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テロリストに学校を占拠されたので、俺は混乱に乗じて早弁をした

作者: みくた
掲載日:2021/06/23

 時刻は十一時をちょっと過ぎた頃。四限目の数学はまだ始まったばかりだ。

 しかし、この時点で俺の胃袋は限界を迎えていた。

 腹の虫が二度目の絶叫を始める。

 腹減った・・・

 昨晩、夜ふかしをしてしまったが為に寝坊をし、朝食を食べ損ねてしまったのが原因だ。

 まあ、自業自得な訳だがどうするか・・・早弁をしようにもこの教室の静けさを考えるとバレるのは確実だ。

 無難な方法としては体調不良を訴え、机の中の菓子パンをシレッとポケットに忍ばせて教室を離脱するということも出来るが・・・まあ、普通に我慢するか。

 俺が行動決定を密かに終えると同時に、バンダナを口元に巻いた男が教室に押し入り、携えていた自動小銃を上に向けて発砲した。

 突然の出来事に騒然となる教室。

 教室後部からさらに銃を持った覆面の男が入って来る。

 バンダナが数学教師を壁に押しやると、拳銃を持ったリーダー格の男が代わりに教壇に立つ。

「この学校は我々が占拠した。指示に従わない者は容赦なく射殺する。」

 こいつらテロリストだ。

 男子学生の暇潰しの妄想が現実のものとなってしまった。

 先程から続いていた沈黙はなんの前触れもなく破られ、大パニックに陥るクラスメイト達。

 しかし、こんな状況でも空腹な俺は考えた。

 俺の席は教室の中程、クラスメイト達は大混乱に陥っている。

 つまり俺がここで物を食べても誰も気に留めない!

 そう思い至ったが早く俺は机の中にしまってある菓子パンを引っ張り出し、極力目立たず、味わいつつも速度を重視して喰らいついた。

 そして、瞬く間にパンを口に詰め込むと、さらに机からいちご牛乳の小パックを取り出し口内の残パンを一気に胃へ流し込む。

 最後の一口のいちご牛乳を口に含むと同時に鳴り響く銃声。

 一瞬にして静まり返る教室。

 鼻と口から逆噴射されるいちご牛乳。

「・・・って、お前何してんの!?」

 いつの間にか教室の前に移動していた覆面が驚きの声を上げた。

 彼が抱える自動小銃からは硝煙が立ち上っている。

「おわっ!」

 覆面の指摘とともに教室内の視線が全てこちらに向けられ、俺は慌てて制服の袖で悲惨な状態の顔を拭った。

「とりあえず、前出ろ。」

 リーダー格の男が顎で促す。

「いやぁ・・・」

 俺は苦笑いで首を捻り、相手を刺激しないようやんわり拒否をする。

「こっちに来い。」

 リーダー格が拳銃を向け再度命令する。

「はい。」

 即答し立ち上がると両手を上げて速やかにリーダー格のもとに歩み寄った。

 ああ、詰んだ・・・

「跪け。」

「はい。」

 額に銃口を向けられたまま俺は片膝を着くと、両手でリーダー格の空いている左手を取りキスをしようとするも振払われてしまう。

「違う。そうじゃない。両膝を着け!」

 指示通りに両膝を着く。

「それで?何をしていた?」

「早弁をしてました。」

「・・・このタイミングで?」

 リーダー格が怪訝な顔をする。

「そういうレベルで腹が減っていました。」

「えー・・・まあ、うん。・・・そうか。」

 リーダー格は明らかにドン引きしている。その向こうにいる覆面も同じ様子で、さらに奥で数学教師に銃を突きつけているバンダナは、笑いを堪えるのに必死なのか肩が小刻みに震えている。


 誰が通報したのか警官隊が学校を包囲し、何の進展も無いまま約六時間が過ぎ、空は闇に染まろうとしているが警察の用意した巨大な照明によって外は一定の明るさに保たれている。

 早弁によって教卓横に強制席替えをされ公開処刑状態の俺は再びピンチを迎えていた。

「・・・腹減った。」

 胃袋の中のテロリストが声明を出す。

「お前、またかよ。少しは緊張感持てよ!」

 覆面が咎める。

「いや、この緊張状態で六時間ですよ?俺としては結構頑張った方だと思いますよ。」

 最早、緊張感の欠片も感じない。

「解放する気がないなら飯くらい出せよ!」

「お腹空いたー!」

 俺の抗議に端を発したクラスメイトが口々にがなり始める。

「おめーらふざけんな!俺ら昼飯すら食ってねぇんだぞ!」

 リーダー格が怒鳴る。

「だったらこんな事やめて自首しろ!」

「自ー首!自ー首!」

 クラスにコールが響く。

「うるせぇーーー!!」

 リーダー格が拳銃を天井に数発発砲し叫ぶ。

 沈黙する教室。

「わかったよ!飯用意すりゃいいんだろ!・・・ほら!これ読んで好きなもん頼め。」

 リーダー格はまくし立てると、交渉人直通のトランシーバーと要求の書かれたカードを俺に手渡した。

「・・・人質です。犯人からの要求です。」

 送信ボタンを押しトランシーバーに語り掛ける。

「交渉人です。どうぞ。」

「今夜零時までに収監している同志の内、先程指定した者を釈放せよ。・・・後、食事の準備を・・・」

「ちょっと待った。」

 リーダー格が発信を遮る。

「何度も言わせるな。人質の命はこちらで預かっている。・・・って付け加えて。後、食事の数は人質プラス三十で。」

「わかりました。・・・もう一度繰り返します。今夜零時までに指定した同志を釈放せよ。要求が達成されなかった場合、十分毎に人質を一人ずつ殺していく。食事の用意を・・・」

「待て待て待て!」

 またもリーダー格が発信を遮る。

「何だよ?」

「何だよじゃないよ!俺が言ったことと全然違くない?」

「いや、途中でわかんなくなっちゃったんでアドリブで上手いこと誤魔化しました。」

「上手いこと行ってるけど全然上手くないよ。うーん、なんていうか殺しの予定は無いというか・・・あーもう、いいや。もう飯の要求して。」

 苦悩の末、投げやりになるリーダー格。

「わかりました。・・・食事の用意を頼みます。数は人質プラス三十人分。メニューはフライドチキン、フライドポテト、ピザ、寿司。あと女子もいるんで野菜系も。ドリンクはコーラとお茶とオレンジジュースで・・・」

「おいちょっと待て。」

 リーダー格がトランシーバーを取り上げる。

「ちょっとまだデザートを頼んでないでしょうが。」

 恨みがましい目で見つめながら文句を言う。

「お前、ちょっといい加減にしろ。どんだけ食う気だ?パーティでもする気か!?」

「いや、ほら。みんなすごい腹減ってるし、それに今日はたまたまクラス全員揃ってるからこういう時にこそ思い出を作るべきかと思って。」

「どういう思い出だ!?カオス過ぎるわ!」

「・・・こちら交渉人。要求の件、食事についてはすぐに用意する。釈放の件については現在手続き中だ。」

 リーダー格の手の中にあるトランシーバーが要求の答えを告げる。心なしか喋り方がぶっきらぼうになっている。

「手続き中ですって。そう言って奴らは何にもしないんすよ。」

「うん、お前あんまりそういうこと言わない方がいいよ。」

 リーダー格が呆れたように言う。


「交渉人だ。食事の準備が出来た。」

 要求から三十分で連絡が入る。

「わかった。何人か差し向ける。・・・最終工程実行。」

 リーダー格が応えると教卓の上にトランシーバーを放り出し、自前の通信機で指示を出す。

「よし、行くぞ。じゃあな。食いしん坊。」

 リーダー格はそう言って俺の両肩を叩くと、覆面とバンダナを引き連れて教室を出て行ってしまった。

「・・・ん?」

 テロリストがいなくなり静まり返った教室。

「これって・・・解放された?」

 真向かいに座るクラスメイトと顔を見合わせる。

 プシュー

 教室の入口付近にいつの間にか置かれていた掌サイズの円筒形の物体から白い煙が放たれる。

「え!?何!?」

 モクモクと広がる白煙に教室が再び騒がしくなる。

「ヤバいヤバい!」

「早く窓から捨てろ!」

 その声に反応し俺はどうにか円筒形を引っ掴むと窓から投げ捨てた。

 すると外でどエラいパニックが起きる。

 そして、しばらくして煙が収まると騒ぎも鎮静化した。

 身体の異常が無いことからしてあれはただの発煙筒だったようだ。

 警察が踏み込んだときにはテロリストは完全に姿を消していた。


 後にわかったことは、テロリストは白煙のパニックに乗じて校舎内の点検口から下水道に逃げた事。

 そして、学校を占拠した目的は同志の釈放ではなく、組織の実行力を誇示するためのものらしい。


 最後に、この事件を機に俺はクソ度胸のKY野郎として教師と全校生徒から一目置かれる存在となってしまったのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 騒ぎが起きている真っ最中なら、早弁をしても気づかれない。 主人公の鋼メンタルが面白いですね。 また、爆弾に見せかけた発煙筒で注意を引き付けているうちに逃走する手口は、三億円事件を思い出しま…
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