宇宙人襲来編その2
宇宙人襲来編2
「ああ、怖かった」
そう言って笑う男は、ラギンが助けた母子の夫であり父親だった。
「生きてたんかい!」
ペンタのツッコミにも動じず、靴を拾いに行く男は、宇宙カマキリが現れてすぐ妻子を置いて逃げ出したらしい。
「いやね、私虫系本当に無理なんですよ!あの足とか目の感じがもう、生理的に無理!」
そう言って身を震わせる男の肌には鳥肌が立っていた。
「なっさけねぇなぁ、オッサン。家族は守れよ。もう一生言われんそ、これ」
男の妻は、虫を見るときよりも冷たい目で夫を見ている。
「まぁほら、カマキリは強そうだし、怖いのもしょうがないんじゃね」
ラギンがフォローする。
「カマ……キリ?なんだそれ?」
ペンタが首を傾げる。
「そう言やぁよ、さっきもオスとか交尾とか言ってたよな?知ってんの?あのキモいやつ」
「え?カマキリだろ?」
ラギンの言葉に、周囲の全員が首をかしげた。どうやらカマキリを知らないようだ。
「え!カマキリ知らないのかよ!バッタとか食べる肉食昆虫で、共食いもするしハリガネムシも出るし、昆虫界のアウトサイダーやん!」
全く誰も理解してくれなかった。
ラギンが転生したこの世界にカマキリは存在しなかったのだ。
「じゃあ、コオロギは?トンボは?カマドウマはどうなんじゃい!」
ラギンが伝える虫の悉くが存在していなかった。ただ、アリと蚊はいた。いなくていいのに。
「今この国を襲ってるキモい奴らは、ラギンが知ってる虫なのか?」
「そうだ。詳しいことは聞くな。でも知ってる虫ばかりだ」
何故か日本にいた虫が巨大になってこの世界に現れた。理由も何もわからないが、ラギンのような転生者と関係があるのかもしれないと思えた。同じ日本出身であろう、同情のオーナーとも。
「おーい、今度は向こうに虫出たみたいだぞー」
木刀を肩に担いだグリルがラギンを呼ぶ。
それからは手分けして昆虫たちを駆除して回った。肉食だとかジャンプするとか、ラギンの知識も役に立った。ただしトンボには勝てる気がしなかったので、戦わないよう皆に言い含めた。
足に紐を引っ掛けて動きを制限、関節の隙間を狙う。羽は燃える。これらで結構な数倒すことができた。
オオカマキリの視界を奪ってバッタ軍団に突撃させたり、ウスバカゲロウの幼虫に落とし穴を掘らせたりもした。鱗粉を撒き散らす蛾を倒したのは弓道も嗜むグリルの火矢で、皆が臭さに吐いたカメムシを倒したのは、慢性鼻炎だと言う白ゴリラ君だった。
家ぐらいあるゾウカブトを見た時はもう無理だと思ったが、特に人を襲わずにビニールプールに溜めた砂糖水を飲んでご機嫌だった。ゾウカブトはどこへともなく飛んでいったが、やや小型のオスのカブトムシが1匹やけにラギンに懐いてきた。
「カブ吉、砂糖水のむか?」
コクコクと、うなずくカブトムシ。
「おいラギン、カブ吉はそのまま過ぎないか?もうちょっとひねろうぜ」
「いいんだよグリル。わかりやすいのが1番だ」
小型とは言っても普通車ぐらいのサイズはあるカブ吉。ラギンとグリルとペンタの3人が乗っても余裕で飛び立てる。やがてフェガが当然のような顔をしてメスのコクワガタに乗ってやってきた。非常に懐いていると言うか、惚れられているようだ。名前はジョセフィーヌ。昆虫にもイケメンは通じるらしい。カブトムシとカナブンの混成チームを率いていたカブ吉の子分と、ジョセフィーヌの友達たち一派が仲間になった。オスカブト10匹にカナブン5匹、コクワガタはオスメス2匹ずつと、ミヤマクワガタのオスが1匹。どれも最初は名前がなかったので、ラギンが独断と偏見で名付けた。
「唯一のミヤマクワガタか。お前の名前はスサノオだ」
「あとはカブ助、カブ衛門、カブ長、カブ時、カブ太郎、カブ次郎、カブ三郎、カブ四郎…」
数が多いと雑になるのは仕方がないと割り切ろう。
予想外の戦力を得て、ラギンたちは更に戦略を進めることにした。