あのときのまま
4日ぶりくらいの執筆だったので、なんか薄め
古本屋を巡った次の日。
僕は、朝早くから押し掛けてきた桜良に、叩き起こされていた。
「せっかくの休みの日に、何の用だ? あ?」
「もう10時じゃない! いつまで寝てんのよ、バカ!」
朝から元気な源と桜良を尻目に、僕はケンさんの朝食を食べる。
家で朝食を食べてきたはずなのに、ちゃっかりおかずを頬張る桜良。彼女も、ケンさんの料理の腕を知っている者の1人だから、当然だ。
「それにしても桜良ちゃん、久しぶりだね」
「そうですね、叔父さん」
桜良が前にうちに来たのは、中3の秋くらいだろうか。もう半年近く前だ。
「ごちそうさまでした」
「ごちそーさん」
「ごちそうさまです」
ほぼ同時に食事を終え、僕たちは席を立つ。
「それで、今日はどこにいくんですか?」
桜良が、ケンさんの朝食を食べるためだけに、この家に来るはずがない。
だいたい、彼女は手ぶらでもない。
「ちょっと買い物に付き合ってもらいたくて」
「んなもん1人でいきゃいいだろうに・・」
「いいじゃないですか。久しぶりに3人で出掛けるのも」
「勇太ならそういってくれると思ってたわ。バカはいかないのかしら?」
「・・行かないとはいってねーよ」
決まり悪げに源は答えた。
桜良に突っかかるのは、もはや挨拶のようなものであり、彼とて3人でいるのが嫌なわけではないみたいだ。
「そうと決まればすぐに行くわよ! 3分以内に支度なさい!」
「はーい」
「うへぇ」
行動力のある桜良に振り回される形で、今までも色々なところに3人で行っていた。
もちろん、監督が必要なところへは、ケンさんに付き添ってもらったが。
しかし、最近はそういう機会もめっきり減って、今回は何か月ぶり、ひょっとしたら何年ぶりかもしれない。
きっちり3分以内に支度をして、僕たちは桜良に連れられるまま、家を出た。
ーーーーー
「人混みは慣れねぇよ・・全く・・」
「都心なんてどこでもこうだけどね」
「いや確かにそうだが、疲れた・・」
「無理はよくないし、少し休みましょ?」
ぐったりする源を、とりあえずカフェの席に座らせ、僕と桜良で飲み物を頼んだ。
僕は、2日連続の都内だが、同じ都心でも目的地が全く違ったため、飽きたりはしていない。
まあ、桜良と源と一緒にいる時点で、飽きるなんてことはありえないけれど。
「昔からダメですよね、人混み」
「こう、押し寄せてくる感じがちょっと・・酔うんだよなぁ」
体力に溢れ、桜良からは脳筋とまで言われる源だが、小さい頃から人混みが苦手だった。
そして、いつもは彼をからかう桜良が、こういう時だけ優しいのも昔のままだ。
「ほらほら、コーヒーでも飲んで落ち着きなさい。砂糖はいる?」
「入れなくていい。すまねぇな」
「いいのよ、これくらい」
微笑ましげな2人の様子を見ながら、僕は新しいガムシロップをあける。
「あんたは入れすぎよ。何個目?」
「たぶん、3個じゃないですかね?」
「はぁ・・そのうち糖尿で死ぬわよ」
しかし、甘味をやめるわけにはいかない。
別に太っているわけではないし、いいじゃないかと思ってしまう。
「おめーは甘いもん、好きだよな。ガキの頃からよ」
「僕の生き甲斐ですから」
「生き甲斐で死ぬのはいいことなのかしら・・」
皆変わっていない。何年経っても、僕たちは親友で。
「碧、どうしてるかな・・」
昔のことを思い出していたからだろう。
離れたところの妹に、意識が向いた。
心細くないだろうか。ちゃんとやれているだろうか。
彼女のことを思い出していると、悲しみの『匂い』がする。
今もはっきりと、それを感じた。
「碧ちゃん、懐かしいわね。また会いたいわ」
「留学から戻ったら、また会えますよ」
「そうだな」
2人からも、悲しみの『匂い』がした。
きっと2人も、碧がいないことを寂しいと思ってくれているのだろう。
この間、風間さんに思い出話をしたときは、何故かいつもの『匂い』がしなかった。
原因はわからなかったけど、彼女のことを考えていることに、後ろめたい気持ちを覚えて、僕は考えを止めた。
「そろそろ行きましょう。源も回復したみたいですし」
「なんとかな」
「じゃ、いこっか」
僕たちはまた、街に繰り出していった。
ーーーーー
「さて、おめーは何でここにいる?」
「泊まるからよ」
「さも当然かのような顔してんじゃねぇよ」
「ずいぶん突然ですね」
彼女は着替えの類いを持ってきていなかったが、必要なものはさっき買ったらしい。
確かに、ランジェリーショップに連れ込まれて、居心地の悪い経験はさせられたが。
「いいから、今日は泊まるの」
桜良は強引に扉を開け、僕たちの家に突入した。
そして、ケンさんがまだ帰っていなかったため、静かな我が家にずかずかと入って、リビングに自分の荷物を置いてしまった。
「いやお前さ、一応俺たちも男なんだが?」
「なによ、あんたあたしを襲う気でいるわけ?」
「するわけねーだろ、バカ」
「じゃあなにも問題ないじゃない」
ここで僕に確認が取られなかったのは、僕を信頼しているからという意味でとっておこう。
決して僕が意気地無しだからとか、そういう訳じゃないはずだ。
きっと。
「僕は構いませんよ。昔はお泊まり会的なものも、よくやったじゃないですか」
「そりゃだって、まだガキだったからじゃねぇか・・」
「いいから、ケンさん帰ってくる前に晩御飯の支度しちゃうわよ! 手伝いなさい!」
「はーい」
「しゃあねぇな、まったく」
いつもより賑やかな夜になりそうだと、僕はそう思った。




