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ただ、平和な毎日を過ごせるだけで  作者: リア狂
第一章 日常
17/23

入部

 合宿から帰って来た僕たちは、すぐそこに迫ったゴールデンウィークに心を踊らせながら、毎日を過ごしていた。


「今日も放課後は、部活動見学よ。いろいろ見て回る分にはいいけど、今週中に入部届けを出しなさいよ」


 帰りのホームルームで、桜良がそう呼び掛ける。僕は今のところ、文芸部と吹奏楽部の見学に行っていた。


「甲本くん・・今日も、文芸部・・行きますか?」


 帰りの用意をしていると、百田さんがやって来た。彼女とは、昨日一緒に文芸部の見学に行ったのだ。

 ふと、後ろの方に目を向けると、風間さんと桜良が談笑しているのが見えた。

 風間さんとは、距離を置こうと決心してからも、桜良につられて一緒に帰る日が続いている。

 そこでの会話では、彼女は吹奏楽部に入ることを考えているらしく、今日そっちの見学に行けば、一緒になれるかもしれない。


 そんな思考に至ってしまってかは、かぶりを振って百田さんに同意を伝える。

 未練がましいようだが、御影くんと付き合っている彼女に、これ以上恋い焦がれても虚しいだけだと思い直したのだった。


 ーーーーー


「失礼します」

「失礼・・します」


 文芸部の部室に入ると、読んでいた本から顔を上げた部長さんが、声をかけてくる。


「いらっしゃい、甲本くん、百田さん。今日も来てくれたんだね」


 3年生の部長さんは、ショートボブの黒髪に、目元に泣き黒子のある女性だ。

 2年しか違わないのに、僕たち1年生と違って大人びていて、落ち着いた方という印象だ。


「井伏先輩、今日も見学していってよろしいでしょうか」

「当然。歓迎するよ」


 井伏部長は、ハードカバーに栞を挟み、給湯スペースに向かった。

 この部屋には、部長以外に3人の部員がいる。

 3年で副部長の斉田翔先輩、2年の三國常夜先輩、同じく2年の阿川ひなの先輩だ。

 斉田先輩は原稿用紙を前に唸っているし、三國先輩は床まで届く長髪で顔が見えないし、阿川先輩は校則違反の金髪を机の上に広げて居眠りしている、ここ文芸部はそんな自由な部活だ。


「おまたせ。紅茶でよかったよね?」

「ありがとう・・ございます・・」

「すみません」


 僕たちが紅茶の入った紙コップを受けとるのを見届けて、部長はパン! と手を鳴らした。


「1年生も来たところだし、始めるよー」

「ふわぁ・・あーおけ、やるか」

「仕方ない、気分転換がてら付き合ってやろう」

「・・・」


 三者三様の受け答えをしつつも、先輩方はみんなやっていたことを一旦終わらせ、本を持って机に向かう。


「えーっと、じゃあこれから、第2回新勧ビブリオバトルを始めまーす」


 この部活は、活動時間内で、好きな本を読んでいても、勉強していても、寝ていても、小説を書いていても良いのだが、月に1度行われる、ビブリオバトルに参加することが義務なのだという。

 実際、普段の活動こそバラバラで、今も乗り気じゃなさそうな態度だが、先輩方は皆、ビブリオバトルが大好きらしい。


「じゃあ今日は常夜ちゃんからスタートね!」


 新入生勧誘週間である今週は、1年生が来た日は毎日これをやる予定らしい。だから、僕たちがこれを見るのは2回目なのだが、昨日と全く違う本を持ってきた先輩方のプレゼンに、引き込まれてしまった。


「どうだった? ビブリオバトルは」

「とても楽しそうだと思いました」

「でしょでしょ! ここにいるのは皆、ビブリオバトルにとりつかれちゃった人たちなんだよ!」

「でも・・難しそう・・です」

「最初はねー。でも、慣れてくるとやるのも楽しいし、聞くのも楽しくなってくるんだ」


 井伏部長は、そのあともビブリオバトルがいかに楽しいか、というのを語った。

 それは、聞けば聞くほど奥が深そうで、僕の興味は強くなっていった。


「それで・・ちょっと気が早いけど、入部してくれる気には、なったかな?」


 僕は少し思案する。

 ビブリオバトルは大変面白そうで、是非参加したいのだが、他にもやりたいことはある。

 そこで、普段の活動の自由さに甘えて、1つ質問をしてみることにした。


「1つ聞きたいんですが、ビブリオバトルに参加さえすれば、兼部も認めてもらえたりするんですか?」

「オールオッケーだよ。月1のビブリオ以外は、完全自由がモットーだからね」

「それじゃあ、入部したいと思います」

「やったぁ! 新入部員ゲット! じゃあ、百田さんはどう?」

「私も・・甲本くんが・・いるなら・・」

「ありがとう! 改めて、文芸部へようこそ!」


 まだもう1つの部活は決めていないが、ここだけでも、楽しい学校生活になりそうな予感がした。


 ーーーーー


 その日の帰り道。いつも通り僕は、源と桜良、それに風間さんと一緒に駅までの道を歩いていた。


「へぇ、勇太は理子ちゃんと一緒に文芸部かぁ」

「そういう桜良は料理部にしたそうですね。昔から料理、好きでしたもんね」

「そうね。料理部があってよかったわ」


 桜良は、言動などから粗雑に思われがちだが、女子力が高い。

 源と一緒に手料理をご馳走になったことがあるが、そのときすでに、結構な腕前だった。


「風間は吹部だったな」

「意外ですか?」

「いーや、むしろぴったしだな」


 そういう源はバスケ部にすると言っていた。

 4人ともバラバラだが、好きなことをやれそうな部活に入ることができたみたいだった。


 まあ、僕は文芸部と吹奏楽部を、兼部しようかとも考えていたが。

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