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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お化けの存在証明

作者: フィボナッチ恐怖症

ヒヤッとしたい方、どうぞ最後までお読みください。

 非科学の象徴といえば、お化けやらの類だろう。それらは全部何かしらの科学で説明できるものに過ぎない。


 人魂というのは、光の残像のことだろうし、後ろをついてくる足音なんてのは音が反響しているだけだ。


 蒸し暑くなってきた夏の日本、そこら辺の人々は怪談だかで涼んでいる。確かに、それで体感温度が下がるというのだから、便利なのかもしれない。ただ、本当にあった、という肩書きがつく怪談だけは許していない。



 僕は一学期が終わった日の放課後、1人教室に残り自習をしていた。こうすれば家の電気代が節約できるのだ。


 外が暗くなってきた頃、先生が自習してるところに入ってきた。


「そろそろ帰らないと、お化けが出るぞ」


「むしろ、お化けに出てきて欲しいくらいですよ」


 僕は軽く受け流す。


「21時には校門が閉まるから、帰っておけよ。閉じ込めらるるぞ」


 時々、古文知識を混ぜてくる先生の言葉にはーいとだけ言って、再び勉強を始める。


 次に時計を見た時には21時を過ぎていた。今日は相対性理論が楽しすぎて時間を忘れていたらしい。


 荷物をまとめて、校舎から出ようとするが、本当に鍵がかかっていて、出られない。正確には、出ようとすると警備アラートが鳴るから、出られない。


 さて、どうしようか。別に1日くらい学校に閉じ込められるくらい、親は出張しているため家に帰れないことは問題ないのだが、食べ物がない。そうだ、理科室を漁れば砂糖とか塩とかはあるな......


 廊下を歩くが、後ろをついてくる足音なんてない。


 理科室に着いたが、鍵がかかっている。しかし、鍵穴式ではなく、スライド式ドアなので外せば入れる。


 さて、ガスバーナーを出して、砂糖をアルミホイルに乗せて、水を少量入れる。

後は加熱して、炭酸水素ナトリウムを入れたらカルメ焼の出来上がり、というところで気づくと理科室の隅の方、骸骨の模型の辺りから人が出てきた。


 そいつには見覚えがある。


「おい、お前、王水を授業中に作って、こぼして死んだ綿尻(わたしり) (けい)の双子の弟か?」


 京の弟らしきのは明らかに落胆した様子でこちらを見つめる。一瞬、目線がそれて再び目が合う。


「俺に双子の弟なんていないさ。聞いて驚け! 俺は幽霊になってここ、理科室に帰ってきた」


 なんだ、こいつ。京は理系が好きすぎて、理系の王を名乗っていたが、その弟は自称オカルトの王なのだろうか。


「幽霊なんて非科学的なもの、信じるはずがないことくらい京から聞いてるだろ?」


「だから、京だって言ってんだろ! 信じられないけど、俺は幽霊なんだ!」


「じゃあ、何か幽霊たるものを見せてくれたら認めてやる」


 どうせ無理だろうけど。


「分かった、分かったから俺を頭の狂った奴みたいに見るのを辞めろ!」


 僕は何かしらの手品的なものであればど突いてやろうと思いつつ、じっと京と名乗るやつ、一旦京と読んでおくが、京を見つめる。


「行くぞ!」


 京は壁の方に歩いていく。すると、そのまま壁の中に消えていった。そして、すぐに壁から再び現れる。


「どうだ!」


 京は得意顔でこちらを見てくる。


 僕は、壁の方に向かう。


「おい、なんで壁の方に行くんだよ」


「何かしらのトリックがあるはずだから、調べようかと」


 京は安心したような顔をしている。

壁を触ってみるが何の形跡もない。


「トンネル効果が偶々起きたってことか。それなら、納得いく」


「まったく......そんなんで良いのか」


 確かに、トンネル効果は地球が生まれるよりも確率が低い。でも、幽霊よりは信じられる。


「じゃあ、呪いかけてよ」


 圧倒的非科学の象徴、呪いを見せてくれたら、少しは信じられるかもしれない。


「呪いか、かけれないことはないが、とりあえずそこに置いてあるサボテンで良いか?」


 京が窓際に置いてある赤サボテンという愛称でみんなに親しまれてるサボテンを指さす。


「ほらよ」


 もともと小さい赤サボテンがグングンとシワシワになりながら縮んでいき、枯れてしまった。


 サボテンを枯らすのは相当大変なはずだ。砂漠でさえ生き延びているのだから。


「何の化学だ? それは」


 聞きつつ、僕は一つの答えに至った。濃硫酸だ。全ての水を奪い去る、圧倒的な脱水剤。それを上手いこと壁に向かっている間に用意したに違いない。


「試しに、そこにある砂糖にもかけてくれよ」


 京が言おうとする前にそれを制止して、僕は言う。


「いや、生き物以外にかけるのは無理なんだ」


 炭化したのを見られたらばれてしまうからに決まってる。


「ほら、やっぱりただの化学なんだな」


「仕方ない、これだけはしたくなかったんだが、君を殺してやろう。この呪いで」


「ほう、殺せるなら殺してみな」


「そこまでいうなら、遠慮はいらないな?」


 一応の念押しだろうが、さっさとして欲しい。


「早くしてくれ」


 僕が催促すると、京は目をつぶって、両手を僕の胸の前に合わせる。


 10秒ほどして、京は両手を離す。


 ......


 何も起きない。僕自身は至って元気で、全く死んだような気もしない。


「やっぱり、科学的に不可能なことはできないみたいだな。もう全くの興味を失ったよ。消えてくれ。噓つきの京の弟さん」


 弟の部分を強調して、言い放つ。お化けを名乗るやつを論破してやった。気分は爽快だ。

そして、僕は再びカルメ焼きを作りに、机に向かう。


 次に振り返ったときには、京の弟はいなかった。







 彼は知らない。彼がとっくの昔に死んでいることを。俺、京が死んで幽霊になったときに殺したのだ。

彼はずっとお化けの存在を嫌い、お化けを科学的根拠なく信じる人を気づかずに殺している。彼の体はずっときれいなままだが。


 彼を殺してから二年後、窓は血塗られ、校舎内には理科室のものとは見違えるほどリアルな骸骨がゴロゴロと転がっていた。そこで彼は一人、お化けの正解を探していた。




 彼を見に行ってから、さらに二年。彼は校舎にはいなかった。

聞いた話によると、彼は正解を探しに街に出たらしい。


 もし、誰かにお化けは存在するか、と聞かれたときは、いない、と断言したほうがいい。

まだ死にたくないのならば。

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― 新着の感想 ―
[良い点] しっかり設定が練られているのわかった。作者は理系だな?!と感じました() [気になる点] 少しだけわかりにくい描写があって読み返す部分はありましたが、2500字でまとめられているのでそこま…
2021/08/02 23:43 退会済み
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