宇宙人襲来編その4
宇宙人襲来編その4
ボス蠱の大ムカデを討伐するため、作戦会議が開かれた。参加者はラギン、グレン、ペンタ、フェガの4人と、メリテリーヌ、マリーナ、リンの宇宙人3人に加え、一般人代表で前に宇宙カマキリに襲われている所をラギンに助けられた親子の母親が席についていた。ラギン達と宇宙人だけでは意見が偏りそうと言うペンタの提案で決まり、当初は旦那が参加予定だったのだが、当日になってお腹が痛いと言い出して代理で奥様にお越し頂いた。旦那は仮設住宅で娘と留守番している。もちろん誰一人として仮病である事を疑う者などいなかったが、あえて追求するような無駄な時間を使う者もいなかった。
「まず言っとくけど、私達の船には、ほとんど武器が搭載されていないわ」
口火を切ったのはメリテリーヌだった。
グレンが納得できずに聞き返す。
「武器がないわけはないだろう?まずあいつら虫のどもを捕獲する必要があったわけだし、地球で攻撃される可能性もあるんだ。宇宙の常識はしらねぇが、丸腰で旅行するほど平和だとも思えねぇ」
「だから、ほとんどと言ったでしょう。虫の捕獲はフェロモンを使うので武力は必要ないわ。凶暴な生き物でもおとなしくさせる物質を研究して調合できればそれでいいんだもの。地球人や他の宇宙人からの攻撃に対しては、数少ない武器を使って反撃します」
「その数少ない武器ってのを教えてくれ」
メリテリーヌは黙って視線をマリーナに向けた。説明しろ、という事だろう。
「我々の船にある武器、というか攻撃手段は3つだ。1つ目は主砲。動力でもある太陽エネルギーを収束させて砲身から発射する。レーザー砲のようなものだ」
おお!男子達が目を輝かせる。
「2つ目は捕獲装置の応用だな。フェロモンを流す代わりに毒を拡散させて弱らせたところを電磁網で捕獲する。出力を上げればそのまま生命機能を停止させることも可能だろう」
うわぁ。今度は何人かが痛々しげに顔をしかめる。ラギンとフェガは全くの無表情で聞いている。
「3つ目は、言いたくない」
「なんだそれ。それじゃあ作戦が立てられないだろうが。言えよ」
グレンがマリーナに強く迫る。マリーナは怯える事もなく、じっとグレンを睨み返した。美少女の思った以上に強い視線に、グランの方が気圧されて汗をかいた。
「まぁ言いたくないなら無理には聞かないさ。それより今の2つともボス蠱にも効くんだろう?楽勝じゃないのか」
何か裏があるような気がしながらも、ラギンがメリテリーヌに問いかける。
「それは……」
「地球が滅んでも良いなら使ってやるさ」
言い淀んだメリテリーヌに代わって答えたのはリンだった。
「地球が滅ぶ?」
「そうさ。主砲は手加減ができない。撃てばこの星ごと吹き飛ばすだろうよ。毒だってそうさ。相手は蠱だ。並大抵の毒じゃ効くわけがない。そうなると、超猛毒ガスを作ってばら撒くことになる。生き残れると思うかい?この星の生物が」
「なるほどな。つまりお前らの武器ってのは、攻撃してきた相手を一撃で全滅させるためのものってことか」
「わかって頂けて何よりですわ」
「捕獲装置はどうだ。例えば俺たちがボス蠱を誘導して捕獲装置のある所まで追い込めば、電磁網で倒せるんじゃ」
「それが1番現実的だな」
「私もそう思いますわ」
「理にかなっている。追い込めるなら、だが」
美少女たちが頷く。そうして作戦の大筋は決まった。ラギン達がいくつかのチームに分かれてボス蠱を誘い出し、宇宙船の捕獲装置の有効射程距離まで連れてくる。範囲に入ったらラギン達は離脱し、装置作動。高出力の電磁網でボス蠱は焼け死んで終了。
それからしばらくそれぞれが準備と練習に打ち込んだ。その間も見廻り隊を結成し巡回して、凶暴化した昆虫から付近の一般市民を守り続けた。ただし時折入るラジオのニュースから、各地で大きな被害が出ていることが伝わってきていた。
「さて、そろそろ行くか」
最初の作戦会議から10日後、ラギンの言葉で作戦決行が決まった。
できる限りの武装した仲間達がいくつものチームに分かれて出撃していく。ボス蠱の居場所はわかっている。囮部隊が目印の時計台まで連れてきていた。そこからはラギン達が攻撃しながら学院のグラウンドへ誘導する。学院のグラウンドには、プールに隠した宇宙船が電磁網の端子を張り巡らせていた。ボス蠱が範囲に入れば、起動して捕獲。そのまま出力を上げて絶命させる手筈になっている。
「きたぞ!」
時計台の上に控えていたラギン達攻撃班からボス蠱が視認できた。頭の幅だけで3メートル、全長は20メートルはあろうかという巨大なムカデは、目を真っ赤に充血させキーッという甲高い音を立てながら足を細かく走らせ突っ込んでくる。進路上の電柱や車が破壊され飛び散る。攻撃隊が動かした無人のダンプカーが突っ込んでいくが、ムカデの大きなアゴで横殴りに弾き飛ばされる。
「ちっ、無傷か」
できれば学院へ着くまでに傷を与えて弱らせておきたかったのだが、外殻を傷つけることすら叶わなかった。
「こちらラギン、ムカデは時計台から大通りを北へ進行中。硬いぞ。グレン頼む」
「了解。丸焼きにしてやるよ」
グレンの部隊は、火攻めだった。あらかじめセットしてあった油樽に火矢で引火していく。学院までの進路を誤らず進めるためだが、あわよくば倒せたらとも思っている。ガソリンを入れた火炎瓶がムカデの身体に降り注ぐ。炎が上がると身を捩るが、ムカデは歩みを止めない。外殻の表面は焦げて煤がついているが、ダメーはないようだ。ますます怒りに暴れながら進んでいく。
「まずい!ビルに突っ込みやがった。方向が変わるぞ。フェガ、フェガ、こちらグレン。奴さんハイカラビルに突っ込んでショッピングする気だ。ちゃんと学院行くよう言ってやってくれ」
「承知した。あいつに似合う服などないからな」
グレンからの無線を受けて、フェガの部隊がビルからビルへと屋上を飛び移っていく。
「散会しろ。左から攻めろ」
フェガが部下に指示を出す。黒いマスクを被った男達が、指示の通りにムカデの左側から袋を投げつけていく。野球ボールほどの大きさの袋は、当たると破れて中身が飛び散った。やや粘度のある緑の液体である。ムカデの頭部や身体が緑でまだらに染まる。
シュー
液体が触れた部分から、水蒸気のようなものが上がる。ムカデが初めて苦しそうに体をうねらせた。
「よし、効いてるぞ」
追いついてきたグレンがその姿を見てガッツポーズをした。
「あれなんなんすか、隊長」
グレンの部下が尋ねた。
「あのムカデとかいうボス蠱にだけ効く毒らしいぜ。体にかかるとめちゃ熱くなって溶けちまうらしい」
「へー、すごいっすね」
「そうだな。あのオカッパチビが作ったらしいが、なかなかやるじゃねぇか」
グレンは黒髪の美少女を思い浮かべて、笑みを浮かべた。部下が怪訝そうにそんなグレンの顔を眺めていた。
「目標進路変更、予定通りに学院南門へ向かっている」
フェガが表面の溶けたムカデの身体に槍を突き込みながら無線を飛ばした。マリーナの毒は予想以上に外殻を溶かし、物理攻撃が通るようになっている。ムカデは痛みを感じないのか、身体に何本も槍や鉄筋を突き立てながら怒りに任せて前へ進んでいく。蟲の中で最強となったボス蠱は、思い通りにならない今の状況が許せないらしく、手当たり次第に破壊しながらひたすらに前へ進んでいく。いや、ラギンの仲間達により、進まされていく。