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わたしが『星を見る会』と言うサークルに入ったのには訳がある。
こう見えてわたしは女子校育ちだったのだ。
中学までは男女共学がそれなりに男子と喋ったりもしていた。でも所詮、わたしのような女子が男子とする会話なんて「今日は天気がいいね」「そうだね」くらいの実の無い会話だ。
そんな私が女子校に進学して、そして大学に入って、まともに異性と喋れるはずがない。
はずがないが、やはり大学生となれば彼氏の一人や二人、一人でいいけれど欲しいものではないか!
という欲求に従い、サークル選びに勤しんだ。
ここはやはり王道のテニスサークル! にしようか悩んだのだけれど、ここにきて変なプライド? が邪魔した。
テニスを今までしたことが無く、運動神経も良くないわたしがテニスサークルに入るなんて、目的があからさま過ぎない?
目的はあからさまなのだけれど、それを他人からも思われるのは耐えられない。
はっきり言って、ゴミほどに意味のないプライドである。
そんなわたしの目の前にとあるサークルのちらしが。
それが『星を見る会』だった。
内容はテニスをする代わりに星を見るだけで、それ以外は飲み会も一緒、ことあるごとに行われる懇親会も一緒、これはもう入るしかないな、とわたしが考えてもまったくおかしくない。
そしてわたしは無事に入会し、未来の彼氏探しに勤しんでいた。
とは言っても、サークルに入会したからと言って彼氏が出来るわけではないとわたしが気付くのは入会して少し経ってからのことだけど。
それはそうとして『星を見る会』は居心地が良かった。
無い学部は無いと言われているほど、様々な学部を有する大学だけあって、色々な学部の人が入会していて、自分が今まで接したことのない話を聞けるのは楽しくて、わたしの大学生活はそれなりに充実していたと思う。
そして2回生になる前の春休み、星を見に旅行に行こうと計画が上がったのだ。
発案者は蝶ヶ崎美貴子さん。
彼女は蝶ヶ崎グループの一人娘で、いわゆるお嬢様だ。
お嬢様の前に「わがまま」とつけて全く差支えがない。
彼女は夏休みが終わった後にサークルに桂川さんを引き連れて入会して来た。それから、彼女はサークルの女王様だった。
なんでも彼女の父親は彼女に激甘らしく、彼女の頼みごとにノーと言うことは少ないそうで、蝶ヶ崎家が所有する全国各地にある別荘にただでお泊り出来るとあっては先輩たちだって彼女にゴマをするのは仕方がないと言うものだ。
おまけにもしかしたら上手くいけば蝶ヶ崎グループのどこかの会社に内定がもらえるかもしれないとすれば尚更である。
そんな蝶ヶ崎さんは、はっきり言えば、性格が良くなかった。悪いと言っても過言ではない。わたしは彼女と初めて会った時に、こんなお嬢様、と言うか人、本当にいるんだな、と思ったものだ。それぐらい色々な意味で衝撃的で、パンチの効いた人である。
とにかく人を見下すところがあって、わたしなんかは庶民扱いだった。まあ庶民であるのは間違いないが。とにかく自分と桂川さん以外は庶民、下僕、召使くらいにしか考えていないので言葉がきついきつい。
彼女にゴマをする人間も多かったけれど、彼女を敵視する人間も多かった。
そんな彼女が計画して春休みの小旅行。
参加者はそれなりに彼女よりの人選になってしまうのは仕方がないことだったろう。
まずはわたし、夏目あおい。庶民代表。上で彼女よりの人選になるのは致し方ないと言っておいてあれだけど、なぜわたしが誘われたかは謎。
そして桂川千歳さん。彼女は蝶ヶ崎さん唯一の対等の友達で、古くから続く茶道家元のお嬢様で蝶ヶ崎さんとはずっと学校が一緒らしい。
この情報を教えてくれたのは、蝶ヶ崎智恵美、蝶ヶ崎さんの従姉妹でわたしの友達、そして参加者の一人。
智恵美と蝶ヶ崎さんのお父さん同士が兄弟で、智恵美の父親は売れない画家で、蝶ヶ崎家の事業には一切絡んでないそうだ。だからわたしと同じく庶民なのだと、笑いながら言っていた。
蝶ヶ崎さんのわがままをいつも笑顔で「はいはい」と聞いている。彼女にとってお姉さん的存在?
同じく蝶ヶ崎さんのわがままを聞いていたのは、利波翔くん。彼とはあまりしゃべったことは無いのだけれど、よく智恵美に蝶ヶ崎さんのわがままと言う名のリクエストを伝えに来ていた。
彼と同じく友呂岐和也くんも蝶ヶ崎さんと一緒に良くいるのを見かける。ただ彼の場合は利波くんとは立場は違っていたようで、賑やかし担当? のように見えた。蝶ヶ崎さんの機嫌が悪くなっても友呂岐くんが何か言って、機嫌を直すと言う光景を何度も見ている。
その友呂岐くんと高校時代からの親友だと言う近原悠一くん。
彼は不愛想だけれど、なんでも将来を有望視されている陶芸家らしい。
近原くんを好きな佐藤凛凛さん。彼女は蝶ヶ崎さんの事が嫌いなことを隠そうとしないのだけれど、今回の旅行には近原くんが参加するから参加することにしたらしい。
桂川さん、近原くん、佐藤さんの三角関係は他人事ながらにわくわく、いやドキドキしながら見守っている。
と言っても佐藤さんの負けはもう決まっている。
桂川さんと近原くんは誰がどう見ても両思いで、あとはお互いに想いを確認するだけ、な状態だ。
だからと言って佐藤さんも諦めきれないのだろうけど……。
あとは久住明香さん。蝶ヶ崎さんの取り巻きの一人で、言い方は良くないけど蝶ヶ崎さんの言うことにいつも「すごーい」だとか「さすがー」だとか相槌を打ついわゆるイエスマンだ。
そして最後に、鈴白晴くん。
彼と蝶ヶ崎さんが本当にどういう関係なのかは詳しくは知らない。
彼はとても顔が整っている。性格は……クール、この言葉に尽きる。智恵美とは高校時代からの付き合いだと言う。お付き合いはしてない……と聞いているけれど?
蝶ヶ崎さんを含め計10名がこの廃ホテルに滞在している全員だ。