表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼零戦姫  作者: ジョンソン(P)
第一章
1/9

ソウレイセンキ

霧雨(キリサメ) 蒼雅(ソウガ)

7月5日生まれ

年齢 15歳

身長・スリーサイズ 175cm B88 W56 H87

髪色・髪型 亜麻色 ロングヘア

目の色 サファイアブルー

趣味 TV鑑賞 読書 運動全般

好きな食べ物 味が濃い物

嫌いな食べ物 なし



御剣(ミツルギ) 閃梨(センリ)

1月20日生まれ

年齢:23歳

身長・スリーサイズ 187cm B92 W60 H90

髪色・髪型 黒色 ハーフアップ

目の色 クリムゾンレッド

趣味 映画鑑賞 ゲーム 刀の手入れ

好きな食べ物 魚料理 ファストフード

嫌いな食べ物 パクチー

戦乙女。


それは、神話に登場する戦場で生と死を定める者。

戦場で散った戦士の魂を、戦神オーディンが治める死者の園、『ヴァルハラ』へと導く存在。


そして、時に自らも武器を取り戦う、美と強さを兼ね備えた麗しの女戦士でもあった。


全ての神々が雌雄を決した、聖戦『ラグナロク』での武勇は、何千年にも渡り伝承され、今もなお、あらゆる形を成しその伝説は語り継がれている…。


だが、彼女らが本当に存在していたかどうかは定かではない。

あくまでこれは神話。伝記よりも信憑性のない、おとぎ話…。


…しかし。


この現代に、戦乙女と呼ぶに相応しい少女達は存在する。


己が身一つで戦い、仲間を作り、友情を育み、時には争い、時には共に涙を流し、時には手を取りあって強大な敵に立ち向かう少女達がいる。



この物語は、そんな、強く凛々しくちょっと変わった少女達による、激しくも甘く、優しくて切ない、現世に刻まれし伝説である…。



―――――――――――――――――





「地下に謎の水道?」


「そう!いかにもダンジョンって感じしない?」


「何年も使われてないただの下水道でしょう」


「分かってないなー!そういう場所にロマンを感じるんでしょーが!」


「感じないわよ。…どうしたの?頭わいてんの?」


「ひどっ!言い過ぎでしょっ!」



11月の下旬。

窓が霜で真っ白になり、そこから覗く空はパラパラと舞う雪と反して黒く、太陽を覆い隠す。


そんな暗い空とは裏腹に街はすっかりクリスマスムード。

秋の侘び寂び何処へやら、この季節になると皆浮き足立つ。


朝、HRの前。教室では黄色い声が飛び交っている。

クリスマスはどう過ごすのか、誰と過ごすのか…中にはもう正月の予定まで話す子もいる。


そんな喧騒の中、私は友人と雑談していた。

くだらない話を聞きながら、グラウンドを眺める。


他愛のない毎日を繰り返す。ただそれだけのことが幸せ。私はこの日常を大切にしたい…なんてことを考える。


人によっては刺激もない波も立たない退屈な人生と思うかもしれない。だけど、それがこの上なく幸せなんだ。


だからこんな友人のくだらない話に耳を傾けてしまうのだろう。


だけど…


そのくだらない話が発端で、私の学園生活が一変してしまうことを、この時の私は知らなかった…





…なんてね。

こんなくだらない冗談を頭の中で反芻するくらい、ゆったりと時間が流れているのだ。




―――――――――――――――




レム・トー・ディナ女学園、通称『レム女』。


幼年部から大学院まで一貫のエスカレーター式の私立女子校である。


広大な敷地の中に豪華絢爛な建物が立ち並び、緑豊かな自然が広がっている浮世離れした様相を持つ、特権階級や名家のお嬢様など、家柄が特殊な人間ばかりが通う名門女子校。

と言っても、一般生徒も中には数人居るが。


北欧神話において有名な大戦『聖戦ラグナロク』…その数ある文献の1つ『エルメ記』にて語られた、かの戦で功を残したとされる戦乙女の一人"レム・トー・ディナ"の名を掲げた学校だ。


私…霧雨(キリサメ) 蒼雅(ソウガ)は中等部に通う3年。


趣味も特技も語るほどのことは無いごく普通の学生…とは言い難いけど、貴族でもなければ財閥令嬢でもない一般生徒。


うちの家は…少し変わっているけど、だからと言って生活面において特別なことはない。特権階級でもないので学園も一般枠で入学している。だから私は誰がなんと言おうと一般生徒だ。



そんな私だが、二学期も終わりが近く、中等部も残すは三学期のみとなる。学生としては区切りのひとつといえる大事な時期だ。


とはいえ、何かが変わるわけではない。いつもと変わらず、くだらない話で盛り上がり、退屈な授業を聞き流して、放課後は友人達と街に繰り出す。


良くいえば平穏、悪くいえば刺激のない生活。こんな日がずっと続けばいいのに…


なんてことを、朝の日差しが差し込むグラウンドを眺めながら考えていた。



「この前話したさ、"学園暗部"のこと覚えてる?おそらく奴らと繋がってるはず…!」


アホな男子みたいな事を言っている親友の話を半分聞き流しながら…。




蒼雅「ほんと、相変わらず好きね。そういう話が」


「ワクワクするでしょー?噂話に陰謀論、七不思議から伝承まで、なんでもござれよ!」


調子に乗ってる親友に、思わず笑ってしまう。


彼女が言ってる学園暗部とは。


広大な敷地を持つこの学園を裏から牛耳っている謎の組織…という噂。

表向きは超がつくほどのエリート女子校。

誰もが羨むお嬢様学校。


だが裏では汚れた面だってある。

家柄差別や教師買収などなど…でもそれは金持ちが多い学校じゃ珍しい話ではない。


だが、聞けば学園暗部はそんな生温い集団ではないという。

国家転覆から世界征服、あらゆる陰謀が囁かれ、その片鱗を時たま覗かせることも。関係のない一庶民の生活にも、その魔の手が伸びているとか…。


という話が、ここ最近の親友のトレンド。


アホらし…ま、クズが横行してるっていうのは同意するけど、国家云々は流石にアホくさいわね。


この手の与太話は今に始まったことではない。話半分に聞いてあげよう。


まともに相手してたら疲れるし…。



―――――――――――――――


「どうよ、蒼雅。これから一緒に行ってみない?例の地下水道にさ」


蒼雅「やだ」


「なんでぇ!?」


蒼雅「私達、何のために登校してると思う?授業を受けるためよ。探検しに来たわけじゃないわ」


「なーに真面目ぶってんの、不良生徒が。どうせ授業なんてまともに受ける気ないでしょー?」


蒼雅「よく分かってるじゃない八雲。死ね」


「ひどっ!?」


このやかましい女は神代(カミシロ) 八雲(ヤクモ)

私の幼なじみで親友。


実家は由緒ある名家。かつて神の国とも言われた出雲で、寺社衆の一つとして数えられていた出雲守神代家(いずものかみ かみしろけ)本家の娘。


…と言っても、神道が廃れた現代では家名だけが継がれ、様相は大きく変わっているらしい。


ちなみに、社の守り手の裏で忍としても活動していたとされる神代家。その一子相伝の忍術は現代にも受け継がれており、八雲は忍術を扱える現代においては数少ない人物である。


だからなのかは分からないけど、噂話が好きで、余計なことに首を突っ込むことが大好き・・・恵まれた身体能力とお得意の忍術を駆使して、あらゆる噂話を集めるのが趣味。


忍ぶ気は皆無。ようはただのアホね。


八雲「ねぇ〜、どうせバックレるなら一緒に行こ〜よ〜」


蒼雅「嫌よ、面倒臭い」


八雲「どうせここに居たって、なんの刺激もないよ。たまには刺激を求めて探検しよーよ。童心にかえってみてさ」


蒼雅「童心…」

八雲の言葉につい反応してしまう。


授業が退屈なのは同意する。刺激に飢えてるのも多少はね。

だからといって、探検しよう、という思考にはならないけど…


八雲「ねーねー」


蒼雅「貴方はいいの?授業抜け出して。一応優等生でしょ?」


八雲「一応はいらない。大丈夫、普段真面目な分、たまにサボっても怒られやしないから」


八雲は楽しそうに笑いながら言う。

…ま、別にいいか。今日は1限目から体育だし。


蒼雅「・・・仕方ないわねぇ。付き合ってあげるわ」


八雲「流石だぜ親友!」


蒼雅「やかましい。で、どこなのよその地下水道とやらは?」


八雲「"迷いの森"の下」


蒼雅「あぁ…あそこか」


迷いの森・・・それは、学園の敷地にある森林。

元々は、森林浴や林間でのオリエンテーションが目的で存在していたらしいが、なんでも、過去に入った生徒がそのまま帰ってこなくなったとかで、今は教頭の許可が無いと立ち入れないようになっているらしい。


以来、迷いの森と呼ばれるようになったとか。


八雲「最近、森の入口付近を監視してたんだけど、数人出入りする人間がいてね。よくよく見たらそいつら、『執行部』の連中だったの」



蒼雅「『執行部』・・・生徒会の上位組織ね」


執行部とは、生徒会執行部・・・つまり、会長と副会長、その下に書記、会計、会計監査、庶務の役職が存在する生徒会上位組織。


下位には総務部、広報部、部活動統括部が存在する。

下位組織は生徒の代表。主な役割は生徒会会報等、会議の場にて、募った意見をまとめて、提案、掲示する役職。


対して上位組織である執行部は、この学園の核であり、学園運営のあらゆる権利を握っている存在。


なんでも執行部員は、一介の教師より地位が高く、理事会より役員個人へ様々な権限を譲渡されているとか…。

ゆえに、学園暗部との関わりも囁かれている。


実質的な支配者・・・ただ、良い組織とは言えないだろう。

連中のせいで苦しんでいる生徒がいることを、私は知っているから・・・



蒼雅「執行部の・・・誰?」


八雲「佐脇(サワキ) 莉子(リコ)とその取り巻き・・・蒼雅も知ってる執行部書記だよ」


蒼雅「アイツか・・・」


佐脇・・・いつも下僕を連れて歩いてる高等部1年のチビね。

性悪でタチも悪く、目をつけた生徒は徹底的に潰しにかかる悪女。


ヤツに目をつけられて、追い込まれてる生徒を何度か見かけたことがある。


八雲「入ったら最後、抜け出すことが出来ないと言われた迷いの森に、何度も出入りする佐脇・・・一体どう言うトリックだと思う?」


蒼雅「いや、過去に迷った生徒がいるってだけで、抜け出せないことは無いと思うけど」


八雲「そこは流してよ。で、どう思う?」


蒼雅「・・・つまり、外と森の奥を繋ぐ地下道がある、って言いたいわけね?」


八雲「YES!」


八雲「地下道の入り口は2箇所あるみたいでね。佐脇が使っている所と、もう1つ」


蒼雅「それは?」


八雲「旧校舎の地下」


蒼雅「旧校舎!?」


八雲「そ。蒼雅がサボりで入り浸ってるあの校舎。そこの地下にも入り口がある」


蒼雅「初耳なんだけど…」

旧校舎とは、何十年も前に使用されていた森の前にある建物。


森が近いせいで雨の日はジメジメするわ、夏場は虫が多いわで生徒から苦情が殺到して使用されなくなったとか。

今は完全に物置と化していて、文化祭の道具やら過去の学園の資料なんかが保管されている。


八雲「ま、実際入ってないから、同じ所に繋がってるか分からないんだけど」


蒼雅「確定情報じゃないのね。憶測で突っ込むつもり?」


八雲「これから調べるんですー!」


蒼雅「さいですか」


八雲「あぁでも、下水の入口になってるのは確かだから。用務員さんから話聞いたし。まぁ人が出入りしてるとこは見たことないらしいけど」


蒼雅「大丈夫なの?それ…まぁ、そう言われると何があるのか気になってくるわね…」


実際、自分が憩いの場として利用してる場所の地下に、そんなダンジョンめいたものがあると思うと色々気になってしまうところ。


八雲「ふーん…ニヤニヤ」


蒼雅「・・・何よ?」


八雲「興味あるんだ?」


蒼雅「そんなんじゃないわ。・・・旧校舎の地下にそんなものがあるなんて気味悪いから、調べるだけよ」


八雲「はいはい。素直じゃないんだから…」


蒼雅「うるさい。…ったく、行くんならさっさと抜け出すわよ」


八雲「あぁん、待って〜♪」


蒼雅「気持ち悪い声を出すな」




「蒼雅さんと…八雲さん?もうHR始まりますのに、どこへ行くのかしら…?」



―――――――――――――――



旧校舎



八雲「ここが地下への入り口だよ!」

HRを抜け出し、旧校舎の一階へとやって来る。


蒼雅「階段の裏にこんなのがあったなんて」


八雲「ま、よくある階段下の用具入れにも見えるしね。意識してないと気づかないなこれは」


蒼雅「そうね…」


八雲の話を聞きながら、ドアを開く。すると、薄暗い階段が現れた。


八雲「下りようか」


蒼雅「ええ」

八雲と共に階段を降りる。

降りるにつれて暗くなっていく。スマホのライトで照らしながら更に降りていく。


そして、降りた先にまたしてもドアが。


八雲「ここが水道の入り口か」


蒼雅「埃っぽいわね…」


八雲「中入ろ!もうワクワクが止まらない!」


蒼雅「あんたのそういう無邪気なとこ、好きよ」


八雲「ありがと」




―――――――――――――――



蒼雅「ここが…」

スマホのライトを当てて、周囲を見渡す。

周りは、用途はわからないが様々な機械が張り巡らされていた。

足元は格子になっており、下に水が流れている。

思ったより手入れが行き届いている。


蒼雅「まるで最近まで使用されていたみたいね」

使用されていない古びた下水道と聞いていたから、もっと汚れているのかと思ったけど…。

それに、これは地下水道というより、工業施設を運用するためのジオフロントね。


八雲「ところどころガタはきてるけど、結構綺麗だね」


蒼雅「業者でも入れてるのかしら」


八雲「使われてないって話だったけど…電源線や配管、通風機も綺麗に残ってるね」


蒼雅「とりあえず、進んでみましょう」


八雲「了解」


足を少し早めつつ進んでいく。


―――――――――――――――


学園第1グラウンド


「1限目から体育かぁ…ダルいなー」


「梢さん、朝から辛気臭いですわ」


「だってー、御剣先生、冬場だってのに容赦ないんだもん…うぅ寒い」


「いのっち、寒いならあたしが暖めてあげよう」


「あんがと〜!瑞希〜!」


「瑞希さん、ずるいですわ」


「仕方ないな…ちょなこもおいで」


「菜々子〜、あんたも寒かったんだね〜。3人で暖め合おっか!」


「それにしても遅いね、先生。いつもは授業が始まる5分前から待っているのに」


「確かに。会議とかで遅れてんじゃなーい?」


「クラスの皆さんも、寒いから各々運動を始めていますわね」


「勝手にボール使って…怒られても知らないよ〜」


「おーい、三馬鹿!ちょっといいか!」


「誰が三馬鹿だい!…って、御剣先生!」


「あら、何かありましたか?」


「すまない。ちょっと聞きたいことがあってな…」




授業が始まる前、私…御剣(ミツルギ) 閃梨(センリ)は、これから授業を担当するクラスの生徒から一報をもらった。


閃梨「お前ら、霧雨と神代を知らないか?」


「蒼雅と八雲っち?そーいやいないね」

そう答えたのは猪俣(イノマタ) (コズエ)。テンションが高く、ノリが軽い少女。


「HRの時点では、教室に居た気がしますわ」

そう静かに話すのは、蝶野 菜々子(チョウノ ナナコ)

和の雰囲気を感じる、物静かな少女。


「でも、珍しいことではありませんよね?きりりんがバックレるのは」

霧雨を妙なあだ名で呼ぶのは、鹿屋(カノヤ) 瑞希(ミズキ)。かなりの長身で、男勝りな少女。…背の高さは私が言えた義理ではないが。


閃梨「霧雨はいつものことだが、優等生の神代までいなくなったからな」


梢「優等生…ねぇ。それはどーだろ」


瑞希「やくもんは授業真面目に受けてる方だと思うよ」


菜々子「そうですわね。成績も良いみたいですし」


閃梨「ま、成績だけで勤勉さや真面目さは測れんか。霧雨みたいなのもいるしな」


梢「それもそうだ」


菜々子「期末試験、またトップでしたわね、蒼雅さん」


瑞希「ああ。これで入学から全ての試験で1位…B組のるーにゃんと毎回ワン・ツーフィニッシュだ」


るーにゃん…おそらくB組委員長の、藤堂(トウドウ) 琉菜(ルナ)のことだろう。

品行方正で誰からも愛される委員長…成績も相当良いみたいだ。


閃梨「とりあえず、私は彼女たちを探す。君たちは自習だ。各々好きな運動をしてくれ」


梢「やったー!」


閃梨「…サボるなよ?」


梢「や、やだなー、サボりませんよ。あは、あはは」


閃梨「蝶野、委員長の相良に伝えておいてくれ」


菜々子「分かりました」


閃梨「それじゃ!」



閃梨「さて…どこに行った、霧雨」

霧雨蒼雅…レム女数少ない不良生徒。

問題を起こすことすらないものの、気分で授業に出席したり抜け出したりと、授業態度の悪さで目立つ生徒。


欠席や成績不良が重なると単位不足で高等部進学不可になるが、いかんせん奴は試験の点数がかなり良い。入学から常に1位を取り続けている。

授業も、単位ギリギリを計算して出るため、予備授業や補習を逃れている。


そして、今回もいつも通り授業を抜け出した。他の教師方はいつものことなので、特に気に留めていない。だから何も言わないが、私は別だ。


サボる度に何度も探しては指導している。このままではあいつは将来ろくな大人にならない。

教師として、大人として、私が正してやるべきだ。


…さて、捜索を始めよう。





―――――――――――――――



蒼雅「ねぇ八雲…」


八雲「なにー?」


蒼雅「いつになったら出られるのかしら?」


八雲「さぁ?」


蒼雅「ですよね」


ジオフロントを歩いてかれこれ1時間、未だ目的地には着いていなかった。

ていうか、目的地ってどこだっけ?


蒼雅「いい加減外に出たいんだけど」


八雲「大丈夫大丈夫、流石にもう着くでしょ」


蒼雅「3回目よ、それ」


八雲「大丈夫、大丈夫だから…あっ!」


八雲が何かに気づいた様子で走っていく。


八雲「扉だ!」


蒼雅「…ほんとね」


八雲が見つけたのは、入口とは様式が違う扉だった。

入口は普通の鉄扉に対して、こちらは電子扉で、あちらこちらに配線が通っている。


八雲「電子ロック…は掛かってない。開いてるよこれ」


蒼雅「…杜撰ね。ま、入れるならなんでもいいわ」


私は扉を凝視して考え事をする八雲を後目に扉を開けて入る。


八雲「ちょっ!待ってよ!」



―――――――――――――――


扉を開けた先には二股に別れた道があった。


八雲「ここで二択!?マジか…」


蒼雅「どうすんの?」


八雲「二手に分かれる?危険そうなら引き返せばいいし」


蒼雅「そうね。じゃ、私は右に行くから」


八雲「りょーかい。何かあったら連絡して」


蒼雅「ええ」


私達は二手に分かれて先に進むことにした。






―――――――――――――――



閃梨「校舎内は一通り探したが…どこにも見当たらんとはな」


霧雨と神代を探して1時間以上経っただろうか、校舎内は隅々探したつもりだが、見つけることは出来なかった。


閃梨「もしかして帰ったか?」


ありえる。アイツらは仲がいいらしいからな。もしかすると、近くの喫茶店でお茶してるかもしれない。



閃梨「馬鹿か私は」


霧雨だけならまだしも、神代を仲が良いからって理由だけで疑うなんてな。


閃梨「しかし解せないな。なんでHRからサボるのに、わざわざ登校してくるんだ?」


HRにだけ顔出して、授業をサボるというのはまだ分かる。担任に出席していることを示せるからだ。


だが、登校してHRに出ないというのは変だ。出席簿に欠を付けることになるだけだ。来るだけ無駄足だろう。


閃梨「…どういうつもりだ?」


「そりゃ、明るい内から行きたい場所があったからじゃない?」


閃梨「え?」


後ろから声がかかり、振り返る。


「やっほ、セン。授業そっちのけで悩んでるみたいだねー」

その女性は小柄な体を弾ませて、笑いかけてくる。

片目を覆い隠す金色の髪…もう片側の紅紫の瞳が私を捉える。


閃梨「すいません…生徒を探していたんです」


彼女は月詠(ツクヨミ) 罪華(サイカ)さん。この学園の数学教師で、私の学生時代の頃からの先輩だ。


罪華「ソウちゃんと神代さんでしょ?聞いた聞いた。職員室でも話題になってるよ」


ソウちゃんとは霧雨のことだ。彼女は霧雨の姉と仲が良かったので、その付き合いで妹とも知り合いだったみたいだ。


閃梨「色々とすいません」


罪華「いいよいいよ。そんなことより授業はちゃんとやりなー?ソウちゃんたちを探すのは生徒指導部に任せりゃいいんだし」


閃梨「ですが…」


罪華「生徒思いなのは分かるけど、仕事である以上、君も評価される人間なんだよ」


罪華「授業そっちのけで別のことやってるなんて、言語道断。ここは私立だし、そこんとこドライにやらなきゃ…ただでさえセンは一部の教師たちから疎まれてるんだから」


閃梨「…すいません」


罪華「…ていうのは建前。ソウちゃんのこと気にかけてくれてありがとねー」


閃梨「別に気にかけてるわけでは…」


罪華「まーまー。やんちゃな子は可愛いもんねー。あー、1月の調書に、高等部1年の担任に希望って書こうかなー」


閃梨「やめておいた方がいいですよ。私は担任ではないですが、アイツを相手にすると本当に疲れるんで」


罪華「いやアタシは仲良いし」


閃梨「…そうですね」

アイツは恐らく私が嫌いだろうから、振り回してくるのだろう。


罪華「…一つアドバイス」


罪華「ソウちゃんはセンのこと、嫌ってない…むしろ好意的だと思う」


閃梨「え?」

罪華さんがこちらを見据えて、驚くことを口にする。


罪華「ただ、お互いに歩み寄りが少なくてすれ違ってるだけ。センは教師として良い振る舞い方をしてるけど、女性としてはあまり良いとは言えないから」


閃梨「…それ、彼女を指導することに関係ありますか?」


罪華「あるよ。同性同士なんだし、たまには腹割って話してみな。ほら、男子が男性教師とエロ話する感じでいいからさー」


閃梨「…幼小中高大と一貫してレム女なのでその例えは分かりません」


罪華「アタシだってレム女一貫だってば」


そういえばそうだ。


罪華「そういうことだから、引き続き捜索頑張ってねー」


そう言うと、手を振って廊下を駆けていく。


「月詠先生!廊下を走らないでください!」


罪華「すいませぇん!」


閃梨「何やってんだか」





閃梨「しかし…歩み寄り、か」

一応、教師として歩み寄っているつもりなんだがな…


閃梨「…いや、今はそんなことより、探そう」



―――――――――――――――



蒼雅「…いつまで続くのかしら、この道」


八雲と別れ、しばらく歩いたが、果ては未だ見えない。


蒼雅「てかここまでする義理ないわよね…引き返して適当に報告しようかしら」


ノリで付き添ってきたけど、なんだか面倒臭くなってきた。


…第一、執行部の連中が使ってる場所と繋がってる保証はないわけで。

これ以上の探索は無意味一


ドクンッ!!!


蒼雅「...っ!?なに!?」


不意に、心臓が跳ね上がった。


同時に…変な感覚が体を覆った。


蒼雅(この先に...なにかある?)


止めた足を再び動かす。


進めば進むほど、鼓動が早くなる。


蒼雅(近い...)


歩き続けた。ひたすら真っ直ぐ。


そして辿り着く。


蒼雅「こ...れは...?」


目の前には、このジオフロントに似つかわしくない意匠の扉があった。


石でできたと思しき扉には、幾重もの光の線が刻まれ、紋様のようになっている。


...不思議と、この紋様に見覚えがある。


"これ"について思考すると、途端、意識にグラつきが出る。



蒼雅(さいご...ひかり...ぼしょ...ちがう。これは…べる...くさび...)


蒼雅「!?ま...て、待て!」


意識を取り戻す。


一瞬、何かに意識を引っ張られた。


蒼雅「なんなのよ...」


意識を強く保つため、衝動的に頬を叩く。


扉は変わらず煌々と光る。


蒼雅(気味悪いわ...さっさと開けてしまいましょう)


開けるために手を伸ばそうとする


すると




無駄よ。まだ開かないわ。


蒼雅「え...?」


伸ばした手が止まる。


これ以上、手が進まない。


意識した訳では無い。本能が働いた訳でもない。


まるで、夢の中で物を掴もうとするような、虚無感。

手を伸ばしていても、寝ている自分が動いていないように、体と意識が分離されたような感覚に陥る。



言ったでしょ。今は無理よ。


頭にノイズが入る。


蒼雅(ふざけるなよ、私の体。動けったら!)


気力で振り絞り、手を伸ばす。



凄いわね。やはり貴方は私の...



再びノイズ。



貴方は強い。でも、まだ足りない。だから...



突如、扉が強く光り出した


蒼雅(!?)


あまりの眩しさに目を伏せる。




...まだ足りない


答えはすぐ側にまで...



巡り合う因果。そして、扉の先の真実。



これは、世界の理





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ