交わる力
神代 八雲
9月19日生まれ
年齢 15歳
身長・スリーサイズ 163cm B77 W53 H79
髪色・髪型 黒色 ショート
目の色 黒色
趣味 工作 噂話 ネットサーフィン
好きな食べ物 うどん
嫌いな食べ物 酢豚
李 滅龍
5月3日生まれ
年齢 15歳
身長・スリーサイズ 151cm B70 W53 H75
髪色・髪型 黒色(金メッシュ) ツーサイドアップ
目の色 右 シアン 左 金色
趣味 喧嘩 音楽鑑賞 カラオケ
好きな食べ物 甘いもの全般
嫌いな食べ物 なし
...ジか。
どう...る?ふた...れる?きけ...いし
...が?そう...
...い。お...い!
...ってば!
...がってば!
そうが...!
蒼雅ってば!
っ!?
蒼雅「...え?」
八雲「蒼雅!聞いてんの!?」
蒼雅「っあ、ああ。何かしら?」
八雲「なにぼーっとしてんの?二手に分かれるの?どーすんの?」
蒼雅「...そうだったわね。えと、そうね...」
蒼雅「...分かれるのは得策じゃないわ。どこに危険があるか分からないし」
八雲「じゃ、どっち行く?」
蒼雅「直感で、左!」
八雲「えー?大丈夫?」
蒼雅「空気の流れ的に、左の方が短そうだし、近いとこから行きましょ」
八雲「ま、ここは蒼雅に従っとくか。危険があっても蒼雅が守ってくれるだろうし」
蒼雅「任せなさいな」
―――――――――――――――
八雲「お!これって、エレベーターじゃない!?」
蒼雅「どれ?」
八雲は何かを見つけ駆け寄った。
蒼雅「これは、機材搬入用のエレベーターかしら?」
八雲「サイズ的にはそれっぽいね」
八雲はエレベーターに乗り、私も乗ったことを確認してから操作盤を弄った。
蒼雅「随分綺麗ね。最近取り付けた物かしら」
八雲「かもね。このジオフロントの構造でも、これは少し浮いてる感じだし。...さ、動くよ」
エレベーターが動き出す。
エレベーターは上へ上へと上がっていく。
八雲「どこに繋がってるのかにゃ~?」
蒼雅「知らにゃーよ」
カコーン
八雲「着いたにゃ」
蒼雅「...行くわよ」
八雲「へーい」
エレベーターの先には、大きな電子扉があり、自動で開くようになっている。
シャコン
開いた先には荷物が積まれた部屋があった。
真正面には、普通の鉄扉。隣にはこちらの扉と同じ電子扉。
八雲「こっちは開くかな?」
八雲が電子扉を開く。
そこには再びエレベーターが。
蒼雅「...推測だけど、佐脇らが使用してる方の通路へと繋がってるんじゃないかしら」
八雲「成程。それはありえる」
蒼雅「なら、目的地はこっちね」
私はおもむろに真正面にあった鉄扉を開いた。
―――――――――――――――
蒼雅「ここは...」
八雲「病院?」
眼前に広がるのは、見覚えのある光景。
そう、まんま病院だ。
受付カウンターがあり、診察室が並び、奥には集中治療室がある。
八雲「なんでこんなとこに病院が?」
蒼雅「...さぁ?」
八雲「...にしても綺麗だね。最近できたばかりかな?」
蒼雅「そうかもね。...気配はないし、スタッフも居ないみたいね」
八雲「待合所に椅子もないしね。...で、どうする?」
蒼雅「どーするもこーするも、調べてくしかないんじゃない?この様子じゃ何もなさそうだけど」
八雲「だね。じゃ、私は1階から」
蒼雅「了解。上の階に行くわ」
八雲「何かあったらすぐ連絡して」
蒼雅「了解」
そう言うと私は、八雲と別れ、階段を上がった。
―――――――――――――――
蒼雅「…2階から順に見て行ってもいいけど、八雲が1階にいるし、上から攻めた方が効率いいかも」
私は2階をスルーして、階段を駆け上がる。
蒼雅(人の気配はないけれど、一応気配は消しておこう。音も立てないように…)
気を消して、神経を尖らせながら階段を上がる。
蒼雅(何階建てなのかしら…)
3階、4階と駆け上がり、ふと気になった。
蒼雅(結構でかいわね。大学病院レベルじゃないかしら)
なんてことを考えながら7階に差し掛かる。
すると
ギンッ!
不意に空気が張り詰める。
いや、実際に何かが変わったわけではないが、強い気配を感じる。
蒼雅(何、このプレッシャー…どこから…)
周囲を見渡す。
蒼雅「…上か!」
重々しい空気…厳密にはかなり強い殺気を肌に受けながら、気配の主がいるであろう場所へ向かう。
蒼雅(この気配…"あそこ"に居た連中と似てる…!)
気配を最大限に殺して、階段を上がる。
蒼雅(扉…屋上みたいね)
慎重に扉に近づく。
近づくにつれて、鋭い殺気がより鋭くなっていく。
蒼雅(…何者かしら)
扉の向こうにいる強大な気配の持ち主。それが誰だかは分からないが、ここまで来て無視するわけにも行かない。
意を決して扉を開ける。
ガチャ
「あん?」
―――――――――――――――
閃梨「ダメだ…どこにもいない」
あれから更に1時間、霧雨達を探していたが、足取りは掴めないままだった。
閃梨「…授業もあるし、ここらで切り上げるか。ちっ、阿呆が…」
生徒2人が行方不明…普通なら捜索隊が出てもおかしくはない。何せ名門女子校だ、名家の令嬢が多数在籍している。
だが霧雨となれば別だ。
あいつに限って危機的状況に陥ることはまずない。
他の教師達もそれを理解しているから探そうともしない。
阿呆が…どんな生徒だろうと、然るべき対応をとるのが、教師なんじゃないのか。
いくらあいつが強いといっても、15歳の少女には変わりない。
「どーしたの?なんか苛立ってるみたいだけど」
閃梨「…白夜か。ちょっと色々あってな」
話しかけてきた女性は、霜月 白夜。短く切り揃えたアッシュブロンドの髪と、綺麗な翡翠色の瞳とそれを覆う銀縁の眼鏡が特徴的な女性。
我が校の保険医の一人で、中等部棟にある第2保健室の担当。
保険医らしく白衣を羽織っており、その麗しい容姿も相まって、多くの生徒から憧れられている。
歳は私より一つ上で、学生時代の先輩だが、幼なじみなので、フランクな間柄である。
白夜「蒼雅のことでしょ? どこ行ったか分かんなくなったとか?」
閃梨「…その通りだ」
白夜「やっぱりね〜。…別にいつものことなんだし、放っておきなさいよ」
白夜は苦笑いしながらそう言った。
閃梨「そうはいかない。優等生の神代まで巻き込んでるんだ。それに、不良生徒だからって放置なんかできない」
白夜「真面目ねぇ。成績は優秀だし、時々部活の助っ人とかやって、優勝旗持ち帰ったりしてるし、多少のことは目をつぶってあげたらどうよ」
閃梨「授業をサボっていい理由にはならん。授業は授業。出なきゃ意味は無い」
白夜「…まぁ、そうね」
閃梨「…お前、匿ってないだろうな?」
白夜「匿ってないわ。どこいるかはなんとなく見当つくけど」
閃梨「本当か?教えてくれ!」
白夜「いいけど、条件があるわ」
閃梨「は?条件?」
白夜「探すのを午後からにすること。三限四限と授業があるでしょ?それはちゃんと自分がやりなさい。そしたら昼休み教えてあげるわ」
閃梨「…仕方ない。分かった」
彼女の言うことはもっともだ。不良生徒探しで自身の受け持つ授業を疎かにするのは駄目だな。反省しよう。
白夜「それじゃ、また昼に」
閃梨「ああ…」
結局午後か…。アイツめ…
―――――――――――――――
蒼雅「…」
「誰よ…アンタ?」
扉を開けた先には屋上が広がっていた。
当たり前だけど何も無いわね。
その何もない屋上の先には、人が立っていた。
「どうやってここに…気配は一切感じなかったし…」
奇妙なものを見る目でこちらを見るそいつは、少し奇抜な見た目をしている。
…着崩した中等部の制服。黒髪に金のメッシュが入ったツーサイドアップ。そして、金色と水色のオッドアイ…
まるで、ヘビィに傾倒したバンギャのような容姿だった。
蒼雅「気配は出来る限り殺して来たわ。とんでもない殺気を感じたから」
「へぇ…アンタ分かるんだ。凄いね」
少女は殺気を隠そうともせず、不敵に笑う。
その笑みを見て、思い出す。
蒼雅「アンタ、どっかで見た気がしたけど…アイドルの李滅龍か」
「なんだ、知ってるんだ」
蒼雅「えぇ。テレビのバラエティとかで結構見かけるもの。アイドルはあんまり興味無いけど」
李 滅龍…最近テレビで引っ張りだこの人気アイドル。
この奇抜な見た目で、ビジュアル系アイドルみたいなので売り出してるらしい。よくは知らないけど。
滅龍「アタシも売れたものよねー。もうちょいアイドル続けても良かったかも」
蒼雅「はい?」
滅龍「飽きたから辞めてきたのよ。まぁ、適当に書類に違約金添えて叩きつけてきたから、まだ辞めたことにはなってないだろーけど」
滅龍「よくよく考えりゃ、ガッコーも行かずに仕事ばっかで、ロクにセーシュンしてないなーって」
滅龍「だから、通学することにした。こっそり試験受けたりして大変だったけど、上手くいって良かったよ。ちなみに明日からだから、よろしく」
蒼雅「あっそ」
聞いてもないことをベラベラ喋って…なんなのよ。
滅龍「ドライだねー。もうちょいアタシに興味
持って欲しいんだけどー?」
蒼雅「無いこともないわ。編入前日に何でここにいるのか、とか」
滅龍「散歩だよ。この学校広いからさー。場所とか覚えないとだしー」
蒼雅「そんなもの、校舎回ればいいじゃない。なんでわざわざ入るの禁止されてる場所に来るのよ?」
滅龍「逆に聞くけど立ち入り禁止の場所になんでアンタはいるわけ?」
蒼雅「…友人の道楽に付き合ってるだけよ」
滅龍「変なのー」
滅龍「まぁアタシも似たモンだよ。興味本位で森ん中に入っていったらここに着いただけ」
滅龍「なーんか面白いモンでもあるかなーって思って来たけど、誰もいないし何も置いてない。あるとしたら医療関係の道具やら資料くらい」
蒼雅「1人で全部見回ったってことは、相当前に来てたのね」
滅龍「まぁね。結局何もなくて屋上で一服してたんだけど、邪魔されちった」
蒼雅「それは悪いことをしたわね」
滅龍「いいよいいよ。最後に面白いもの見つけたし」
蒼雅「…そう。出来れば忘れて頂戴な」
踵を返して中に戻ろうとした。
すると
滅龍「…それは出来そうにないなー」
彼女がそう言った刹那
シュッ!
私の目の前に彼女の脚が迫った。
ブォン!
蒼雅「…なんのマネかしら?」
寸前でしゃがみ、かわす。
滅龍「…今の避けンのか」
目の前に滅龍の姿があった。
おそらく、一瞬で裏に回って、蹴りを入れてきたのだろう。
私と彼女の位置は50mは離れていただろう。その間合いを一瞬で詰めた上に回り込んだ…
蒼雅「化け物かっての」
滅龍「アンタも大概な気がするけどねェ!」
2発目が飛んでくる、私は素早くかわし、カウンターで腹部に拳を叩き込む。
滅龍「ガァっ!」
滅龍は怯んだ…と思った瞬間、3発目を加えてきた。
反応が遅れて、腕で防御した。
ギシッ!
蒼雅「…っ!」
鈍い痛みが腕に走る。なんてパワー…!
滅龍「アンタ何モンだよ?アタシの不意打ち避けるわ、今の蹴りも片腕で受けるわ、拳の重さもハンパじゃねェし…」
蒼雅「褒めても何も出ないわよ。それなりに鍛えてるだけ」
滅龍「それなり…ねェ?」
蒼雅「…ま、不良生徒って呼ばれてる以上、喧嘩が弱いと締まらんでしょ」
滅龍「ハッ!んな戯言いつまで抜かしてられっかねェ!?」
先程より速く、重い攻撃が連続で降り注ぐ。
私はそれを捌きつつ、隙に攻撃を与える。
滅龍「オラオラァ!付いてこいよォ!!」
蒼雅「…速いわね!」
激しい攻防の最中、互いに数発貰うが、いずれも致命に至らず。
滅龍(…このアタシが攻めきれねェ。なんなんだコイツ…)
蒼雅(パワーもスピードも常人じゃないわね…だけど!)
相手の右拳が右頬掠めた瞬間
ガシッ!
滅龍「しまっ…!」
腕をからみ、体を背ける。
蒼雅「せやっ!」
そして、勢いをそのままに、相手を投げる…というより、地面に叩きつけた。
バゴォン!
滅龍「ガハァッ!!」
片腕をロックしたまま、背面を叩きつけたため、受け身が取りきれず、強い衝撃を受ける。
成人男性なら悶絶必至。打ち所が悪ければ最悪死ぬ。
だが…
滅龍「ッラァ!」
蒼雅「ぐっ!」
倒れた状態から下半身を跳ね上げて蹴りを私の首筋に入れる。
首筋に受けた衝撃でロックが外れ、相手は抜け出す。
滅龍は素早くリカバリングし、前傾姿勢の私の顔面に膝を入れる。
蒼雅「ふっ!」
寸前でかわし、蹴りを入れた反対の足を払う。
滅龍「うおっ!?」
滅龍はそのまま転ける…事無く、片腕をついて跳び、宙返りしながら距離をとって、体勢を立て直した。
蒼雅「まるでサーカスね」
滅龍「アンタだって出来るだろ、これくらい」
蒼雅「…どうかしら」
互いに構え直す。しかし、滅龍は体捌きに少し歪みが生じる。
滅龍「ちっ…痛てェな」
さっきの投げ技のダメージが効いたのか、構えが乱れる。
蒼雅「…まだやる?」
実際、私も首筋に鈍い痛みを感じる。だが相手に悟られないために、堪える。
滅龍「…久々に本気で戦えんだ。まだ終わらせねェ…!」
蒼雅「結構なダメージ受けてるでしょう?そんな状態で私に勝てるかしら」
滅龍「んなモン、かすり傷だァ!!!」
ブォン!
凄まじい速さで飛び蹴りが顔面に飛んでくる。
蒼雅「ぐぁっ!」
避けきれず腕で防ぐが、凄まじい威力で全身が軋む。
衝撃にたまらず後ずさったところを、間髪入れずに2撃目を繰り出す滅龍。
蒼雅「っ!」
反射神経を研ぎ澄まし、捌く。
滅龍「ハハァッ!」
しかしラッシュは止まずに繰り出される。
滅龍「いつまで持つかなァ!?」
こちらに反撃の隙を与えてくれないほど速く、重い連撃。
だけど…
蒼雅「はっ」
捌きつつ、相手の手足の動きを限定させる。
打つ方向、避ける方向、捌く方向、全て計算し、制御する
そして、連撃の間に隙が生まれた。
蒼雅「ふっ!」
ほんの一瞬の綻び。生じた隙間に掌底を入れる。
滅龍「ぐオァ!!」
声にならない呻き声をあげ、滅龍の体は後方へ吹き飛ぶ。
ガシャァン!
滅龍の体は屋上のフェンスに叩きつけられた。
滅龍「ヤロウ…」
蒼雅「ぐはぁっ!」
度重なる連撃を受け切ったため、全身に一斉に痛みが走る。
膝を付きそうになるのを堪え、滅龍に歩み寄る。
蒼雅「とんでもないパワーね…でも動きが直線的すぎるわ」
滅龍「へっ…押し切れると思ったんだけど…」
滅龍は座り込んだまま、不敵に笑う。
蒼雅「...なんのつもりよ。いきなり蹴りかかるなんて」
滅龍「なに、ちょっと遊んでみたくなって。なんとなく、アンタがタダモンじゃない気がしてね」
蒼雅「それだけの理由で...ったく、アホじゃないの」
滅龍「しかしまぁ...やるじゃない…負けだよアタシの」
蒼雅「まだ余力はありそうだけど?」
滅龍「それはアンタもでしょー?」
滅龍はフェンスに手を掛けて、ゆっくりと立ち上がる。
滅龍「まさかこの学園に、こんな化け物がいたとは…ククッ、楽しみがひとつ増えたわね」
蒼雅「化け物はあんたの方でしょ。ったく、体が軋む…」
滅龍「…今度は互いにぶっ倒れるまで、思いっきりヤり合いたいものねー」
蒼雅「出来れば遠慮したいわね…」
滅龍「いずれ"返し"にくる。首を洗って待ってなよ」
滅龍は不敵に笑いながら、親指で首を切って下に向ける動作をした。
蒼雅「…」
必ず殺りにくる…彼女の目は本気だ。
バタン!
八雲「蒼雅!」
蒼雅「八雲…どうしたの?」
八雲「どうしたもこうしたも!どこにも居ないから探し回ってたんだよ!」
蒼雅「悪いわね。屋上で人を見かけて、話してたのよ」
八雲「人?」
蒼雅「ええ。そこに…」
私は滅龍を指差した。
蒼雅「…あら」
しかし、そこには誰の姿も無かった
八雲「誰もいないじゃん」
気配の残滓を探る。
蒼雅「…なんなのアイツ」
フェンスから、地上を見下ろす。
気配は既に地上に移っていた。
蒼雅「何か面白いもの見つかった?」
八雲「え?うーん、そんなに面白くは…って!」
八雲が何かに気付き歩み寄ってくる。
八雲「アンタボロボロじゃん!何があったの!?」
蒼雅「ん?あぁ…」
自分の体を見回す。
羽織ってたコートは所々穴が開き、ロングスカートにはスリットが出来ている。
八雲「どうしたの?盛大にずっこけた?蒼雅がそんな状態になるなんて珍しすぎるね」
蒼雅「…そういうこともあるわ。それより、どうなの?」
八雲「残念だけど、普通に病院としか言いようないかな」
蒼雅「ま、そうよね」
だとすれば、佐脇たちは一体なんのために...
蒼雅「…て、どーでもいい話よね」
八雲「んー?」
蒼雅「帰るわよ。早く帰らないと昼休み終わっちゃう」
八雲「そうだね。まーたあの道通るのかー。面倒だなー」
蒼雅「…いいえ。森の中を通って行くわ」
八雲「え、マジ?なんでまた…」
蒼雅「せっかくだから、表のルートを知っておきたいし、それに…異変を察知して旧校舎で誰かに張られてたりしたら厄介だから」
八雲「でも、危なくない?迷いの森って言うくらいだし結構険しいよ?」
蒼雅「表を出入りしてる人間もいるっぽいし、流石にちゃんとした森林道があるはずよ」
八雲「それもそっか」
蒼雅「それじゃ、降りるわよ」
私はフェンスに手を掛け、飛び越えようとする。
八雲「待って待って何してんの!?」
蒼雅「面倒だから飛び降りるの」
八雲「いや、高さ分かってる!?」
蒼雅「これくらい、私なら普通に降りられるわよ。あんたも七つ道具とやらを使えば降りれるでしょ」
八雲「流石にそこまで道具を過信してないから!」
蒼雅「つべこべうっさい。さっさと降りないと置いてくから」
八雲「ちょっ!」
私はそう言い残し、屋上から飛び降りた。
…李滅龍か。
彼女との闘いを思い返す。
あの時、滅龍は私を本気で殺りにきていた。
少しでも油断していれば、殺されていたかもしれない。
そんな相手が現れたことに、私は僅かながらも"悦び"を感じてしまった。
私の体に巡る"血"と、幼き日に"培われてしまった"闘争本能が疼き始めていたのだった…。
―――――――――――――――
閃梨「さて、約束通りアテとやらを教えてもらおうか」
昼休み。
私は約束を守ってもらうべく、保健室を訪ねた。
白夜「まぁそう焦らないでよ」
白夜はマグカップにコーヒーを入れて、こちらに渡してくる。
閃梨「…なんだ?」
白夜「コーヒーだけど。あれ、苦手だったけ?」
閃梨「そうじゃない。今はコーヒー飲んでる場合じゃないんだ」
白夜「何焦ってんだか…」
閃梨「生徒が行方不明なんだぞ!?」
白夜「大袈裟ねぇ。不良が授業をサボっただけでしょーが」
閃梨「霧雨だけならともかく、神代までいないんだ。心配にもなる」
白夜「そういう日だってあるわよ。まぁ、教師としては授業にはちゃんと出て欲しいし、指導はしなくちゃいけないんだろうけど」
閃梨「そういうことだ。保険医でもそれくらいは分かるだろ?」
白夜「私は仮病でも受け入れるわよ」
閃梨「…おい」
白夜「保健室はただの療養所じゃなく、生徒の逃げ場であり、ケアする場でもあるの」
白夜「悩みを抱える生徒も、ただ嫌気が差してサボりに来る生徒も受け入れる…それくらい懐を大きくしてないと、利用者も減っちゃうわ」
閃梨「…教師一同、真摯に職務を全うしてるというのに、お前は…」
白夜「だからこそよ。物事にはバランスが大事なの。真面目があれば不真面目もあり、厳しさもあれば優しさもある。その絶妙な均衡があってこその学園生活。人間と一緒ね」
閃梨「良いように言ってるだけで、やってることはサボりの助長じゃないか」
白夜「分かってないわねー。サボりも立派な青春でしょー?大人になったら嫌気が差してもサボれないんだから、学生の特権よ」
閃梨「霧雨はその特権を使いすぎてるんだよ」
白夜「…ま、そこは否定できないわね」
白夜は笑いながら、コーヒーを飲み干した。
白夜「…はぁ。なんだかあの子を見てると、いつぞやのあんた達を思い出すわねー」
閃梨「え?」
白夜「当時不良生徒だった罪華と、ドが付くほどに真面目だったあんたのことよ」
白夜「今でも不思議に思うわ。そんな価値観がまるで違う2人が、あそこまで仲良くなるなんてね」
閃梨「…ま、色々あったからな」
白夜「そうね…ほんと色々ありすぎたわ」
白夜はコーヒーを注ぎ直し、また懐かしむように語り出す
白夜「あの時のあんたは罪華にべったりで…傍から見たら不良に悪い遊びを仕込まれてた優等生ちゃんだったわよ」
閃梨「ぐっ…わ、私と罪華さんはそんなんじゃ…」
白夜「分かってる。…あの出会いがあったからこそ、今でもこうして仲良く勤務出来てるわけだしね」
閃梨「…"あんなこと"がなければ、こんなとこで教師はやってなかったがな」
白夜「…教師に前向きなのかそうじゃないのかどっちなのよ」
閃梨「…生徒達に、私達のようになって欲しくないから指導するんだ。霧雨みたいにフラフラして、見てないとこで余計なことに首を突っ込みそうなやつは危険なんだよ」
白夜「…」
白夜は無言で目を閉じた。あの時のことを思い出しているのだろうか。
白夜「あの時、"藍香"がいれば何か変わってたかもしれないわね…」
閃梨「藍香…それって」
白夜「ええ。霧雨藍香…私と罪華の親友よ」
霧雨 藍香…話に聞いたことはある。
真面目で優しく、皆に慕われていた、まさに学園のアイドル…。自由奔放で他人を顧みない罪華さんですら彼女には頭が上がらなかったとか。
彼女は中等部3年の頃から突然休みがちになり、高等部では試験と卒業式だけ出席していたという。
教師にも生徒にも慕われていた彼女がそんな状態になったため、あらゆる噂が飛び交った。
何故そうなったかは分からない。ただ、彼女が高等部3年最初の試験に出席した時、こう言ったらしい。
『病気の妹を母の代わりに看病している』
彼女の言ってることが本当かどうかは定かではない。
…まぁ、私自身は彼女と関わりがなかったから、詳しいことは分からないのだが。
閃梨「…って、こんな話をしに来たんじゃない。霧雨が居そうな場所、教えてくれよ」
白夜「…その必要は無いわ」
閃梨「なに?」
白夜「外、見てみなさい」
私は窓の方へ目を向けた。
そこには、神代と談笑しながら歩いている霧雨がいた。
閃梨「…アイツ!」
私は外に向かうべく保健室を飛び出た。
白夜「…喧嘩にならなきゃいいわね」
―――――――――――――――
八雲「やっと戻ってこれた…。良かった、まだ昼休みだ」
蒼雅「まったく、整備くらいしときなさいよ」
あれから私達は森を抜けて、校舎の近くまで戻ってきていた。
八雲「お腹減った〜。購買でなんか買って食べよ」
蒼雅「私、弁当あるから」
八雲「出た!自作の手弁当!料理出来るの羨ましいわ〜」
蒼雅「練習すればいいじゃない。一人暮らしでしょ?」
八雲「一人暮らしだからこそ面倒だからやりたくないの」
蒼雅「コンビニばっかじゃ高くつくでしょ」
八雲「手間を考えたら安いもんよ」
談笑しながら校舎にしれっと戻ろうとする。
その時
蒼雅「…」
八雲「蒼雅?どしたの、急に立ち止まって」
蒼雅「…どうやらゆっくりランチタイムとはいかないみたい。八雲、私の弁当食べていいわよ」
八雲「え?でも…」
蒼雅「早く教室に戻りなさい。怒られるのは慣れてるから、八雲の分も怒られてあげるわ」
八雲「も、もしかして…指導の先生来た?」
私は頷いた。
蒼雅「ほら、早く」
八雲「わ、分かった!ごめんね!この礼は後ほどする!」
八雲はフックショットを使い、A組の教室の窓から中に入っていった。
そして、入れ替わるようにして
閃梨「霧雨…」
蒼雅「あら御剣先生、ごきげんよう」
閃梨「気持ち悪い挨拶をするな。…神代はどこに行った?」
蒼雅「トイレ」
閃梨「…まぁいい。ちょいと面貸せ」
蒼雅「お断りよ」
閃梨「お前…」
蒼雅「毎度毎度律儀ね。私みたいな不良生徒、相手にしなくていいじゃない。別に迷惑かけてるわけじゃないのに」
閃梨「かけてるんだよ。お前を探すために授業を潰してんだ」
蒼雅「わざわざそんなことしてたのね…熱心なこと」
閃梨「…教師を舐めるのも大概にしておけよ?」
蒼雅「おー怖い怖い。今にも斬りかかってきそうね。…その背中に隠した得物で」
閃梨「…バレてるならしょうがない…ならば」
閃梨「…問答無用ォ!」
御剣先生は後ろ手に隠していた得物…日本刀を取り出し、数メートル離れた所から、居合で斬りかかってきた。
あまりの速さに音が聞こえないほど。
…だけど
蒼雅「ぬるいわね」
パキィン!
閃梨「なっ…!」
刀は綺麗に中心から折れた。
カランカラン
刃が床に落ちる。
閃梨「い、一体なにが…」
閃梨(何故刀が…も、もしやあの刹那にへし折ったっていうのか!?)
蒼雅「…そんな安物の模造刀で戦えるわけないでしょ。まだ木刀の方がマシよ」
閃梨「…チッ」
蒼雅「あんたも懲りないわね。指導と称して何回か挑んできてるけど、私に勝てた試しがあったかしら?」
閃梨「…今までは素手だったからな。だから今日は本気でお前を倒すつもりで刀を使ったんだがな…」
蒼雅「ふーん…こんな温室育ちのナマクラ剣術で?」
閃梨「な、に…!?」
蒼雅「あんた、実際剣術の世界じゃ名のある流派らしいじゃない。あんた自身も剣道の大会で数多くの記録を残したって聞いてるし」
蒼雅「…でも所詮はただのスポーツ。命を張った技じゃない」
閃梨「…」
蒼雅「確かにあんたの技は速いけど…タマ獲るには鈍すぎる」
閃梨「…我が剣を愚弄するか…舐めるなよ…!」
蒼雅「?」
閃梨「まだ…終わっていない!」
御剣先生は折れた刀を私の顔前に投げつけてくる。
蒼雅「…」
私は体を捻って避けた。
閃梨「…喰らえ!」
すると、御剣先生は体を深く沈め、懐に入り込む。
蒼雅「…へぇ」
彼女は私の腹部を目掛け拳を突き出した。
閃梨「ぐぁあっ!」
その手を掴み、捻りあげる。
蒼雅「だから、ぬるいのよ」
閃梨「…このっ」
蒼雅「ていっ」
閃梨「んぐぁ…」
まだ抵抗しようとしたので、そのまま地面に抑え込む。
蒼雅「投げた刀にピントを合わさせ、周囲の視界を曖昧にさせる…。良いやり方ね」
閃梨「…霧…雨ぇ…!」
蒼雅「覚えておきなさい。斬れない刀はナマクラ…それは技も同じことよ。相手を斬れない剣術に何の価値があるのかしら」
蒼雅「美しく流麗な技でも、相手に届かないなら無意味だし、がむしゃらに振り回すだけでも、相手に傷を負わせられたのなら価値がある」
蒼雅「刀は斬るためのものなのだから。殺めるも活かすも斬ることが全て。それを理解しないならナマクラ以下ね」
閃梨「…偉そうなことを!」
蒼雅「偉いわよ。仕事を二の次に生徒に私闘を挑むようなアホ教師よりね…それじゃ、私は教室に戻るわ」
私は彼女の手を離し、校舎へと向かった。
―――――――――――――――
閃梨「…私闘じゃなくて、一応指導だっつの…」
体をゆっくり起こし、座りこむ。
閃梨「…くそっ、化け物かアイツは」
霧雨に惨敗した私は、アイツが向かった校舎の入口を眺めていた。
罪華「…化け物というより修羅だね」
閃梨「罪華さん…」
罪華「あの感じ…どこの馬鹿か知らないけど、あの子のこと刺激しちゃったみたいだねぇ」
閃梨「…すいません。ですが私は教師として!」
罪華「あー、違う違うあんたじゃないよ。あの子、ここに来る前に一戦交えてきてたみたいだから」
閃梨「…本当ですか?」
罪華「あの子が着てたコートの破れ方とか見ればね」
罪華「しかし厄介なことになるぞー。この学園にあの子と渡り合えるくらい強いヤツがいたとなったら、今まで爪を隠してきてた連中が触発されて台頭してくるかもだし」
閃梨「…え?」
罪華「流石にソウちゃんほど強いヤツは何人もいないだろうけど、腕に覚えがある連中は結構いるみたいだから」
罪華「…おそらく、ソウちゃんと戦った誰かさんも、危険対象として"執行部"に目をつけられるだろうから、最悪、流血沙汰になるかも」
閃梨「…流石にそんなことにはならないでしょう」
罪華「無いとは言えないよ。私達の代でも、似たようなことあったでしょ?」
罪華「…下手すりゃあの時以上になる」
閃梨「いざと言う時は我々が止めればいいんですよ」
罪華「止まればいいけどね…なにせ」
罪華「ここが戦乙女の学校だからなのか…生徒も教員も、血に飢えたヤツが割といるからさ」
閃梨「…」
校舎前の銅像を見る。
戦乙女レム・トー・ディナ…聖戦ラグナロクを生き延びた戦乙女。聖戦の後、森羅万象をその身に受けて、新世界で加護をもたらし、姿を消した最後の戦乙女…。
神話学の授業で何度も聞いた戦乙女の伝説。
縋るもの欲しさに誰かが作った物語だろう。しかし、彼女の生き様に憧れる者は少なくない。
…彼女の存在が、この学園に争いを呼んでいるということなのだろうか。
―――――――――――――――
キーンコーンカーンコーン
「それじゃ〜、HR終わるわね〜」
「起立、礼」
蒼雅「…お腹減った」
HRが終わり、放課後になった。
各々が帰る準備をする中、私は机に突っ伏していた。
八雲「昼食べて無いんだからそりゃねー」
蒼雅「…そういえば私の弁当食べた?」
八雲「遠慮なく頂いたよ、ご馳走様。弁当箱に米粒ひとつも残さず食べたから!凄く美味しかったよ!」
蒼雅「そう…それは良かったわ。お粗末様でした」
自分が作った弁当を綺麗に食べてもらえて嬉しいけど…今は少し複雑な気持ち。
蒼雅「帰りコンビニで何か買ってこ…」
八雲「いいね。私も付き合うよ」
「…放課後のっ、買い食いはっ…めっ!」
八雲と話していると、横から控えめなツッコミが飛んできた。
蒼雅「由美ちゃん、大目に見てくれないかしら?お腹が減って倒れそうなの」
由美「えっ…えっ!た、倒れそうなのっ…!?」
蒼雅「…冗談よ。お腹は減ったけど」
大げさに言ったことを真に受けて慌てふためくこの少女は、相良 由美。
私達が在籍しているA組の委員長。
小柄で控えめな声が特徴的な美少女。
ちょこちょこ動く姿が物凄く愛らしいため、クラスのマスコット的存在になっている。
由美「お、お腹減るのはっ…自業自得っ…お昼までっ…どこいってたのっ」
八雲「えっとねー…探検」
蒼雅「このアホに付き合わされてた」
由美「もうっ…ちゃんと授業受けなきゃっ…めっ、だよっ!」
頬を膨らませて怒る由美ちゃん。
蒼雅「ごめんなさい。ギューってしてあげるから許して」
私は由美ちゃんをギュっと抱きしめた。
由美「はにゃっ…!」
蒼雅「…あぁ、可愛いわ…」
由美「蒼雅しゃんっ…あったかいっ…」
八雲「…親子みたい」
蒼雅「15歳なんだけど?」
八雲「どっちも見えない…色んな意味で」
由美「子供扱いしないでっ…」
とか言いつつ離れない由美ちゃん。
八雲「てか蒼雅、こんなことしてていいの?早く帰らないと大変なことになるんじゃ?」
蒼雅「…げっ、やばいやばい。あいつらが来ちゃう」
そんなことを話してると
「霧雨さん!ぜひラクロス部に!」
「柔道部でしょ!なぁ霧雨!」
「野球!野球しかない!」
「サッカー部の方がイケてるよ!」
蒼雅「うわぁ…来ちゃったかー…」
八雲「人気者は辛いねぇ」
八雲は横でケラケラと笑う。後で覚えておきなさい。
蒼雅「ごめんなさい、私これから帰るので…」
「今日という今日は、逃がしませんわ!バトントワリング部に入ってもらいます!」
由美「あうぅ…怖いぃ」
蒼雅「…由美ちゃん、ごめんね?すぐに抜け出すから」
私は教室の入口に近付く。
「「「是非うちの部に!」」」
蒼雅「…しつこいわね」
八雲「…どうすんの?入口両方塞がれてるけど」
蒼雅「…というか廊下を占拠されてるわ。いっそ、窓から飛ぶしか…」
八雲「また高所からダイブする気!?いや私は別にいいけど、由美ちゃん泣くよ?」
蒼雅「…他に方法はないわ。吹き飛ばすわけにはいかないし」
さて、窓から飛ぶか…
「散れ散れー!廊下占拠されたら邪魔!教室入れないし!」
「彼女の勧誘はまたの機会にしてくれないかい?」
「皆さん、はしたないですわ。淑女としての振る舞いをお忘れなきよう」
八雲とこそこそ作戦会議をしていると、3人の女子が人混みに割って入った。
八雲「猪鹿蝶じゃん!どうしたの?」
現れたのは、同じA組に所属している猪俣梢、鹿屋瑞希、蝶野菜々子の3人…通称"猪鹿蝶"だ。
梢「どーしたもこーしたも、うちのクラスの前に人だかり出来てたから何事かと思って見に来たんだよ!」
瑞希「珍しいな、きりりん。いつもは放課後すぐ下校するのに」
菜々子「もしかして、居残りですか?」
蒼雅「いや、ちょっと由美ちゃんと雑談してたらこうなって…」
由美「…ごめんねっ」
蒼雅「いや、由美ちゃんは悪くないわ。…私としたことが油断したわ」
八雲「梢っち、校舎出るまででいいから付き添って!」
梢「任せてよ、八雲っち」
扉にずんずんと向かっていく梢。私達はそれについて行く。
梢「どいたどいた!姫のお通りだぞ!」
梢の勢いに気圧されたのか、モーゼの十戒が如く生徒の波が左右に別れていく。
そして、玄関に着き、靴を履き替える。
蒼雅「…流石に玄関までは張ってないみたいね」
八雲「ありがと梢っち。こっからは大丈夫そうだよ」
梢「八雲っち、水くさいよ。…そだ!せっかくだしこのまま一緒に遊んで帰ろーよ。蒼雅と由美ちゃんも」
由美「えっ…でもっ」
八雲「由美ちゃん、堅いことは言いっ子なし!」
菜々子「これも青春ですわ。放課後制服のまま街を歩くなんて、学生の内だけですし」
瑞希「うん。心配しなくてもそう遠くまでは行かないさ」
由美「…蒼雅しゃんはっ?」
蒼雅「私は元よりなんか食べて帰る予定だったし、付いてくわよ」
由美「…私も行くっ」
さっき買い食いを諭してきていたが、あっさり懐柔される由美ちゃん。純粋無垢で可愛いけど、色々と心配な子ね。
蒼雅「...決まりね」
そんな話をしながら靴を履き替え、校舎を出て、正門へと向かった。
―――――――――――――――
梢「そういえば、由美ちゃんって蒼雅を呼ぶ時だけ"しゃん"になるよね。なんで?」
八雲「確かに。他の子はちゃんとか、さんとか呼べてるのにね」
由美「…蒼雅しゃんはっ、同い年だけどっ、色っぽくて大人びてるからっ…でもさんだとっ、よそよそしいかなってっ…」
瑞希「なるほど。間を取ったわけか」
蒼雅「…それ、私が老けてるってことかしら?」
菜々子「…大人びてるのは良い事ですわ、蒼雅さん」
梢「てか、15歳には見えないよね」
八雲「25って言われても信じるね」
蒼雅「あんですってぇ?」
梢「背の高さもあるけど、あんたよりデカい瑞希は割と年相応って感じがするし、…やっぱ顔立ちといい振る舞いがねぇ」
八雲「ま、ガキ扱いされるよりいいでしょ。世の中下級生扱いされる上級生もいるわけだし」
蒼雅「…確かに」
瑞希「それって、佐脇先輩のことかい?きりりんに会いに何かとうちのクラスにくるあの」
蒼雅「そ。ま、やってることはガキみたいだし、見た目通り…」
談笑していた私は、校門で立っている人間に目をやった。
由美「蒼雅しゃんっ、どうかしたのっ…?…っ!」
由美ちゃんは私の体の横からひょっこり顔を出し、その人物を見るやいなや私の後ろに隠れた。
そいつは、少し早足で私に近づいてきた。
蒼雅「…何か用かしら、佐脇莉子」
「…」
苛立った様子で私達を見るこの女は、佐脇 莉子という。
高等部1年の先輩で、生徒会執行部書記…。
通称『小悪鬼』。
小柄で愛嬌ある見た目に反し、性格は悪そのもの。傍若無人で自己中心的。
両親は共に政治家らしく、この学園への金銭的援助や、一流企業への就職援護、その他様々な力添えをしているという。
故にこいつは学内でも相当な力を持ち、いつもぞろぞろと側近を連れ、弱い者を権力と恐怖で押さえつけ、弄ぶ…正真正銘のクズだ。
莉子「随分失礼な話をしてるわね。先輩に対する礼儀がなってないんじゃないかしら?」
蒼雅「アンタは人間としての振る舞いがなってないわ」
莉子「あん?」
プチって音が聞こえてきそうなくらいに怒る佐脇。このまま爆発してくれ。
梢「ちょ、煽ってどーすんの!?…すいません、うちのクラスメイトが失礼なこと言って」
莉子「…ふんっ、あんたみたいな雑魚に謝られてもねぇ」
梢「あぁ!?」
瑞希「いのっち、どうどう」
瑞希は今にも殴りかかりそうな梢を羽交い締めにして抑えた。
莉子「こんな羽虫はどうでもいいの。アンタに聞きたいことがあるんだけど」
蒼雅「私はないわ。じゃあね」
無視して佐脇の横を通ろうとした。
すると
「…」
どこからともなく、生徒が10人程現れ、門前に立ち道を塞いだ。
莉子「執行部の親衛隊よ。霧雨蒼雅、貴方は知ってると思うけど、一応ご紹介」
蒼雅「邪魔。どかしなさい」
莉子「霧雨蒼雅、神代八雲」
佐脇は私を無視した。
八雲「はい?」
莉子「…今日の午前中、授業を抜け出してどこか行ってたみたいだけど、どこに行ってたの?」
八雲「…」
蒼雅「別にどこでもいいでしょ」
莉子「昼に森の方から出てくるのを見かけたって報告があったんだけど」
八雲「…見られてたのか」
佐脇はこちらの反応を無視して話し続ける。
莉子「あそこは許可の無い者は立ち入り禁止になってるんだけど」
蒼雅「そうね」
莉子「でも、アンタはそれを破って侵入した。神代八雲と一緒に」
蒼雅「…それが何か?」
莉子「…アンタ、あまりアタシを舐めてると痛い目見るよ?」
適当な返事を繰り返してると、遂に佐脇がキレた。
蒼雅「痛い目?」
莉子「…ここにいる親衛隊は武に長けた、闘いのエキスパートなの。あんたは確かに強いけど、この状況ならどうかしら?」
蒼雅「やってみなさいよ。雑魚が何人束になっても烏合の衆。寄り合いあってもクズの山ってね」
莉子「あんた1人なら分からないけれど、そこにいる奴らを守りながら、この人数を相手にできるかしら?」
蒼雅「余裕ね」
莉子「…なに?」
梢「ちょ、ちょっと蒼雅!?」
蒼雅「佐脇…あんまりウチらを舐めない方がいいわよ?痛い目見たくないならね」
莉子「…最強は伊達じゃない、か。…まぁいいわ。別に荒事を起こしに来たわけじゃないし」
蒼雅「あん?」
莉子「楽しみは明日以降に取っておくわ…そうね。霧雨蒼雅、アンタも色々と覚悟しておいた方がいいよ?先輩からの忠告」
蒼雅「何を言ってるのかしら?」
莉子「今日のことは特別に不問にしてあげる。せいぜい私を楽しませなさいな」
蒼雅「…意味がわからないのだけれど」
莉子「今日のところはこれで失礼するわ。…帰るわよ!」
佐脇は部下を連れて、生徒会本部の方へ行った。
梢「何がしたかったんだ、あの人?」
八雲「さぁ?」
蒼雅「…」
昼のことを思い出す。
明日…そういえば滅龍が編入すると言っていた。
それと何か関係があるのかしら。
菜々子「…蒼雅さん、早く行きましょう。追っ手が来ていますわ」
蒼雅「え?」
後ろを振り返ると、そこには女生徒の群れ。
瑞希「あの子達…運動部の?」
「霧雨蒼雅ぁ!今日こそは野球部に入部してもらう!」
「サッカー部なら片手間オッケー!なんなら他校の男子生徒との合コンもセッティングしたげる!」
「柔道部一択だ!お前の強さを活かすためにも!」
「空手!」
「剣道も!…御剣先生に怒られるかもだけど」
「絶対チアだよ!あの身体能力ならトップを取れるよ!」
各々勝手なことを言いながらこちらに来る。…まだいたのね。
蒼雅「ダッシュで逃げるわよ!」
由美「きゃっ!」
菜々子「あら」
私は由美ちゃんを、瑞希は菜々子を抱きかかえて、全速力で学校を後にした。
―――――――――――――――
「あん?李滅龍が時期外れに編入?」
「はい!明日かららしいッス。先公どもが話してたし、マジ情報ッス」
「…誰だっけ?」
「アイドルの李滅龍ッスよ!」
「アイドルだぁ?…そういや名前だけは聞いたことあるな、李滅龍」
「聞いたことある、じゃないッスよ!忘れたんスか?ウチらの溜まり場に乗り込んできた、べらぼうに強い女!」
「何!?あいつアイドルだったのか!」
「何で知らなかったんスか…」
「アイドルなんざ興味無いからな…ちっ、面倒なことになったなァ。こちとら霧雨への攻撃も画策してるってのによ」
「話によるとあの二人クラスも同じらしいッス。もしアイツらが手を組んだらどうするッスか?」
「おいコラァ…テメェ知ってたんなら何かしら手ぇ打てや!」
「痛いッ痛いッス!暴力反対!」
「ちっ…中等部のガキ共にデカい面させるわけには行かねぇ。…早いとこ潰しておくか。おい美衣!あいつら見張っとけ!近々仕掛けっぞ!」
「見張るって言ってもウチ2年ですし、先輩ッスよ、あの2人」
「関係ねぇよ。アタシは高等部で校舎も離れてんだ。それに、中等3年にもアタシの兵隊はいる。そいつら使えや」
「…分かりましたよ。まったく、龍さんは後輩使いが荒いんスから…」
「うっせェ!」
ガンッ!
「痛ぁっ!」
―――――――――――――――
八雲「んーっ!楽しかった!」
蒼雅「そうね。由美ちゃんの意外な一面が見れたし」
八雲「だねー。パフェを頬張る由美ちゃん、可愛かったなぁ」
放課後、ファミレスで騒いだ後、梢たちと別れて八雲と帰路についていた。
八雲「そういや佐脇のやつ、なんか意味深なこと言ってたね」
蒼雅「そうね。明日…か」
八雲「あいつはともかく、生徒会の動きは気になるかも」
蒼雅「…そういえば、佐脇ばかり悪目立ちするから生徒会の他のメンバーをよく知らないのだけど」
八雲「あんた生徒総会とか朝礼出ないもんね。それじゃ後でメッセにメンバーのプロフィールまとめて送ってあげるよ」
蒼雅「そこまで興味はないけど…まぁお願いするわ」
八雲「了解。…っと、私はこっちだから。また明日ね」
蒼雅「ん。また明日」
私は八雲と別れて、家路についた。
―――――――――――――――
春原市。国内でも三本の指に入る大きさを持つ都市。私達が住む町。
春原市は7つのエリアに別れている。
山の手には高級住宅街エリア。著名人や富豪の邸宅に、豪華絢爛な式場等の施設、そして私が通うレム女を含む3つの学校。
その右隣には一般の住宅街エリア。私が住んでる家もそこにある。
高級住宅街エリアの左隣には学園都市エリアがあり、公立私立の様々な学校が並ぶ、少し変わったエリア。市内の学校は先の3校以外全てそこにある。その理由は…
住宅街エリアの下はオフィスエリア。
オフィスビルや、空港、工場、造船所、基地などが密接している。
その左隣には、港湾エリア。
遊園地や水族館、大型ショッピングモールに球場やサッカースタジアム、その他レジャー施設様々な、遊ぶに事足りるエリア。
春原市で一番大きいエリアだ。
それら5つのエリアは歪ながら五角形に近い形であるため覚えやすい。
そして、その五角形の中心が中央エリア。
一言で表すなら都会。友達と遊ぶならここだけで事足りる。電車の駅はここを中心に張り巡らされてる上に、新幹線も通ってるため、ここからなら春原市内外行きたいところどこにでも行ける。
主な施設としては、行政施設や裁判所、県警本部等。そして何より国内最大の駅、堀久保駅がある。
そして七つ目は…