古本屋街デート
待ちに待ったゴールデンウィークがやって来た。
課題の量は大変多いが、少し前に配られていたので、隙間時間を駆使して1日目に終わらせた。
そして2日目。
「おはようございます、百田さん、部長、阿川先輩」
「おはよう、甲本くん」
「はよー」
「おはよう・・ございます」
今日は、文芸部の親睦会(?)的な日だ。
親睦会なのに、斉田先輩は締め切りが近いから、三國先輩は外に出るのが苦手だから、という理由で休んでいる。
「うーん、その阿川先輩って、なんか重くない? ひなのでいいよ?」
「そうですかね?」
「じゃあ、私も陽子でよろしく!」
「あの・・理子で、いいです・・」
「それじゃあ、出発!」
「おー!」
なにか言う間もなく、押しきられてしまった・・
今日は、本屋街として名高いJ町での、古本屋巡りなど、本を探すことをメインにしているらしい。
僕たちは電車に乗り、雑談しながら都内を目指す。
「三國先輩って、学校には来られるのに、こういうのはダメなんですか?」
「あ、常世ちゃんも常世で良いと思うよ。・・えーっと、彼女は、人混みが苦手っていう方が正確だね。都心に近づけば自然と人は増えちゃうし、それを考えての休みだと思うよ」
「常夜はインドア派を極めてるからねー。あ、でもおすすめの本は教えてもらっといたよー」
ひなの先輩は、対照的にアウトドアの方が行けそうな雰囲気だが、常世先輩とは意外に仲がいいらしい。
根っこの部分が本好きだからこそ、一見違うタイプでも友情が生まれるんだろう。
「勇太くんさー、異性と出掛けたときに言わなきゃいけないこと、忘れてないー?」
いつの間にか、先輩からの呼称も、下の名前になっている。フレンドリーだなー、と思いながら、言わなければならないことを考えた。
しかし、言わなければならないこと、と言われても、すぐには思い付かない。そもそも異性と言っても、桜良とくらいしか出掛けたことはない。
ひなの先輩はニヤニヤしている。
こちらをからかう気満々ということから、僕は言わなければならないことに思い至った。
「先輩方も、理子さんも似合ってますよ」
陽子先輩は、白いひらひらが付いたブラウスに、薄い青のパンツ。
ひなの先輩はオレンジのキャップに、同色のワンピースを着用し、上から黒のジャケットを羽織っている。
理子さんは、ピンク色のスカートに、チェックのシャツを合わせている。
誰も似合っている。
特に理子さんは、いつもより少し派手な印象で、新鮮だった。
「ありがと」
「ちぇ、思い付いちゃったか。少しは恥ずかしがればいいのに」
陽子先輩は大人の対応を、ひなの先輩は露骨に残念そうにしている。残りの1人はというと、
「あ・・あぅ・・あぅぅ・・名前呼び・・うぅ・・似合って・・似合ってる・・うぅ・・」
何故か顔を真っ赤にし、いつにも増して言葉足らずになっていた。
「えっと、理子さん?」
「あぅ・・」
「ふ~ん、もっと面白いこと、見つかっちゃったねー」
「ふふ、なるほど。常夜ちゃんにも言っておかないとね」
女性陣は何か察したらしい。僕にはわからないが。
まあ、悪い「匂い」はしてこないし、僕がやらかしたというわけでもなさそうだ。
「本当に、大丈夫ですか?」
そっと肩に手を置くと、
「ひぅ!」
と飛び上がってしまった。
やらかしてないはずだが。やらかしてない・・よね?
ニヤニヤ笑っている先輩方と、ショートしてしまった理子さん、その間でおろおろする僕を乗せて、電車は都内へ入っていった。
ーーーーー
「いやーいつ来てもいいとこだねー、この街は」
「わぁ・・」
「すごいですね。これ全部本屋さんですか」
「そうなの! ここは日本1の本屋街なんだよ!」
電車を降りて、通りの両側にずらりと並ぶ本屋さんを見る頃には、理子さんも回復していた。
そこに着くやいなや、ひなの先輩はふらふらと古本屋に吸い込まれていき、部長はしっかりした足取りで、通りを進んでいってしまった。
「えっと・・どっちに着いていけば・・いいんですかね?」
「うーん、2人とも自由に行っちゃってますね」
僕がどちらに着いていこうか悩んでいると、理子さんが、少し逡巡する素振りを見せた後、
「嫌だったら・・いいんですけど・・私も・・ここには来たことがあるので・・2人で周りませんか・・?」
「嫌じゃないですよ。そうですね、そうするのがいいかもしれませんね」
僕たちはこうして、本屋街を2人で周ることにした。
よくよく考えればデートみたいで、少し気恥ずかしくあったし、実際遭遇したひなの先輩に煽られたが、楽しかったので良しとしよう。
ちなみに、後輩を置き去りにして、ふらりといなくなってしまったことを、遠回しに皮肉ることで、先輩には仕返しをしておいた。
理子さんは、顔を真っ赤にして、必死に否定していたが。
まあ好きでもない男とそういう勘違いをされるのは、愉快なことではないだろう。
桜良だったら拳が飛びかねないし。
いや、もしかするとそういうことなのかもしれないが、出会ってそんなに時間もたっていないし、僕だけ勘違いして空回りしそうなので、彼女が僕に気があるだとか、そういう自意識過剰な真似は自重しておくことにする。
正直言うと、恋愛感情に近い、好意の「匂い」を感じてしまったのだが。
筆者は黒い服しか着られないファッション弱者なので、登場人物のコーディネートを考えるのが大変です。




