宇宙人襲来編その1
宇宙人襲来編
それはある日の夜中に、突然やってきた。
ほとんどの人が寝静まっていた明け方前、空の上の方で、一際大きく輝く星が生まれた。
それは、宇宙船だった。遠い宇宙の彼方からワープを繰り返してやってきた。失われた故郷に代わる星を見つけるために。先住民は全て奴隷か食料にして占領するために。
その星で一番最初に彼らに遭遇したのは、犬を散歩させていた老人だった。リードの先で犬がやたら空を見て吠えるので見上げたら、ソイツが空から降ってきていた。
見た目はほぼ、カマキリだった。しかしデカイ。二階建ての家ぐらいあるカマキリ。黒い体はやたらトゲトゲしく、目は赤い。鎌の一振りで老人は両断された。激しく吠える犬。それももう一振りで鎌に挟まれ、頭から喰われた。
昆虫型と言って差し支えないだろう。見た目はカマキリ、コオロギ、トンボ、そして黒いG、特に肉食の昆虫達が車ほどの巨体で人間を襲い始めた。宇宙からの襲撃にしては、地球の生物と似過ぎている。もちろん原因は不明。ニュースによると世界各地で発生しているらしい。地球崩壊の危機なんて言うキャスターもいる。宗教団体が声を大きくし始める。
「おい、ラギン。どうするんだ」
「いや、どうしようもないだろ。昆虫型宇宙人の襲撃なんて、誰に何ができんだよ」
「ラギンならできるだろ。なんとか」
「なんとかて何だよ。アバウトか」
「いやでも、襲われてるし」
指差す先には、今ちょうど襲われているベビーカーの親子がいた。
「よし、助けるぞ」
「そうこなくっちゃ」
ペンタは嬉しそうにラギンの後を追いかけて行った。
走りながら目についた棒に手を伸ばした。どこかのビルから落ちてきた鉄筋だった。長さ1メートルほど。右手にしっかりと握り直しながら、ラギンは今まさにベビーカーに覆い被さった母親へ鎌を振り下ろそうとしているカマキリの頭部へ飛びかかった。
オオカマキリほどの迫力はないのでチョウセンカマキリだろうか。身長も3メートルほどだろうか。
一回の跳躍では届かない所だが、ラギンは駐車していた車のボンネットから屋根を大きく蹴りつけて宙に身を躍らせた。無機質な光を称えたカマキリの瞳がラギンを捉えた刹那、右手の鉄筋を振りかぶって突き立てた。少し弾力のある膜を突き破る感触があり、鉄筋は眼球の中へ吸い込まれた。
シャーー!!
鉄筋を軸に身体を回転させ、カマキリの頸部の後ろへ回り込んだ。腕を首の前で交差させてしめる。気道も頸動脈もないだろうから、さらに腕で頭をロックして180度ひねる。強力なアゴに気をつけながら、さらに頭をひねっていく。一回転半位で肉がプチプチと切れ首がグニャグニャになった。足を肩に突っ張って頭を引きちぎる。首無しカマキリはめちゃくちゃにカマを振り回して暴れる。
「さすが、頭がなくても生きてるんだな。メスに喰われながら交尾するだけのことはある」
木登りから降りる時のように、カマキリの体に足を巻きつけたまま滑り降りる。腹と胸の継ぎ目でとまると、指を鉤爪の形にした手を突き入れた。羽の根元から体内に差し込んだ手に、ぐにゅりとした不快な感触が伝わってくる。体液が臭い。とりあえず指に触れるもの全てをかき回して破壊する。
首無しカマキリは徐々に動きをゆるめ、やがて数回痙攣して動かなくなった。
「あ、ありがとう、ございました」
恐る恐ると言う感じで襲われていた母親がラギンへ声かけてくる。恐怖と困惑のなか、気丈にも我が子を乗せたベビーカーを押して避難していたのだ。
「怪我はありませんか?」
「は、はい。でも主人が……」
苦しげに向けた視線の先には、血にまみれた靴が落ちていた。父親はカマキリに喰われたのだろうか。ラギンにはかける言葉が見つからなかった。