スペシャル閑話 みんなで年越し!
IFです。
こんな平和な毎日が過ごせればいいのになぁ・・
12月31日の昼間。
僕はこれから始まる年越しの準備に追われていた。
というのも、冬休みに入る前に、
「今年は文芸部みんなで年越しパーティーをやろう!」
と、部長からお達しがあったからだ。
すぐさまノリノリになったひなの先輩と部長の手によって、瞬く間に計画は組まれていき、参加を了承する前に、こうして三國先輩の家で準備をしている。
常世先輩のお父さんは、かなりのお金持ちらしく、その家も豪邸であった。
そして、その広い家は今、空前絶後の騒がしさと忙しさの渦中にあった。
「勇太! それそこじゃない! バカはもっとあくせく働く! 創也は買い出し大丈夫?」
「やってんだろ!? これ以上は過重労働だろ!?」
「問題ない」
「ほら、創也もこう言ってるじゃない」
「その問題ないは買い出しに対するもんだろ!?」
何故か、桜良と源、創也くんに詩織さんまでいるからだ。桜良が妙なこだわりさえ出さなければ、ここまで大掛かりな準備はしなくてもよかったはずなのに・・
僕はなにも言っていないので、理子さんが誘ったのだろう。・・陽子部長の交遊関係が2年下まで広がっている、というのもありそうなものだが。
「先輩、本当に参加してよかったんですか?」
準備の手を止めずに(止めると桜良がうるさいのだ)、部屋の隅で勉強をしていた斉田先輩に声をかける。
3年生は受験直前であり、こんなところにいる暇などないはずなのだから、気になるのは当然だった。
「こういう騒がしいのもたまにはいいだろう。それに、井伏に頼まれたことを断ることはできない」
「大変ですね・・がんばってください」
ちなみに、今回の発起人は、すでに推薦でけっこう有名な大学に合格を決めている。
いろいろ濃い人だが、優秀なんだなーと、改めて認識していると、当の本人が帰って来た。
「たっだいまぁー!」
「もう、ひなのちゃんの家じゃないでしょ! ただいま」
「そういう先輩こそー」
「あの・・買い出し、終わりました・・」
創也くんの代わりに買い出しに行っていた3人が戻り、フルメンバーまでもう1人だ。
「常世先輩って、どこにいるんですか?」
「あー、常世ちゃんはね・・」
「しかたないなー、常世のやつ。先輩、ちょっと行ってきますね」
「うん、よろしく」
ひなの先輩は、そう言うや否や、勝手知ったるといった様子で、階段を駆け上がっていった。
そして数分後、寝ぼけ眼をこすり、いかにも服を着せられたといった風貌の常世先輩を引きずって、1階に戻ってきた。
「おはようございます、常世先輩」
「ふわぁ・・おはよ」
「見ての通り、常世ちゃんは朝がすっっっごく弱いの」
「もう昼ですが・・」
寝癖がたったままなのはともかく、無理矢理着せられた服がずれているのは危うい。頼むから直してほしい。
「ほら常世! 服直して!」
「はぁぅ・・ひなのがやって・・」
仲睦まじげな2人の様子に、微笑ましい気分になる。部長も同じようだった。
「勇太! 陽子先輩! 早く仕事に戻る!」
「「はい!」」
すぐに桜良に、現実に戻されてしまったが。
ーーーーー
5時頃になって、ようやく用意が整った。
なにをそんなに、となるかもしれないが、そもそも片付けられていなかった上に、飾りつけが見事なので、これくらいかかったのは当然と主張したい。
サボってはいないのだ、決して。
たとえ、途中で桜良が料理準備のため、詩織さんのところへ行っていたとしても。
「か か り す ぎ ! サボったでしょ、あんたたち!」
「うへぇ・・」
「・・」
だから、怒られて諦めを浮かべる源と、露骨に目をそらす創也くんと一緒にはされたくなかった。
「まあまあ、お説教はあとでいいんじゃない?」
「そーだよ。これから楽しいパーティーなんだからさ」
救いを求める視線を送った甲斐あって、僕たちは束の間、鬼から解放された。
「・・ひとつ、貸しにしておくわね?」
代わりに、ウィンクを飛ばしてくる悪魔に捕まったらしかったが。
詩織さんの手伝いで、たくさんの料理を机に並べていく。
寿司をはじめとして、すき焼き、麻婆豆腐、ローストビーフにサラダ、その他諸々と、なにも考えずにとにかくご馳走を用意した感じだった。
「部長、これどこから出てるんですか?」
「あー、諭吉さん? 当然部h・・」
「やめろ、井伏。それ以上はいけない」
なにやら不吉な言葉が出たが、スッと現れた斉田先輩のお陰で、文芸部の闇を知らずに済んだらしい。
「あ? 大晦日はガキ使だろ。それ以外に選択肢はあるのか?」
「紅白以外あり得ないわね」
「だよね」
「桜良ちゃんも詩織ちゃんもおばさん臭いよ!? 年越しはカウントダウンライブでしょ!」
「どうでもいいが、静かに過ごさないか?」
「・・激しく同意」
他の人たちは、テレビでなにを見るかの論争をしているらしい。間であわあわしている理子さんが不憫だ。
「大晦日なにするか、大じゃんけん大会を開催するよ!」
そして、部長の鶴の一声で、じゃんけんが始まった。全員参加で、勝った人がなにを見るのか決めるらしい。
たぶん、場の収集をつけようとしたのではなく、単にじゃんけんがしたかっただけなのだろう。
「最初はぐー、出さなきゃ負けよ、じゃんけんぽん!」
さりげなく異能を解放している桜良と源がずるい。よく見たら詩織さんと創也くんもらしい。
大人げないと思いながら、僕は皆の『匂い』から出そうとしている手を導きだす。
「あいこでしょ! あいこでしょ! あーあ、負けちゃったわ」
「・・負けた」
「1年生に負けるなんて」
先輩方は次々ドロップしていき、1年生のみの対戦になる。
斉田先輩は出さないで負けだったが、異能が無いはずの理子さんがここまで食いついてきているのが凄い。
「あ・・勝ちました・・」
「なん・・だと・・」
「負けたわ・・」
「理子ちゃん、すごいね・・」
遂には、理子さんが1人勝ちして、紅白を見ながら雑談やトランプをして、静かに過ごすという方針になったのだった。
紅白が始まる前に、常世先輩がトランプやボードゲーム、TRPGのルールブックなんかを持ってきて、賑やかにパーティーは始まった。
斉田先輩も1度勉強を切り上げ(部長命令だ)、皆でワイワイ楽しむことができた。
「ふっふっふ、聞いて驚きなさい! ロイヤルストレートフラッシュよ!」
「・・陽子先輩、それイカサマ」
「うわー、また騙されるところだったー! 常世愛してる!」
「なんで・・わかったんですか・・?」
「ふはははは! 私に任せろ! 芸術(講義)クリティカル!」
「えーっと、じゃあゾンビは電子工学の素晴らしさに目覚め、あなたの生徒になります」
「ちょっと斉田先輩!? なにノリノリでシナリオ壊してんの!?」
「・・ふん、殴り足りなかったのだが」
「戦闘狂かよ、創也」
「詩織さん大丈夫? 涙目ですけど・・」
「あ、あはは・・これからどうしよ・・」
21時半現在、最早紅白を見ている者はいなかったが。
そして、皆で年越しそばを食べ、ゆく年くる年を見ながら、激動の1年に思いを馳せるのだった。
ーーーーー
「寒いねー」
「わかってるなら来なきゃよかったんじゃないですか・・?」
「ひなの、私が暖めてあげる・・」
文芸部上級生は、初詣に来ていた。
提案者は寒さに震え、受験生は公式を暗唱し、2年生はくっついて暖めあいながら。
「にしても良かったんですか? あの3人を1つ屋根の下に置いてきて」
「確かに。私の家で、そういうリア充してほしくないんだけど・・」
「あなたはいつも自分の部屋でひなのちゃんとイチャイチャしてるじゃないの」
「な・・」
「ひなのは別。かわいいから」
公式を暗唱する男は思う。そういう話は女同士のときだけにしてほしいと。
「まあ、大丈夫よ。勇太くんは相手の気持ちがわかっても、それを疑っちゃう人だから、きっと間違いは起きないわ」
「それって、彼がただの腰抜けって言ってるだけなんじゃ・・」
「ひなのー、よしよし」
4人連れは、行列のできている有名な神社を避け、小さな祠へとやって来た。
なんとなく雰囲気が好きで、文芸部のパワースポットだと、部長が勝手に喧伝している場所だった。
「今年を逃すと、あいつらとここに初詣に来る機会もなくなるんじゃないか?」
暗証をやめ、斉田は問いかける。
「いいのよ。もしかすると、一生に関わる決断をするかもしれないんだから」
4人は、それぞれの祈りをする。
なにを司る神であるかも知らず、ただ、自分の願いを告げた。
「大学合格」
「翔くんが合格して、私と一緒の学校に来てくれますように」
「ひなのとずっと一緒に」
「この文芸部が永遠の絆になりますように」
同じものを愛する4人は、それぞれの祈りを胸に、新しい年の扉を開けた。
ーーーーー
この平和な1日に、3人の異能者は最大限の感謝を感じていた。
「本当に平和ね・・」
「そうだな・・」
「ああ」
大きな和室に仕切りを立て、男女の区別をしたその部屋で、3人は横になっている。
「創也、あんた詩織のこと、実際どう思ってたの?」
「戦友だな」
「見も蓋もねぇな。もっと異性としてとか、そういうのなかったのかよ」
「ないな」
戦友。普通使うはずの無いその言葉が、3人にとっては、1番大切な契りに感じられた。
それこそ、色恋などよりも。
いや、そう思っているのは2人だけかもしれない。
彼女は戦友であるという絆の上に、さらに固いものを結びたいと、そう思っていた。
しかし、叶えようとは思わなかった。
自分には、その資格がないと切り捨てて。
「あいつら、遅いな」
「もう甲本は寝てしまったというのにな」
「早すぎなのよ、勇太は」
未だ2人の少女は部屋に戻らない。
いつもなら警戒するであろうそのことに、安心感すら覚えつつ、3人の戦士は平和な夜を噛み締めた。
たとえそれが、今だけのものだと、理解していても。
ーーーーー
「・・どうしたんですか? こんな、夜更けに・・」
「うん、ちょっとね」
黒髪の少女は、同じ想いを抱いているであろう人に、なかなか話題を切り出せずにいた。
しかし、せっかくのこの機会を無駄にはしないと、覚悟を決めてそれを言い出した。
「あのさ、理子ちゃんって、好きなんだよね? 勇太くんのこと」
「ふぇえ!?」
突然のことに、赤面する。それが、図星であると物語っていることにも気がつかずに。
「やっぱりそっか・・いつくらいから?」
「・・オリエンテーション合宿のときから・・です」
思っていたよりも、長いそれに一瞬たじろぎながらも、臆さずに続ける。
「私もね、勇太くんが好きなの。ずっとずーっと、小さいときから」
「・・知って、ましたよ? 諦めた方が・・いいですよね?」
微かに涙を浮かべながら、本好きな少女は、初恋と別れを告げようとする。
慌てて、詩織は言葉を重ねた。
「そういう意味じゃないの! えっと、理子ちゃんとは友達だし、良いライバルになれるかなーって」
「ライバル・・ですか?」
「うん。お互い、彼のことが好きな気持ちは変わらないと思うし、ライバルとしてやっていけたらなーって」
「本当に・・いいん、ですか・・?」
「もちろん。代わりに、どちらかが勇太くんを振り向かせられたら、もう1人は素直に祝福しようね」
「はい・・わかりました。一緒に・・頑張りましょう・・!」
「負けないからね!」
「私の、方こそ・・」
当の本人が夢の中にいる間に、密かなライバル宣言が、高々と新年の空に響いたのだった。




