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恋とゲームと殺人と  作者: 内海 京
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 呆然としてソファに体を任せる。

 このまま沈み込めたら楽なのに。

 想像以上の地獄だった。

 天井を仰ぐ。

 とにもかくにも衝撃的だった。

 考えてみればみるほど、どうしたわたしはここにいるんだろう?

「夏目さん?」

「あ、桂川さん」

「大丈夫ですか?」

 言いながら桂川さんはわたしの隣に腰かける。

「うん、なんとか、いや、衝撃的なことの連続でちょっと頭がついていかないと言うか……」

「えぇ、それはわたくしも同じですわ」

 桂川さんが深く頷く。

「近原さんは大丈夫かしら?」

「あぁ近原くんもショック受けてたよね。友呂岐くんがホストクラブで働いてたの初めて知った……」

「学費の為だそうですわ。友呂岐さんはコミュニケーション能力が高いですしそう苦ではないそうですよ?」

「そっか……それなら……良かったよね」

 嫌々じゃなくて楽しんで出来るのならそれに越したことが無い。 

 にしても学費を自分で出すなんて、友呂岐くん苦学生だったんだな。そんな風には全然見えなかった。

「えぇ、ですけど……その美貴子さんと男女の関係については……」

「桂川さんも知らなかたんだね」

「……知っていたら叱ってでも止めましたわ」

 八の字眉から一転、怒り眉に変わる。

「叱る?」

「美貴子さんは、人の心を軽んじるところがありましたから。お金でなんでも解決できると思ってるふしも」

「……」

 桂川さんは蝶ヶ崎さんのことをこういう風に思っていたんだ…。

「わたしくしには親切な方でしたけど……」

「親切って言うの? あれは依存じゃない?」

「佐藤さん」

 佐藤さんはわたしの隣に腰かける。

 並びとしては桂川さん、私、佐藤さんの順だ。

「依存って?」

「うーん、もしくは過保護? あたしがここに呼ばれたのって完全にチカに付き纏ってそれを桂川に見せる為だと思うのよね」

 佐藤さんは顔をしかめながら言う。

「えー、何のために?」

「あたしに付き纏われてデレデレしてるチカを見て桂川が幻滅すればいいって考えじゃない? 蝶ヶ崎的にチカみたいな男に桂川はもったいない、でも桂川がチカに振られるのは許せない、桂川の方がチカを振るのはオッケーみたいな?」

「屈折してる……」

「言っても蝶ヶ崎はどんな完璧な男を桂川が連れてきても相応しくないってごねると思うけど? ど?」

 佐藤さんは桂川さんに話を振る。桂川さんは苦笑して「そうでしょうね」と同意した。

「美貴子さんはわたくし以外の友達がおりませんから」

「もし利波が犯人じゃなければあんたも動機ある一人だよね、もちろんあたしもだけど、チカもか」

「そうなりますわね、けれどこのサークルに誘ってくださったのは美貴子さんですのよ? ここに近原さんが所属していると突き止めて……」

 桂川さんは顔を顰める。

 それはとても苦悩に満ちていた。

 桂川さんにとって蝶ヶ崎さんは良き友達でもあったし厄介な友達でもあったのだろう。

「わたくしが美貴子さんを殺すとしたら……衝動的だと思いますわ。けれど今回のは計画的です。ですからわたくしは犯人ではありませんわ」

 桂川さんははっきりと言い切る。

「だろうね。同じように衝動的な犯行ならするかも、ってのがチカとかあたしなんだよね」

「蝶ヶ崎さんは近原くんに突っかかって行ったけど相手にしてない感じだったね、そういえば」

「喧嘩っ早いと見せかけて、そういうところ大人なんだよね……」

 佐藤さんは遠い目をして、わたしの視線に気づくとはっとしたように顔を引き締めて話を続ける。

「あたしもそんなに蝶ヶ崎に近づきたくなかったし。合わないってわかってたからね。今回の旅行もチカが参加するからって参加しただけだし」

 確かに。

「でもさ、あたしもチカもなんだかんだで桂川を通して、蝶ヶ崎の掌って言うの? なんかこう弄ばれる的な範囲にはいってるんだよね」

 弄ばれる範囲。

 蝶ヶ崎さんは確かに性格が良くない。桂川さんが言ったようにお金でどうにか出来るかと思ってる節があって、たびたび人の神経を逆なでることを普通に言う。

 桂川さんを近原くんに取られたくないからって、佐藤さんをけしかけて近原くんとの仲を裂こうとするぐらいだ。

 それを見なくてはならない桂川さんの気持ちとか全く考えていない。

 わたしだったら……。

 好きな人が他の女性と親し気にしているのは辛いし苦しい。

 佐藤さんにしたって、彼女の気持ち関係なく当て馬として使われるのだからたまったものじゃない。

「そう考えるとさ、この面子って蝶ヶ崎を殺しかねない奴らが集められた気がする」

「それは言い過ぎじゃ……」

「言われてみればそうかもしれませんわね……」

 桂川さんが悲し気に同意する。

「このメンバーの誰かが美貴子さんを殺した犯人だと言われても納得できますもの。もちろんわたくしも含めて」

「ふぅん? 自分も含めるんだ」

 佐藤さんが尋ねると、桂川さんは苦笑した。

「えぇ、美貴子さんはそういう方でしたから」

「あぁ、確かに。2階は動機としては薄いけど衝動的に犯行をおかしそうなグループで、1階はおじょーさまとの関係がズプズプで計画的に犯行をおかしそうなグループになるかな」

「利波さんが殺されたことで、1階グループに焦点が当てられるようになりましたが、もし殺されなければ話の展開的にわたくし達2階グループに疑惑の目が向けられたでしょうね」

「あり得る」

「でもでも、昨日の話で2階の人間に犯行は無理ってなったじゃない?」

 二人の顔を交互に見ながら言うと、桂川さんは残念そうに眉を寄せ、佐藤さんは言い難そうに頬を掻いた。

「昨晩はあたしの暴走があったからあそこで終わったけど……もしなかったら共犯って話が出たと思うよ」

「きょうはん?」

「恐らくは……鈴白さんや智恵美さんがそれを考えないはずありませんもの」

「きょ、共犯って」

「一番オーソドックスなのはあたしとチカかな。チカと桂川ってのもあり得るか」

「そんなことあり得る?」

 思わず聞いてしまう。

 一人で人を殺すのはその人だけの殺意だ。共犯は二つの殺意が必要になる。同じような強さで人を恨める? そして殺せる?

「あり得ない話じゃないってこと、もしそういう展開になってたらヤバかったかもね」

 佐藤さんは肩を竦める。

「ヤバい?」

「普通に鈴白がやばいでしょ? あの目つき、めちゃくちゃ冷たいし、蝶ヶ崎もヤバイよね。友呂岐とのこと暴露して笑ってるし、久住も嫌らしい」

 久住さんのところだけ心底嫌そうに言う。

「友呂岐さんは、こちらの味方になってくれそうですけど」

「友呂岐はチカの味方であって、あたし達の味方じゃないでしょ?」

 そういえば友呂岐くんも智恵美の事を疑っていることを隠していなかった。そんなこと微塵も今まで見せていなかったのに。

「話を戻すけどだからさ夏目は異質なんだよね。もし1階グループでも2階グループでもどちらに混ざっていたとしても異質」

「えぇっと」

 そんなことを言われても。

 確かに言われてみればそんな気もするし、しない気もする。

 わたしが蝶ヶ崎さんを殺す可能性。

 わたしが蝶ヶ崎さんを殺すなら。


 わたしが蝶ヶ崎さんを殺すなら、計画的だ。

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