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ただ、平和な毎日を過ごせるだけで  作者: リア狂
第一章 日常
7/23

出発

約束通り22時で統一するよ。

オリエンテーション合宿は詩織視点です

 班決めが終わってから合宿までの一週間は、本当にあっという間だった。

 班のリーダーになった私は、桜良が招集する班長会議に参加し、連絡事項を班員に伝えるという流れを何度か繰り返し、予定を合わせていった。

 二泊三日で行われる今回の合宿は、


 一日目 昼頃現地にバスで到着、午後オリエンテーリング

 二日目 午前中は授業、野外炊飯をやった後クラス対抗ドッジボール大会

 三日目 朝食後、学校へ向けて出発


 という流れで進んでいくことになっている。

 班長会議では、オリエンテーリングで回る場所の擦り合わせをしたり、ドッジボールのチームを決めたりした。

 そして今日はとうとう出発の日だ。

 班の人とはこの一週間で何度か会話をしたし、甲本くんとは一緒に帰ることも多いから、あまり不安はない。


「おはようございます、風間さん、桜良」

「おはようございます」

「おはよー勇太」


 バスの近くで甲本くんと会った。珍しく槇村くんは一緒じゃないらしい。


「あれ? バカは一緒じゃないの?」

「源は班の人と一緒ですよ。桜良は自分の班のところに行かなくてもいいんですか?」

「ふーん、そうなの。あたしはまあ、いいでしょ」

「それでいいのか学級委員、といった感じでしょうか」


 これにはさすがの甲本くんも苦笑を隠せていない。私も苦笑いだ。


「そんなことはいいのよ。それにしても、二人は同じ班なのよね。羨ましい」

「くじを引いたのは桜良なのでは・・」

「それに、桜良は私たちと一緒じゃなくてもうまくやれるでしょう?」

「ま、そうなんだけどね」

「あっ・・おはようございます、皆さん」

「おはよう、百田さん。じゃあたしは行くわね」


 そう言って、桜良は自分の班のところに行った。

 私たちの班はあと御影くんだけが来ていないんだけど、先にバスにの乗って、待っていようという話になった。

 バスの座席は班ごとに横一列で、私の隣が百田さんで、通路を挟んで甲本くん、その隣に御影くんだ。

 特に話したいこともないけど、沈黙は嫌ではなかった。

 しかし、居心地が悪いと感じたのか、百田さんはちょっと唐突な話題を振ってきた。


「あっ・・あの・・お二人は、ご兄弟とかいらっしゃるんですか?」

「私は一人っ子ですね。ああでも、昔怖いことがあったときに慰めてくれた男の子がいて、その人は私を妹みたいに思っていたみたいなので、その人が兄と言えるかもしれませんね」

「そうなんですか・・その人とは今でも会ったりとか・・するんですか?」

「えーっと、しばらく会えていなかったんですけど、最近また会えて」

「それは良かった・・ですね。えっと・・甲本くんは・・?」

「僕には妹が。まあ、今は留学していてしばらく会えていないんですけどね」

「中学生なのに留学なんて・・頭がいいんですねぇ・・」


 甲本くんと百田さんはそのあともポツポツと会話を続けていたが、私はそれに混ざらずに考えことをしていた。


『あの日』私は一緒にいた家族を全て喪った。

 それを受け入れ、立ち直るのには私はあまりにも幼く、燃え盛る街のなかで一人立ち尽くすことしかできなかった。

 そんな時、その人は後ろから私のことを抱きしめて、大丈夫、大丈夫と頭を撫でてくれた。


 今思えば、街の人みんなが突然消えてしまった『あの事件』の最中にあって、私と同じくらいの年の男の子がいることは、とても不思議だが。

 その時感じたその人の掌は、同じくらいの子とは思えないほど大きくて、暖かかった。

 それ以来、私は彼のことを『兄』と呼ばせてもらっているが、あれは『恋』なのかもしれない。


 ーーーーー


「遅くなった。悪い」


 出発直前になって、ようやく御影くんはやって来た。


「おはようございます。これで全員ですね。先生に報告してきます」


 40人分の期待と不安を乗せて、バスは出発した。


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