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恋とゲームと殺人と  作者: 内海 京
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初投稿です、よろしくお願いします。

ミステリー風味っぽいですが、全くミステリーではありません。

色々なところは雰囲気です。

「ほ、本当に死んでるの?」


 我ながら何の捻りもない使い古された台詞だと思う。

 そんな言葉に、倒れた蝶ヶ崎さんを覗き込むようにしゃがんでいた鈴白くんはわたしの方を少しだけ見て短く、「間違いなく死んでる」と答えた。

「ま、間違いなくかぁ……」

 鈴白くんがそう言うのならそうなのだろう。

 にしても彼はすごい。わたしなんかまともに見れなくてこう、薄目にしながらにしか無残な姿になった蝶ヶ崎さんの姿を見れないと言うのに。

 鈴白くんはしゃがんで間近で、顔を近づけたり、脈を測ったりしているのだから。

 冷静な人っていうのはこういう時にも冷静なのだな、とか場違いな感想を抱いてしまう。これも一種の現実逃避というやつなのかもしれない。


「本物の死体なわけ?」

 苛立ちを含んだ声で問いかけたのは佐藤さんだ。

 佐藤さんは入り口近くの壁にもたれ掛かって、蝶ヶ崎さんの死体を見て、はいなかった。

 彼女は、同じく入口近くの壁に居る二人の方を睨みつけている。

 そこにいるのは桂川さんと近原くんだ。

 近原くんは真っ青な顔をして今にも倒れかねない桂川さんを支えている。桂川さんも近原くんの服を掴んで彼の胸にもたれ掛かっているので、こんなシチュエーションでなければ二人が抱き合っているように見える。

 佐藤さんは近原くんのことが好きだからそれが面白くないのだろう。

 だけれどこういう状況だから声高に非難も出来ずに睨みつけるだけで我慢してる、とそういうことなのだろう。

「それはどういう意味? これが美貴子じゃないって思っているの?」

 蝶ヶ崎さんの死体の傍に立っていた智恵美が佐藤さんに問いかける。

「人形とか……そんなのかもしれない、やりそうじゃない? 蝶ヶ崎なら」

 佐藤さんは一瞬だけ智恵美の方を見て、答える。彼女が気になるのは蝶ヶ崎さんの死体ではなく抱き合っているように見える近原くんと桂川さんなのだ。

 まあ、死体を見たくないと言う気持ちもあるだろうけれど。

「本物の死体だな、この傷口は作り物には見えない」

 抑揚のない声、鈴白くんだ。

 傷口……。確か、薄目にする前に飛び込んできた蝶ヶ崎さんは頭から血を流していた。あと胸のあたりに赤く染まっていて……。

 思い出してしまい、うっと口元を押さえる。

「平気? 夏目ちゃん」

「あ、りがと、大丈夫」

 友呂岐くんが顔を覗き込んでくる、それに涙目で答えた。

 全くもって大丈夫じゃないけど、ね。

「鈴白さー、女の子も居るんだからもうちょっとマイルドな表現にしなよ」

 マイルドとかそういう問題でもないような気がする。

 鈴白くんはわたしをちらりと見てから考え込むように黙り込んだあと、立ち上がり智恵美の方を見た。

「智恵美も念のために確認してくれ」

 智恵美はわずかに顔をゆがめた。当たり前だ、誰だってこんな無残な死体に近づきたくはない。

 けれど智恵美は深呼吸を一つしてから、蝶ヶ崎さんの顔を覗き込むようにしゃがみ込んだ。

 そして慎重に彼女の体に触れていく。

「……この触感は人形にとは思えないし、形相はかなり……酷いものだけれどほくろの位置とかは同じだから、美貴子本人で間違いないと思う」

 智恵美にしては珍しく早口で言い、上体を起こし距離を取るかのように窓際へと移動し、わたし達に背を向けるようにして立った。

 新鮮な空気を吸いたかったのだろう。後ろ姿だけれど肩が何度か大きく上下したのがわかった。

「智恵美さん大丈夫?」

 同じく窓際をキープしていた利波くんが気遣うように智恵美に声をかける、それに小さく頷いて「ありがとう」と微笑んでいる。

「えっと、じゃあ、間違いなく、この死体はおじょーさまってことでいいの?」

 部屋の隅っこで出来うる限り死体から距離を取っていた久住さんが嫌そうな顔をしながら誰にともなく問いかける。


 その問いに誰も答えない。

 恐らくはそうであるのは間違いないのだろうけれど。この明らかな他殺体を蝶ヶ崎さんだとは認めづらい。

 認めづらいと言うか、認めたくない。だって、認めてしまうと言うことは……。


「おい、桂川!?」

 近原くんの声に、顔をそちらに向けると崩れ落ちる桂川さんの姿が飛び込んできた。

「か、桂川さん!? 大丈夫!?」

 もちろん大丈夫な訳がない。

 繊細な桂川さんは色々ともう耐え切れなかったのだろう。それなりに図太いわたしでも色々もう耐えられないのだから。

「ち、近原くん、あっちに運ぼう!」

 あっち、わたしたちが今夜眠るはずの予定だった客室を指さす。

「あぁ」

 そう言って近原くんは桂川さんを横抱きにする。いわゆるお姫様だっこと言うやつで、こういう時なのにわたしはにやついてしまう。

 おぉ……! これが噂の……!

 でもすぐに刺すような視線、嫉妬に燃えた佐藤さん、に気付いて表情を引き締める。

 近原くんを先導するようにわたしは部屋を出た。

 正直言ってこんな部屋にもう一秒たりとも居たくはなかったのだ。

 

 どうしてこんなことになったのだろう?

 

 本当なら今頃皆で楽しくマーダーミステリーに興じているはずだったのに。

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