファで大丈夫?」

「あぁ」

 鈴白くんと利波くんは頷く。

「うーん、女子と男子の間に仕切りが欲しいよね」

 久住さんが敷かれたマットレスを見ながら言う。

 まあ、それは確かに……。いやでもこんな時に贅沢は言ってられないし。

「カーテンでも吊るしたらどう?」

 智恵美が「ここからここに紐を渡して」と指をさしながら言う。

「え、でもカーテンなんて……」

 無いよ、と最後まで言う前に久住さんが「ナイスアイディア」と言って、近原くんの方を向いた。

「客室からカーテンを持ってきたいんだけど」

「わかった」

 封鎖された筈の客室はあっさりと開かれて久住さんがカーテンを剥ぎ取る。それが5回繰り返され、全ての客室からカーテンを剥ぎ取った久住さんは意気揚々とラウンジに向かい、今度は智恵美と二人ラウンジ内の仕切りについて話し合っている。


 再び部屋を封鎖している近原くんと友呂岐くんの傍に近寄る。

「封鎖する意味あるの?」

 現に久住さんは警戒もなく部屋に入って行った。もしかしたら犯人が外から窓を壊して潜んでいるかもしれないのに。

 わたしの言葉に近原君は苦笑した。

「気休めだろうな」

「多分、全員、外部犯だとは思ってないよね」

 友呂岐くんも続く。

「だよね」

 わたしも頷く。

「だが、封鎖しておけば死角が減る」

 後ろから鈴白くんの声がして驚いて振り向く。

「こういう時に一番危ないのって、あれでしょ? 『殺人犯が居るかもしれないのに一緒にいられない!』とか言って部屋に閉じこもっちゃうパターンでしょ」

 友呂岐くんが裏声で演じる。

「ミステリーではよく見る光景だけれど、実際どうかは知らない」

「実際にそんな目に合う奴、かなりレアだろ」

「オレ達、レアだよね。じゃあ……実際はみんなで固まるって事が証明されたわけだ」

「いや、そうとも言えないだろ? ただの危機感の欠如じゃねぇか?」

 近原君は支柱とドアノブを結ぶロープをぎゅっと締め付けながら言う。

「危機感の欠如?」

 問い返すと近原くんは何とも言えない表情を浮かべていた。

「それか……精神の異常性」

「あぁ、それって、テレビで前に公表されたやつ?」

「あ、それわたしも見たよ。現代人は凶悪な犯罪や自然死でない死に対して昔より遥かに耐性がついている、っていう研究発表」

「まあ、確かに異常だよな。人が一人死んでるのにこの雰囲気だもんな」

 友呂岐くんが肩を竦める。

「でも……トラウマになりにくいって言うのは良いかも」

 事故に巻き込まれてPTSDを患う人もかなり減っているとその研究者は言っていた。

 精神的苦痛に鈍感になったのか、強くなったのか、どちらが正解なのかはわたしにはわからない。

 でも苦しまないのなら、それは異常であっても良い事なのではないかと思う。

「確かに、これってトラウマもんの事件だよね」

 友呂岐くんは言ってから「はー」と大きくため息を吐いて頭を掻く。

「しっかし、なんでこんなところで姫が殺されたんだろ?」

「あおい」

 それはどういう意味かと尋ねる前に智恵美がやってきた。

「あ、どうしたの?」

「仕切りも上手く出来たし、シャワーを浴びに行こうって言う話になったんだけど」

「シャワー……」

 色々な意味でさっぱりしたい。

「浴びたい!」

「よね? 本当、3日間の為だけに整備と修繕、そして清掃してくれた人たちに感謝だわ」

 フフと智恵美が微笑む。

「シャワーか……一応、人数わけするか」

 近原くんが首の後ろに手をやりながら歩き出す。

「そうね、念のためにね」

 智恵美も続く。

 わたしはその後ろを小走りになって追いかける。

 もう頭の中はシャワーの事で一杯だった。



 結局シャワーは、女子は2グループ、智恵美、桂川さん、久住さんグループと、わたし、佐藤さんグループになって浴びた。その間、男子は外で警戒中。

 男子も同じく2グループ、近原くんと鈴白くん、友呂岐くんと利波くんに分かれて浴びた。

 佐藤さんはシャワー後真っすぐラウンジに向かって寝てしまった。終始無言だったので、彼女の精神状況が気になるところだけれど、ここはそっとした置いた方が良い気がする。

 一人で自問自答したいところだろうし。


 そして智恵美達も疲れたと言ってラウンジへと寝に行ってしまった。

 わたしはシャワーを浴びた所為か、それとも殺人と言う非日常の所為か目が冴えてしまっていたので廊下でテントを張って寝ずの番をすると言う近原くんと友呂岐くんのところに行くことにした。

「あれ?」

 ラウンジから運び出した机と椅子の一部を廊下に並べてそこに座っていた二人はラウンジから出て来たわたしに缶ビールを乾杯と言わんばかりに振って見せた。

「なるほど、それで寝ずの番を……」

「いやぁ、違うよ、夏目ちゃん、それは違う」

 何が違うのかわからないが、友呂岐くんはきっぱりと言ってビールをあおる。

「本当なら今頃、この時間オレ達はパリピッてたはずなんだよ、だからね?」

 なにが「ね?」なのかわからないが、わたしはあいていた椅子に取りあえず腰かける。

「このままじゃ、ビールもだいぶ余るだろ? だからだ」

「なるほど?」

 眉間に皺を寄せたままわたしは返事する。

 なるほど、なるほど、なるほど? 

 酒飲みの理論だな。

「まま、夏目ちゃんも飲みなよー」

 缶ビールを差し出されるがわたしはNO! を突きつける。

 なぜならわたしは缶チューハイ派だからだ。


「はぁー」

 喉を潤したわたしはおつまみとして用意されたポテトチップスに手を伸ばす。

「良い飲みっぷりだね」

「お酒はいいとして、お菓子も食べていいの?」

 食べてから聞くのもあれだけど。

「大丈夫だろ」

「智恵美ちゃんの見立てだと、最低でも4日後には救出が来るだろってことだし。姫が予定の日に帰ってこないってことで」

「もともと、食料は多めに持ってきてるしな」

「そう、宴会しまくる予定だったから」

 酒もつまみも大量に、と近原くんが言ってビールを飲み干す。

「なるほど……でもそれって最大4日後まで誰も来ないってことだよね」

「……うん、まあ、それは、うん」

「2階を意識しなければなんとかなるだろ」

 近原くんが2本目をあける。

「意識しないでいられる?」

「無理だな」

 クッと笑って近原くんは椅子に深く腰掛けて天を仰ぎ見る。

「いかれてるな」

「そうだね」

 わたしも上を見る。

 わたし達の頭上で、蝶ヶ崎さんの死体は今も横たわっている。その下でわたし達はお酒を飲んで宴会。

 狂ってる。

 まさにイカれてる。

 お酒の力もあったのか、わたしは思わず笑ってしまった。

 自分の異常性に。まともな人間だと、正常だと、今まで自らの本質を疑っていなかった。でも間違いなくわたしは異常者だ。


「二人は本当に寝ないつもりなの?」

 缶チューハイを3本開けてほろ酔い気分になって来た。いやほろ酔いじゃなくてかなり酔いが回ってきている。

「一応、そのつもりだよ」

「徹夜には慣れてるからな」

 近原くんも友呂岐くんもかなりのハイペースで飲んでいるのにケロッとしている。お酒に強い体質なのだろう。

「朝ごはん食べたら、昼まで寝かしてもらおうと思ってる」

「お酒飲んだら眠くならない?」

「夏目ちゃんはそうなんだ? 危険だな~、気をつけなよ?」

「……うん、大丈夫」

 頷く。

 今まで危険な目にあったことは一度もないから。

「危険だな」

 近原くんまでもがそんなことを言う。

「大丈夫、わたし……魅力ないから」

 ポロリとこぼれてしまった言葉に自分でも驚く。

 あぁ、そうかわたし気にしていたんだ、ずっと。そのことに気付く。

「そんなことないでしょ? 夏目ちゃん可愛いよ」

「友呂岐くんは女の子、全員に、そんなことを言っている……」

 ジト目で見上げると、友呂岐くんはにっこりと笑う。

「女の子はみんな可愛いからね」

「……くっ」

 わたしは机に突っ伏す。

「ね、チカもそう思うよね?」

「あ?」

 俺に振るなと呟く声が聞こえた。

「そうだな……夏目は、いい奴だよな」

 いいやつ、それって体の言いお断りの文句だ。

 そうわたしはいい人止まりの女。

「魅力的な女になりたい……」

「いやいや夏目ちゃんは魅力的だよ?」

「もう、友呂岐くんは」

 顔を上げると、「な? 鈴白」と友呂岐くんはいつの間にかラウンジから出て来た鈴白くんに問いかけていた。

 鈴白くんの視線が酔っぱらっているわたしに落ちる。

 これはきつい。

「絡み酒?」

 鈴白くんがいつものように冷静な声で問いかけてくる。

 違う。

 違わない。

 絡み酒です。

「うぅ……」

 わたしは顔を赤くして、いやもうすでにお酒で赤かったから変化はそう無かったかも、呻く。

「もう、寝る……」

 ふらふらと立ち上がって鈴白くんの脇をすり抜けてラウンジへと向かおうとして、トイレに行くことにした。

 

 トイレから出ると、鈴白くんが少し離れたところに立っていた。

「えっと……」

 もしかしたら、危ないかもしれないから見張っていてくれたのかな?

「念のため」

 わたしの考えを読み取ったかのように端的に答える。

「あ、りがとう」

「別に」

 鈴白君は視線を落とした。

 恐らくわたしじゃなくてもと言いたいのだろう。

 久住さんにだって優しかったし。

 わたしはラウンジに向かって歩き出す。自分では真っすぐ歩いているつもりだけどどうもふらふらしている、ような気がする。

「夏目さん」

 腕を掴まれた。驚いて鈴白くんの顔を振り仰ぐわたしに彼は小さく「危ないから」とだけ言ってそのまま誘導するように歩き出す。

「えっと、ここで大丈夫」

 ラウンジの入り口の手前でわたしは「ありがとう」と告げる。

「夏目さん」

 すっと鈴白くんの顔が近付いて来た。腕を掴まれている為に逃げることは出来ない。

 整った顔が間近に着て、わたしはドキドキとする。

 わたし絶対お酒臭い。

「利波と何を話してたの?」

「え?」

 わたしの顔はかなり間抜けだったと思う。

「ラウンジからロビーに椅子を運んでた時」

 察しの悪いわたしにイラついたように鈴白くんは早口で尋ねてくる。

「え、えと……」 

 なにって、そうたいしたことは話して無い気がする。

「佐藤さんのこと、とか」

「……そう」

 わたしの答えは鈴白くんの求めていたものと違うのか、一瞬だけ眉根を寄せてから鈴白くんは腕を掴んでいた手を放した。

「えっと……その、おやすみ」

「……あぁ、おやすみ」

 鈴白くんは近原くん達のところに戻り、わたしはラウンジに入り、開いていたマットレスに体を沈めた。

 

 今日は、色々な事があった。

 眠って、起きたら、あと3日でここから出られる。

 恐らく、たぶん、きっと……。

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