オリエンテーリング 開始
「詩織ちゃん、甲本くん、起きてください。そろそろ着きますよ」
バスに揺られているうちに、いつの間にか寝てしまっていたらしい。理子ちゃんが起こしてくれたみたいだ。
「ん・・ありがとう、理子ちゃん」
「ふぁぁぁ・・おはようございます」
甲本くんも起きたし、御影くんは変わらず本を読んでいる。
今はT県のN高原付近を通っているらしい。目的地のN少年自然の家まであと15分程度だから、荷物をまとめておけとのことだ。
「バスを降りたら、向こうのスタッフさんたちに挨拶をするわ。その後は、好きなメンバーと集まって昼食よ。13時20分には、オリエンテーリングの班に分かれて正門の前に集合だから、遅れるんじゃないわよ」
バスはまもなく到着し、私たちは続々と降りてゆく。すぐに全員がホールに集合して、入校式が始まった。
式はつつがなく進んでゆき、桜良の挨拶で締められた。
「3日間という短い間ですが、よろしくお願いします」
彼女とは家族であり、親友でもあるが、学校での姿というのは意外と新鮮だ。
二人(とお手伝いの人)暮らしが始まってから、私は地元の小学校に通い、そのまま近くの中学校へと進んだ。
しかし、桜良は少し遠い学校に通っていたから、学校で一緒に過ごすということが今まで無かったからだ。なんでも、甲本くんと槇村くんと同じ学校に通いたいと駄々をこねたらしい。
甲本くんから聞いた話なのだが、『あの事件』があって、私たちが故郷の街から引っ越した後、桜良はずいぶんと変わったらしい。
今もそうだが、前に出てみんなを引っ張るということをよくするようになったらしいのだ。
普段は何でもない風に振る舞っているが、彼女も『あの日』、生き方が変わってしまうほどの傷を負わされたのだろう。
「どーしたのよ、詩織。ずいぶんと浮かない顔ね」
「あの・・体調が・・悪いんですか?」
どうやら心配させてしまったらしい。
「大丈夫だよ。ちょっと考え事をしててね」
「そ。勇太はバカに連れ去られたし、御影くんは一人で食べるみたいだから、あたしたち三人で食べましょ」
「OK。いいよ」
理子ちゃんはまだ心配そうな顔をしていたが、桜良が特に話題にしなかったので、そのまま和やかに談笑しつつ昼食は進んでいった。
もっぱら、桜良が理子ちゃんを質問攻めにして、私がブレーキをかけるという構図だったけれど、理子ちゃんの表情から、緊張した愛想笑いが消えて、心から笑顔になれているようなのでよかった。
「じゃ、あたしはみんなより先に行ってなきゃいけないから」
「それじゃあ・・また」
桜良はそう言って、集合場所へ向かっていった。
「私たちも甲本くんと御影くんを捕まえに行こっか」
御影くんは、ホールの端のほうで本を読んでいた。寂しくないのかな・・
「御影くん、そろそろ集合時間だから一緒に行きましょう?」
「ああ、分かった」
パタン、と本を閉じて彼は立ち上がった。
「えっと・・甲本くんはあそこ・・ですね」
見ると彼は、槇村くんたちの班にいた。
「甲本くん、槇村くん、そろそろ集合時間ですよ」
「そうみたいですね。ありがとうございます」
「おっ、風間じゃねぇか。そうか、もうそんな時間か・・よし!オレたちも行くぞ!」
槇村くんは面倒見がよく、男友達に信頼されるタイプらしい。今回のオリエンテーリングの班でもリーダーを務めているとのことだ。
「それじゃあ、行きましょうか」
班員が全員揃ったので、私たちは集合場所へ向かった。
ーーーーー
「よし、全班揃ったわね。これからオリエンテーリングを始めるわ。ルートは各班で確認してあるだろうから、注意事項だけ確認するわよ。といっても、道を外れて森に入っていかないことと、ペットボトルとかのゴミをポイ捨てしないことくらいかしらね。何かトラブルが起こったら、落ち着いて配ってあるトランシーバーを使いなさい。何か質問は?」
出発前の事前説明が完璧だったからか、手を挙げる人はいない。この最終確認も保険の意味しかないが、手を抜かないのが桜良がリーダーたる所以だろう。
「ないようね。それじゃあ、各班ごとに解散!」
オリエンテーリングのコースは、冬場にクロスカントリースキーが行われる場所だ。
私たちの班はそのコースを進んで行き、途中で一般道へ出て、その先の滝に向かう予定だ。
「そうそう無いとは思いますが、もしはぐれてしまったら、その場でじっとしていてくださいね。こちらで先生に連絡するので」
「はい」
「分かりました」
「ああ」
リーダーとして、多少の緊張はあるが、これはグループ内での親睦を深めるイベントだから、もっと肩の力を抜いていこうと思う。
「それじゃあ、楽しんでいきましようね!」
「うん!」
「はい」
週末時間がとれなかったため今週は一話のみです
ちょっとダラダラした流れになってしまった・・
これよりはテンポよくやっていきます。
トランシーバーは浪漫